第23話 開戦 ~始まりは最後の魔法から~

ファイヤーリザードの調査は終了した。

グランが言っていた。

オルドラへの魔物の襲撃は明日だ。

間に合うかどうかは解らない。

出来るだけの事はしようと思う。

急いで野営地まで戻る。



~野営地~


・「ダン、居るか?」


野営地に戻るなり直ぐにダンを探す。

幸いな事にダンは野営地に居てくれた。


・ダン

「裕樹殿?どうしました?」


俺は急いで調査報告を済ませる。

事情を話してオルドラに戻る事を伝えた。


・ダン

「オルドラ襲撃の話は本当ですか?

本当だとしても明日までにオルドラ王国に戻る事など不可能ですよ?」


距離的に考えればそうだろう。

だが、間に合わせなきゃいけないんだよ。


・「一か八か全力で走り抜けてみる。」


それしか方法が無いのだから仕方がない。


・「悪いな、オシナガに宜しく言っておいてくれ。」


報告をダンに任せた俺はハナを抱きかかえる。

少し懐かしい感じがするな。


・「しっかりと掴まっててくれ。

今回は本気で行く。」


襲撃までに間に合うのか自信が無い。


・ハナ

「大丈夫、裕樹なら出来るよ。」


そんな弱気な俺を見て励ましてくれる。

そうだよな、やるしかないもんな。


・「『魔闘衣』全開!」


燃費とか気にしていられない。

一気に駆け抜けるぞ。


俺はハナを抱えたまま飛び出した。

常人には考えられないようなスピードで。


・ダン

「し、信じられないスピードだ。

これならひょっとして、、、

いや、オルドラまでの距離を考えると。」


マデオ火山からオルドラ王国まで、普通の道を行くと6日は掛かる。この距離をあのスピードを維持したまま走破できるとは思わない。


・ダン

「裕樹殿、、、御武運を。」


しかし信じられずにはいられない。

調査団が1匹倒すのに苦労していたファイヤーリザードを、たった二人で数十体と倒してきたのだ。

常識では測れないだろう。

ダンは裕樹を信じる事にした。



~オルドラ王国『国土門』~


・ライル

「なぁバルドロスト、どう思う?」


王国騎士団をまとめるライルは司令官であるバルドロストに聞いてみた。


・バルドロスト

「今の所、魔物の魔の字も出てこんな。

情報が真実かどうか眉唾物だ。

と、普通なら考えるだろうな。」


今の所、魔物の目撃報告は入っていない。


・ライル

「妙だよな、今日襲撃があるのなら魔物の群れの報告があってもおかしくない。」


確かにライルの言う通りだろう。


・ライル

「だが、、、静かすぎる。」


・バルドロスト

「お主も気付いたか?

これ程おかしな現象も無いだろう。」


国土門周辺に展開された軍。

王国周辺には少なからず魔物がいる筈だ。

なのに一匹も見当たらない。

異常な状態だと言える。

そこに気付ける人物はそう多くないだろう。


・ライル

「他の防衛カ所も同じかねぇ?

だとしたら結構な規模で襲って来るかもな。」


・バルドロスト

「ここまで周到に準備しているのだ。

恐らく襲撃は夜。

闇に紛れて行われると見た。」


・ライル

「同意見だ。」


二人が笑みを交わす。


・ライル

「左翼はギルドの連中に任せて大丈夫か?

