第11話 奴隷解放作戦 脆い心を震わせて

・護衛達

「侵入者だ、殺せ!」


小屋の奥からゾロゾロと出てくる。

よし、全員出て来たな。

ヤードまでいるじゃないか、、、

俺がナイルだと知られるとヤバい。

アイツからだ。


『フラッシュ』


小屋全体が眩い光に包まれる。

その光の中を閃光の如く駆け抜ける影がある。

影が通った道に居た人間が為す術なく死んでいく


・迷うな、

一振りで絶命させろ。

数が多い、残したら不利になる。

甘さを捨てろ。

これは戦争だ。

殺さなければ、死ぬだけだ。

死んで、、、、たまるかぁぁぁぁ!


裕輝の叫びと護衛達の断末魔が響き渡る。

そして、、、


・ヤード、、、

貴様は、、、死ねぇ!


ザシュッ


ヤードと呼ばれていた人間が、

ただの肉の塊となる。


・はぁはぁはぁ、

護衛13、ヤード、護衛の魔物が4体。

魔物以外は、朝に確認した人数だ。

これで小屋は制圧出来た筈だ。


俺は奥の牢屋へと進む。


・そうか、今夜お披露目んだったな。

良かった、、、


そこには普通の服を着ている奴隷達が居た。

こちらを睨む者も居れば目を伏せる者も居る。

だが、どうやら酷い事はされていないみたいだ。

俺は安堵のため息をする。

しかし、、、


・どうやって屋敷まで誘導する、、、

俺の話を聞いてくれるか?

いや、人間の話など信じないだろう。

何も考えてなかった、、、

くそっ、どうする


・ハープ

「全く、策を講じるには詰めが甘い。

だが、見事な撃退方法だったな。

自分を強盗だとした点は褒めてやる。」


・ハープ?

何故ここに、、、?


・ハープ

「作戦を聞いていた時から、こうなる事はわかってた。

人族の話など信じる獣人はいないだろう。

移動させる手段が思い浮かばない、、、

違うか?

だから助けに来てやった。」


・、、、すまん。

俺は、浅はか過ぎた。

助かった。


・ハープ

「ふん、人族が深く考えて行動するかよ。

私はそんな人族が大嫌いだ。」


・そうだな、、、

すまなかった。

悪いが、獣人の方達を案内して貰えるか?」


・ハープ

「私は人族の言う事など聞かん。

、、、、だが、お前の話なら聞いてやろう。

裕輝、後は任せろ。」


俺は顔を上げてハープを見る。


・ハープ

「初めて人を殺したか?

気付いてないだろう、、、お前泣いてるぞ?」


・えっ?

あれ、、、あれっ?

なんで、、、

何でだ?


・ハープ

「、、、、助けてくれた事、礼を言う。

厳しいことを言うが、まだ終わっていない。

涙はそれまで我慢してくれ。」


・、、、やはり俺はアマちゃんだ。

ハープ、誘導を頼む。

屋敷に着いたら俺は更に暴れる。


・ハープ

「わかった、、、

お前に、賭けてみよう。」


ハープは奴隷達を屋敷に移す。

そして俺は、、、

まず牢屋小屋を燃やした。

更に大きな音を立てる為に馬車をブン投げて騒ぎを起こす。

すると、町の兵士達がゾロゾロとやってくる。


・さぁ、

パーティーのはじまりだ。


俺は剣気を飛ばし、数人の兵士を斬り伏せる。

すると、兵士たちは次々と援軍を呼び、部隊がいくつか出来上がる。

その部隊が陣形を組みゆっくりと進んでくる。

その先には1人の男。

勇者、裕輝が立ち塞がっている。


・まさか、最初に人の軍と戦うとは、、、

魔族を滅ぼす為に来たってのによ。

人生ってのは何が起こるかわからないもんだ。

さぁ、始めようか、、、


裕輝は、敵陣形の中に1人突っ込んで行く。

同じ種族の人間を斬り殺す為。

だが、既に迷いはない。

ただ、目の前の敵を斬り伏せる、、、

それだけを目的として、剣を振るう。

1人の修羅がそこに居るだけだった。


・ふっ!


横なぎに剣気を纏わせ範囲を広げる。

これにより一振りで数人を斬り伏せれる。


『フラッシュ』


もう一度、目潰しを行う。

初見の奴ならまず引っかかるだろう、、


・このチャンスを逃すな!


