031 kwsk@土里sow<META>

 いらっしゃいませ、こんにちは。


 おやまぁ、目が真っ赤ですよ。亡くなったお方はあなたにとって、よほど大切な方だったのですね。お気持ち、お察しいたします。



 ではさっそくですが、商談に入りましょうか。


 いろいろと駆け足で申し訳ありませんが、ご遺体は待ってはくれませんので。


 いまの季節はそうでもありませんが、夏ともなると、それはもう……おおっと。話がそれてしまいました。すみません。



 さて、まずはこちらにご記入をお願いいたします。


 亡くなった方のお名前、年齢などの基本的な情報です。特にこちらの民族欄は、かならず記入をお願いします。



 ええ、とても重要ですよ。


 帝国は発祥こそは三百年前と古い国ですが、多民族国家としての形態が完成したのはここ数十年ほどのことです。民族のありよう、個性が法律で保護された時期にいたってはほんの十年前。


 ひじょうに繊細な問題というわけですね。


 民族というのは人間の寄せ集めであり、つまりは国家です。これらをゆるやかに、ひとつにまとめるのが帝国です。民族の個性をすべて容認すれば、独立されるおそれがある。


 一方で、個人にとって民族とは、人としての生き方の指針なので、否定されて良いものではない。


 難しくも重い問題です。



 帝国には主に九つの部族があり、それぞれ住んでいる地域も常識もことなります。


 もちろん葬儀の方法も変わるんですよ。



 イクゴル族は風葬といって、遺体を山に安置し、野生の獣や鳥に食べさせます。残酷に聞こえますが、これは彼らの宗教観に基づく葬儀で、体を動物たちに与えることで生前の罪が軽くなるという謂れがあるのです。



 ズュート・ツェントルムでは火葬が盛んです。あそこは年中温かいですからね……。早めに──…処置、を施さねば大変なことになりますから。


 また帝国内では首都を除くと最も人間が密集している地域です。土地をあまり使わず墓地を確保するための知恵でもありますな。



 首都周辺では土葬が一般的でしたが、さまざまな人種が集まることで葬儀の多様なあり方が普及し始めました。現在では都市管理と衛生面の理由から火葬が推奨されています。



 お客様は……おや、ザイテの方で。珍しいですね、あちらは水葬が一般的なんですよね。


 お客様はいかがされますか?


 ……特にこだわらない、と。ああ、ずっと首都にお住まいなのですね。



 いいえ、とんでもない。


 伝統を引き継ぐことも大切ですが、時代に即して柔軟に対応することも美徳だと、私は思いますよ。〈伝統を受け継ぐとは形骸にあらず、精神である〉と言ったあたりでしょうか……。



 わたくしどもは首都の一般的な葬儀として火葬を推奨いたします。ではまず、こちらの資料からご覧ください。

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