氷鬼姫は『南海門』担当なんだろ?」


・バルドロスト

「お前の弟が間に合ったらしいぞ。

だから戦力的には問題ないそうだ。

寧ろ我々の心配をしてきた程だ。

お手並み拝見と行こうじゃないか。」


『国土門』防衛網

左翼 ギルド部隊

右翼 ライル率いる王国騎士団

中央 バルドロスト率いる王国軍

となっている。


・ライル

「んじゃそろそろ持ち場に戻るわ。

バルドロスト、死ぬなよ?」


・バルドロスト

「貴様こそ、死ぬでないぞ。」


拳を重ね別れる二人。

もうすぐここは戦場になる。

静かすぎる現状が物語っている。

二人は闘志を燃やしていた。



~『国土門』左翼~


・ドンク

「ったく、鉄製品の製造で疲れてるってのに最前線に駆り出されるとは思わなかったぞ。」


ぶちぶち言っているギルド員ドンク。


・サリーヌ

「仕方ないじゃない、これもお仕事よ。

さっさと魔物を倒しちゃえば休めるわよ。」


戦闘用にしては露出が多いサリーヌ。

相変わらずくねくねしながら話している。

しかしその肉体は鋼の様に固い。

戦闘服と言うより筋肉が鎧みたいなものだ。


・サリス

「ミミさん、一人で突撃しないようにね。」


サリスの心配は一つだけ。

ミミが突貫してしまう事だけが怖い。


・ミミ

「大丈夫だって!」


ミミは明るく返す。

それがまた一段と恐ろしい。


・ハリス

「大丈夫だよセリスさん。

俺が皆を守って見せるから」


魔物の襲撃を聞いて直ぐに呼び寄せた人物。

王国騎士団団長ライルの弟。

ハリス・グランツ・ランバートである。

彼は初代勇者から聖剣を譲り受けた人物だ。


・サリス

「今回は各区域のギルドも出撃してる。

余程の大規模戦闘が予想されるわ。

単体で動く事は禁じます。

必ず2~4人PTで行動してください。」


しっかりと念を押すサリス。

出来れば誰一人死んでほしくない。

しかし戦場に絶対はない。

気を引き締めなければ、、、


・ミミ

「ね~、魔物って本当に来るのかな?」


・ハリス

「さぁ、どうだろうね?

俺は到着したばかりだから良く知らないが。」


・サリス

「王国周辺がおかしいの、静かすぎるわ。

何者かが手を加えているとしか思えない。」


サリスはしっかりと異変に気付いている。


・サリス

「恐らく襲撃があるなら夜ね。

でも今からしっかりと気を引き締めててね。」


バルドロスト達と同じ読み。

左翼も準備万端の様だ。


もうじき日が暮れる。

決戦の時は近い。



~オルドラ城~


・オルドラ王

「もうじき日が暮れるか、、、

皆の物、頼んだぞ。」


王は祈る他ない。

彼はライオットが使えるマップ機能の一部を使えるようにして貰っている。

マップを開き全体の様子を伺う事にした。



~『国土門』防衛隊~


・兵士1

「まったく、夜になったじゃねぇか。

今日も襲撃なんてないんじゃねぇか?」


・兵士2

「そうかもしれないな。

適当に調査したら戻って酒でも飲もうぜ。」


・兵士3

「大体、こんなに頻繁に調べる必要あるか?

魔物の軍勢なら遠くから見てればいいじゃねぇか。

何の為に監視台があるんだよ。」


3人の兵士が愚痴をこぼしている。

バルドロストは3人一組の調査隊を10組程展開させて周辺を探っていた。

兵士の言う事も一理ある。

しかし思いもよらない方法で攻められた時に「対応が出来ませんでした」では済まされない。

その為、絶えず監視の目が行き届くようにしていたのだ、そしてバルドロストの読みは的中する。


・兵士2

「あん?何だ?」


兵士が人影を見付けた。


・兵士1

「女?」


どうやら女性が一人で歩いている。

しかし歩き方がおかしい。

怪我でもしているのだろうか?


・兵士1

「おい、大丈夫か?」


兵士が女性に問い掛けながら近ずく。


・女性

「ぅぁぁぁぁぅぁ」


言葉にならない声を発している。


・兵士3

「何だ?どうしたんだ?」


不思議そうに覗き込む。

顔色が悪い。


・兵士2

「と、とりあえず保護だ。

しかし何処から来たんだ?

