第22話 調査を終えて

次の日は朝早くから出発した。

目指すは山頂付近だ。


俺とハナはズンズン進む。

実は昨夜、ある事に気付いた。

昨日、リザード討伐した後の帰り道に魔物と遭遇しなかった。たまたま魔物が居なかったのではなくリザードの血の匂いから遠ざかっていたのではないかと考えた。

どうやら思った通りだったようだ。


・ハナ

「今日は魔物が寄って来ないね。

昨日はあんなに居たのに。」


・「明らかにこの血から避けてるな。

無駄な体力を使わなくて済むから助かる。」


2人は順調に歩を進める。

そして問題の8合目付近に到着。


・「そろそろお出ましになる頃合いだな。」


裕樹はハナに警戒するように伝える。

そしてファイヤーリザードが現れる。


・ハナ

「次は私がやってみる。

裕樹は援護して。」


俺はハナの提案を飲む。

どれだけ通用するか見てみたかったからだ。


『魔弾・剛』


ハナの魔法が放たれる。

ファイヤーリザードの風下からの攻撃。

視覚と聴覚で感知するリザードは気付かない。

そしてハナの遠距離攻撃が命中する。


ドサ


ハナの魔法はリザードの頭部を消滅させた。


・ハナ

「私の魔法でも討伐できる。」


最近少しづつ自信が付いて来たハナ。

努力が結果に結びつくと嬉しいよな。


魔力操作の特訓は欠かさずに行っている。

お陰で魔弾の威力は日々増しているのだ。


・「流石だなハナ、これでお互いソロで狩れるという事が判明した。」


オシナガがあれ程警戒していた魔物だから正直ビビっていたが、これなら何とかなりそうだ。

5割ほどの『魔闘衣』で十分だろう。


・「ここからはお互いの位置を確認しつつソロで狩る事にする。複数いる場合は合図して合流、2人で倒すぞ。」


ハナは頷く。

裕樹に認められて嬉しかった。

その後は2人の無双が始まる。

時間が経つにつれリザードが倒されていく。

その数51体。

2人でこの数を討伐出来た者は居ないだろう。

この2人も既に規格外の強さになっていた。


昼になり、少し休憩する事にした。

現在9合目を超えた所だ。

目視で確認できるリザードは討伐しておいた。

残りは頂上付近だけだ。


・ハナ

「このまま全て討伐するの?」


・「いや、オシナガは間引きと言っていた。あまり減らしすぎるとウルフ系の魔物が増えすぎる可能性が考えられる。」


何事もバランスが重要だしな。


・ハナ

「凄いね、そんなこと考えてたんだ。」


・「それで正解なのかは知らないがな。」


正解なんて無いのかもしれない。

俺達は昼からもリザードを狩る。

ある程度倒した後は戦わなように心掛けた。

そして頂上に到着する。


・「火口がある、、、流石火山だ。」


頂上にはポッカリと空いた空間がある。


・「富士山の火口を思い出すなぁ。」


懐かしき元の世界。

母さんと父さんは元気にやってるかな?

俺の分身はしっかりやってるか?

神はちゃんと約束を守ってくれてるだろうか?


・「考えても仕方ないか。」


結局は任せるしかない。

とりあえず今は俺の出来る事をしよう。


・ハナ

「頂上付近のリザードはサイズが小さいね。」


ハナが気付いた事を発言する。

確かにこの辺りのリザードは小さい。

小さいと言っても俺と同じくらいだ。

結構デカく感じるんだけどね。

変異で更に大きくなった個体が単体で行動していた。そう考えれば良いか?

調査団の間引きが不完全だと変異体の数も増えてバランスが少しずつ崩れていく、そう伝えれば依頼達成だろう。


・「これで依頼達成でいいか。」


・ハナ

「そうだね、大成功で良いんじゃないかな?」


ハナも俺と同じ意見だ。

一応帰りも大きな個体を見かけたら狩ろう。


・「下山しながら散策を行う。

大きな個体を見かけたら討伐だ。」


・ハナ

「はい。」


俺達は山頂を後にする。

はずだった、、、

帰ろうとした瞬間、嫌な予感がした。


・「ハナ、、、、動くな。」


・ハナ

「え、、、?」


ハナは気付いていない。

薄い、、、気配?

逆だな、気配がない。

無さすぎるんだ。

そこの空間が無くなっている感じだ。


敵意や殺意はない。

俺達を監視している?

いや、先程までは無かった感覚だ。

突然現れたのか、意図的に俺に分からせたのか、どちらにしても計り知れない存在だ。


、、、、戦ったとして勝てるか?


・ハナ

「どうしたの?裕樹」


・「俺の傍から離れるな。」


俺はハナと謎の空間の間に立つ。

急激な動きがあれば即逃げる。

それまではうかつに動くのは危険だ。

向こうの出方を伺おう。


・???

「思ったより慎重なんだね。」


やはり何者かが居た。

謎の人物が姿を現す。


・???

「やっと見つけたよ、裕樹君。

僕の名はグラン。

君に助けを求めてやってきた。」


俺が助ける必要があるのか?