裕輝は走る速度を上げ、一部隊、また一部隊と斬り刻んでいく。

迷わずに急所を狙う。

一撃必殺、そんな剣の軌道を走らせる。


ドササ


一瞬の内に2つの部隊が全滅した。

その近くには周囲が赤く染まり、自身は返り血を浴び、紅く染まりつつある姿で立ち尽くす。


・兵士

「お、、、鬼だ、、、。」


誰かが、そう言った。

だが、、、、

その言葉を聞いた人間は次の瞬間死んだ。

裕輝は止まらない。

既に何十人もの兵士を斬り殺している。

兵士たちの士気が落ちる。

逃げ腰になり、逃げる兵士も出てくる。


・逃げたい奴は逃げろ。

その場に留まる奴は死を覚悟しろ。

5秒だけ待つ。

5秒後、そこにいる奴は死ぬと思え!


裕輝が叫ぶ、、、

すると兵士達は我先にと逃げ出して行く。

だが、、、


・???

「兵士が逃げるなぁ!」


やたらとデカイ奴が前に出てくる。

隊長クラスか?


・バーボン

「我が名はバーボン!

強盗だと聞いて来てみれば、なかなか骨のある奴ではないか!

いざ、尋常に勝負だ。」


・断る!

ただ死んでいけ!


俺は一瞬で間合いを詰め、一気に斬り刻む。

剣気の斬撃の雨も降らせてやる。

すると、バーボンと名乗っていた人間の原型すら消え去ってしまう。


・まだ俺と闘いたい奴はいるか?

俺は逃げない、かかって来い!

戦わないのなら、さっさと逃げやがれ!

叩っ斬るぞ!


・兵士達

「う、う、うあぁぁぁぁぁぁぁ!」


残った兵士達が逃げて行く。

バーボンを斬り殺した時、、、

返り血を浴び、真紅に染まっている。


・ふ、ふふふ

ふはははははははは


裕輝は泣きながら笑う。

そうでもしないと、自分が壊れそうだったから。

真紅に染まった鬼が、泣きながら笑い続けた。

目の前にはもう敵はいない。

全て逃げていった。

もう、殺さなくて済む。

もう、たくさん殺した。

安堵と後悔の念が渦巻いていた。


・???

「うおおおおおおお!

オルドラ王国、バンザーイ

オルドラ王国、バンザーイ」


町から変な歓声が聞こえて来た。

どうやら革命が成功した様だ。

ならば、俺たちの勝ちでいいのか?


・ライル

「裕輝〜!

裕輝、大丈夫か?

大丈夫なのか?怪我は?」


真紅に染まり、立ち尽くす俺を見てライルが猛スピードで駆け寄る。

そして、心配そうに俺を覗き込む。

だが、答えられる気力はもう無い。

俺は、人を、、、、人を斬り殺したんだ。

そう、、、無慈悲に、容赦なく。

俺も、アイツらと一緒なんだな。

そう思うと、涙が止まらない。

ライル、後は任せたぞ。

俺は、、、、俺は、、、


ドサ


・ライル

「裕輝?裕輝っ!」



、、、、レジスタンスの屋敷


・あっ、、、ここは?


・ハナ

「裕輝さん、目を覚ましましたか?

心配したんですよ?」


・リナ

「裕輝様、本当に申し訳ありません。

ありがとう、ありがとう。」


ハナとリナが居る。

て事は、勝利で終わったんだな。


・ハナ

「今、お水を持ってきます。

起きずにそのまま寝ていてください。

リナ、見張ってて。」


・リナ

「はい、ハナさん。

裕輝様、どうかそのままお休みください。」


・なぁ、リナ。

獣人の方達は、無事か?


俺は恐る恐る質問をする。

もしも、もしも無事じゃなかったら、、、


・リナ

「裕輝様のお陰で、誰1人欠ける事なく。

全員無事でした。

本当に、何とお礼を言えばいいのか、、、。」


心底ホッとした。

後は町の状況を知れば今回の件は終わりだ。


・ハープ

「裕輝!」


ハープが勢いよく部屋に入ってくる。


・ハープ

「裕輝、無事か?

怪我はないか?

大丈夫か?」


・心配してくれるのか?

俺は、、、、俺も醜い人間だぞ。


・ハープ

「獣人の中にも色々と居る。

人間の中にも色々と居る。

そう言う事だろう?

お前は、私達を助けてくれた。

それだけで十分だ。

裕輝、ありがとう。」


その言葉を聞いて、俺は涙が溢れ出てきた。

多分、怖かったんだな。

今なら分かる。

これは恐怖から来る涙だ。

だが、もう受け止めよう、、、

俺は、自己満足で人を殺せる人間だ。

もう、諦めよう。

この世界は、綺麗事だけじゃ生きていけない。

そして、受け入れよう。

この先、もっと多くの敵を斬るだろう、

この世界で、生きて行くことを。


・???