ここら辺一帯は数日前から封鎖対象なのに。」


そう不思議に思った時だった。


・女性

「うあああああああああ!」


突然叫び出す女。

姿が、、、変わっていく。


・兵士1

「な、、、、、なんだ?」


確かに人間だった。

兵士達は確かに女性を見ていた。


しかし、女性が叫んだ瞬間。

魔物に変化した。


・兵士1

「いったいな、、、、」


兵士の声はそこで途絶えた。

首から上が無い塊が崩れ落ちた。


・兵士2

「うわぁぁぁぁぁ!」


残った兵士2人が逃げ出す。

しかし魔物は追いかけてきた。


・兵士3

「くそ、先に行け。

ここは俺がくい、、、、」


また、声が途切れた。


・兵士2

「そんな、、、そんな、、、」


兵士2は無我夢中で空中に魔法を放つ。

彼は火魔法を使えるのだ。

お陰で色々優遇されてきた。

子供の頃から将来を期待されて育ってきた。

貴族の三男として生まれた彼。

家を継ぐことはできない。

だから兵士として名を上げようと思った。


そんな彼の最後の魔法が空に打ち上げられた。

そして、人知れず息絶えた。


彼の魔法は全ての兵士に緊張をもたらす。


・伝令

「報告、『国土門』調査圏内より魔法を確認。」


・バルドロスト

「来たか、、、

全軍出撃、防衛線を張れ。

一匹たりとも通すな!」



~『国土門』右翼~


・ライル

「おいでなすったか。

騎士団、剣を抜け。

一匹残らず駆逐するぞ。」



~『国土門』左翼~


・サリーヌ

「サリスちゃん、来たわよ。」


・サリス

「最終確認、PT行動を厳守。

うかつな深追い禁止。

出来るだけ遠距離から撃ち払いなさい。

魔法迎撃部隊、敵を目視したら照射。」


サリスの大きな声が響き渡る。

他のギルドでも同じ様な言葉が飛び交う。

そして死闘が始まる。



~オルドラ王国上空~


・グラン

「遂に始まったか、、、

んで、君達はいつ頃攻める予定なんだい?」


何もない空間に話しかけるグラン。

すると空間が歪み始める。


・???

「小僧、何故解った?」


・グラン

「何故って言われてもね。

アンタの魔力が駄々洩れじゃん。

そんなんじゃバレバレだっての。」


ニヤニヤしながら言い放つ。


・???

「ふん、何者か知らぬが褒めてやろう。

我が名は、、、」


・グラン

「あ~、名乗らなくていいよ。

聞く必要もないだろうしさ。

さっさと隠してる部下どもと一緒に、、、

死にに来いよ。」


グランの表情が変わる。

名乗りを邪魔された魔族は怒り狂う。


・???

「このクソ人間が。

人間如きが粋がってるんじゃねぇ。」


魔族の魔力が膨れ上がる。

オルドラ上空の空間が歪む。

すると無数の魔物が姿を現した。

その数、約200。


・???

「どうだ、驚いただろう?

貴様はこいつらに食われて死ぬ。

何か言い残す事があったら聞いてやろう。

どうだ?俺様は優しいだろ?」


・グラン

「僕を人間だと言ってる時点でお前の負けだ。

いいから、さっさと掛かって来いよ。

雑魚もまとめて殺してやる。」


グランはこれでもかと言うくらい挑発する。

ここで間違えれば大惨事になる。


・???

「ぐぬぬぬぬ、クソ生意気なガキが。

良いだろう、そんなに死にたいなら。

殺してやる!」


魔族の合図で魔物が一斉に襲い掛かってくる。

そうやら上空の魔物はこの魔族の言いなりだ。

地上とは違い純粋な魔物なのだろう。

上手く挑発が成功した事に胸をなでおろす。


数百の飛行能力を持つ魔物がグランを襲う。

その光景はまるで地獄絵図だ。

逃げ惑う一人の少年。

追う数百の黒い影。

それを眺めながら笑う魔族。


それぞれの戦いが始まろうとしていた。

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