とりあえず話を聞いてみるか。


・ハナ

「この子、裕樹の知り合い?」


・「いや、初めて見る奴だ。」


ハナは子供の姿をしているグランを見て少しだけ警戒が緩んでいる、殺意も敵意も感じられないから同然か。

しかし、子供がこんな所に居るのはおかしいだろ?少しは警戒してくれ。


実際、ハナは抜けている所がある。

そんな所が可愛いと感じるけどね。


・グラン

「そんなに警戒しないでよ。

一応、君達の味方なんだからさ。」


陽気に話しかけてくるグラン

一応言っておくが俺はこいつが怖い。

まるであの時の様だ、、、


当然だ、、、こいつも魔族。

見た目は人間だが、俺には解る。

あの時と同じ感覚だ。


・グラン

「感覚だけでバレちゃうんだね。

悪く思わないでね、信じて貰いやすいと思ってこの姿にしたんだ。

折角話し方も練習したんだけど、君の前では普通にした方が良いみたい。」


そう言うと姿が変わる。

子供から大人の姿へと変貌する。

見た目は28歳前後か?

実年齢はさっぱりだがな。


・グラン

「実年齢は内緒だ。

と言うか忘れた。

歳の事などどうでもいい、俺がここに来たのは君に伝えたい事があったからだ。」


本当の姿を見せたグラン。

ハナが俺にしがみ付いてくる。

当然だ、、、

姿を現した途端、魔力が溢れ出ていた。

凄まじい量の魔力が。


・グラン

「これでも抑えているのだ、この姿になるとどうも気が緩んでな。

あんまり怯えないでくれお嬢ちゃん。」


無理な注文だ、だって俺も怖いもん。


・「んで、グランさんは俺にどうしろと?」


ダメだ、戦っても勝てん。

素直に話を聞く以外は何も思い浮かばん。

一応下手に出ておくが、ハナに危険が及ぶのならば全力でこいつを倒す。

刺し違えてもな、、、


・グラン

「そう警戒されると話が進まない。

やはり子供の姿の方が良いな。」


再び変身するグラン。

まるで心を読んでいるかのような独り言だな。

的確にこちらの心情を読んでくる。

敵にしたくはないな。


・グラン

「僕もそう思ってるよ。

君達とは味方で居たいもんだ。

とりあえず本題に入ろう。

明日、オルドラ王国が魔物に攻められる。

急で悪いんだけど助けてもらえないかな?」


とんでもないこと言いやがった。


・「お前が何かするのか?」


・グラン

「まぁまぁ、落ち着いて。

何回も言ったでしょ、味方だって。

僕はオルドラ王国を守りたいんだ。

それで君達には『国土門』を守ってほしい。

ここの敵がどうしても多すぎてね。

一応ギルドと国軍の殆どを当てるつもりなんだけど、このままじゃ負けそうなんだよね。」


・「そりゃ不味いな。」


・グラン

「信じてくれる気になったみたいだね。」


・「正確に言うと信じるしかないと思っただけだ。敵対する意味も、この場面で嘘をつく必要もないだろうと考えた結果だ。」


最初「やっと見つけた」と言っていた。

実際にここまで俺を探しに来た事。

その事実が物語っているだろう。

こいつのいう事は90%くらいで真実だ。


・グラン

「残りの10%が気になるね。

まあいいや、『国土門』防衛を任せて良い?」


心を読まれていると考えても良いな。

色々詳しく聞きたい所だが、どうする?

何かやたらと急いでる感じがするし。


・グラン

「そうなんだ、ちょっと急いでてね。

本当ならしっかり説明したいんだけどさ。

ちなみに他の門の防衛は心配ないと思う。

『国土門』だけが心配でね。」


・「一つだけ教えてくれ。

何で俺なんだ?」


・グラン

「簡単だよ、魔族と戦える戦力が欲しい。

ライルもオーランドもナナも手が回ら無い筈だ。

全てを守るには魔族と戦える人が必要なんだ。

『国土門』には複数の魔族が現れる。

倒せる可能性がある人物は限られてだろ?

それは向こうも調査済みだろう。

だから向こうの知らない切り札が欲しい。

君にはその切り札の役割をして欲しいんだ。」


魔族、、、聞くだけで恐怖が蘇る。

あいつらが複数だと?

もしもそれが本当なら、ライルがやばい。


・グラン

「詳しく話せなくて申し訳ない。

僕はもう行かなきゃ。

僕を魔族と認識して恐怖が増幅していたね。

直接戦ったことがあるのかな?

君が魔族を恐れているのは解った。

だから無理にとは言わない。

君の判断に任せる事にしよう。」


グランが消えた。

言いたいこと言って去っていった。

目の前から消えるってどんな魔法?

魔法なのかすら解らない。


・ハナ

「裕樹、、、どうするの?」


・「全てを信じる訳じゃないが、無視できる事でもない。調査はここまでにして至急オルドラに戻る。」


そう、何もなければそれでいい。

常に最悪の事態を想定して動くんだ。


魔族と闘うのか、、、

あの時より少しは強くなっている。

更に『魔闘衣』も使えるようになった。

通用するのかは解らない。

だが、逃げるわけには行かない。


ライル、お前との約束を果たす為。

俺はオルドラに戻るぞ。

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