「貴方様が、私達を助けて下さった人ですね。」


誰かが入ってきた。

数人の獣人を引き連れている。

リナもハーフも頭を下げている。

その後ろにライルも居るな、、、

つまり、獣人のお偉いさんか、、


・俺は、ただ人を殺しただけだ。

助けたのはそこのライルとレジスタンス、それに双方の国だろう?

作戦の事も何も知らずに、ただただムカつく奴らを斬り伏せただけの話だ。


くそっ、こんな言葉しか出てこねぇ。


・???

「そうですね、、、歴史には残らない話には御伽噺として、その様に語り継がれる事でしょう。

ですが、私達にはそれが真実では無い。

1人の人間の勇者が、、、

たった1人で我々を助けに来てくれた。

それが真実です。

私の名は、リーア。

カナムル・リーア・パルチ。

ハイランド共和国、王位継承第16子九女

どうか、リーアとお呼び下さい。」


・リーア、、、、


・リーア

「裕輝様の活躍により我々は犠牲者を出さずに窮地を脱する事が出来ました。

全ては、貴方様のお陰。

私はこのペンダントを貴方に送りたいと思います

受け取って頂けますか?」


・ペンダント?確か貴重な物じゃなかったか?

俺なんかが受け取って良いのか?


・リーア

「貴方様に受け取って欲しい。」


・、、、、わかった、ありがとう。」


俺はペンダントを受け取る。

リーアが何か言葉を発した、、瞬間、

ペンダントが光り出す。

そして砕け散った、、、、


・なっ、、、なんだ?

どうなってるんだ?


・リーア

「驚かせてしまい申し訳ありません。

裕輝様、魔力を右手に集中させてみて下さい。」


・魔力を?

わかった。


俺は魔力を右手に流す。

すると手の甲に黒い謎の紋章が浮かび上がる。


・リーア

「それは獣人の紋章です。

古来より、、、

このペンダントは獣人の英雄に贈られる物です。

そして、ペンダントを紋章に変える事の出来る人物は王家の者だけであり、この紋章を宿す者は我々の友として王家から認められた証でもあります。

裕輝様、貴方は私達の命の恩人です。

私達、獣人の友として贈らせていただきます。」


手の甲の紋章を見詰める。

気付くとハープもリナも、他の獣人達も俺に頭を下げている。

俺はベットを降りる、、


・皆、頭を上げてくれ。

俺を友として認めてくれた事、心より感謝する。

そして、、、


今度は俺が頭を下げた、、、

土下座の形で、、、


・本当に、すまなかった。

それしか言えない、、、

本当に、本当にすまなかった。


俺は謝ることしかできなかった。

獣人達を奴隷にした事、

獣人達を迫害していた事、

そして、

斬り殺した人の家族に向けて、、、

ただ謝るしか出来なかった。


・リーア

「裕輝様、、、

私達獣人は貴方のその姿を忘れません。

とても強く、とても弱く、素直で優しい。

貴方は私達の希望となるでしょう。

全ての迫害が終わった訳ではありません。

ですが、貴方の様な人も居るのだと、ここに居る者達は知りました。

その事が、希望の光となる気が致します。」


・ライル

「裕輝、顔を上げろ。

リーア様、そろそろ出発のお時間になります。」


・リーア

「ライル殿、ありがとうございます。

では私達は行きます。

裕輝様、、、

いつか、獣人国にいらして下さい。

その紋章を見せれば私の所まで導いてくれます。

必ず、いらして下さいね。

私は貴方を待っています。」


ライルの案内でリーア達は部屋を出ていった。

部屋に残されたのは、俺とハナだけ。


・ハナ

「裕輝さん、、、

さあ、ベットに戻りましょう?」


・あぁ、そうだな、、、


・ハナ

「今は、ゆっくりと休んで下さい。

明日までは何もありません。

私は扉の前で待機しています。

何かありましたら声をかけて下さい。」


・、、ハナ、、、側に、、、居てくれないか?


自分でも驚く言葉が溢れる。

ハナは優しく微笑みベットの横の椅子に座る。


・何故だろう。

頭の中がぐちゃぐちゃなのに、

妙に落ち着いている自分が居る。

ハナ、、、少しの間だけでいい。

側に居てくれ。


・ハナ

「大丈夫ですよ、私はここに居ます。

安心してお休み下さい。」


俺の意識は直ぐに飛ぶ事となる。

精神的に削られ、相当疲れていた、、、

人を殺せる程強くはなった。

だが心は酷く弱くて脆い。

裕輝は願う、、、

この弱くて脆い心が、、、砕けない事を。


そして夜が深けていく、、、

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