◇第41話◇せめて小さな道標になれたら
大きく深呼吸をする。
心を決める。
それでも受話器を持つ手は小刻みに震える。
もう一度、深呼吸。
ゆっくりと、だ。
大丈夫。だいじょうぶ。
途中、何度となく息が詰まり、呼吸がうまくできなくなって、それを咳で誤魔化す。
受話器を持っている手の震えは止まらない。
震えと冷や汗のせいで落としそうになる左手の上から右手で握り締める。
息継ぎを忘れないように。
舌がもつれる。ダイジョウブ。
ゆっくりとだ。ゆっくりでいいから。
三日目になったガッコウイキタクナイ状態。
でも揺れているのはわかる。
多分、理由も。
学校が嫌いなわけじゃないし友達もいるから。
これは、もっと心の深い部分からきてると思う。うまくいえないけど。
この年頃特有の根っこの不安定さみたいなものだったり。
絡まっている意識下に刻まれたトラウマ。
わたしは大人だし、長男も其処を抜けてからだったから、きっとまだ抱えながらも何とかしてる。
でも下二人は、それを何とかでも抱えるには、まだ幼すぎるから。
途方に暮れて泣きながら迷走しているように見える。
だからこそ今、無理やり何とかしようとせかしちゃいけない気がする。
先生が心配してくださっているのは、このままずるずると不登校になってしまってはいけないということだろう。
それはもっともだし、それでも以前、事情を話しに学校へ行ったことで
(これはその当時でも、かなりきつかったけど良かったと思う)
こちらの状態について、ある程度の理解をいただいているから、学校側もただ問答無用に責め立てるようなことは無い。
ただ、やっぱり我が家の遡った様々な出来事や複雑に絡み合ったモノに関して(これは我が家に限らずだろうけど)100%人様に理解して貰おうとする方が無理だ。
でもだからといって、そこで完全に背を向けてしまってもだめだと思う。
自分自身のことならまた別だが子供達には未来がある。
頼りないヘタレ母で、逃げてしまうことで保っているような状態だけど、これだけは、って所では根性(キライな言葉だが)振り絞って向き合いたい。
どんな良くできた親にでも、できることには限りがある。
ましてや足りないダメダメ親のわたしでは尚更。
子供の人生は子供のものだし、人間誰もが自分の舟の舵をとるのは自分にしかできない。
ただ、やっぱりそれでも、せめて見守る小さな道標にくらいにはなれたらと思うんだ。
だから。
◆
何とか今の子供の状態と、だから月曜日まで時間をくださいということを伝えることができた。
先生もわかってくださった。
金曜日子供らと話をして、今は二人の迷走王子達は、とりあえず落ち着いている。
それでもまだ不安定。
そんな簡単にいかないのが辛いところ。
こちらも迷走や手探り状態しながら根気強くいくしかない。
でも少なくともこの週末。暫し張り詰めていたものを緩めて。
ゆっくりと。そう、ゆっくりと。
◆
またホットケーキでも焼こうか。
ワンパターンだけどジャムを変えて。
わたしは多分 ツヨイ。
呆れるほどシブトイ。
だから
大丈夫。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
*この頃のこと*
下二人の学校問題では、色々ありました。
長い不登校時期も実際ありましたし。
親も子も、何とか道を探そうとしながら、上手くいかなくて苦しみました。
学校へ行くことだけが全てではないのだけど、まるで長いトンネルの中にいて、先がまったく見えない気がして……。
人の数だけ感情はあって、次男と末っ子もまたそれぞれに違うから、不登校の時期も形も違って、重なる時もあり……。
どうしたらいいのかと答えは出ないままで試行錯誤していました。
情けないけど、わたしの方が学校恐怖症だったかもしれません。
◆
不登校の時期、お天気のいい時によく、昔からある小さな動物園に一緒に行きました。
近くのスーパーで、できあいのお弁当を買っていって、動物をのんびりゆっくりと見たあとで、木のテーブルとイスのある所でお昼にします。
優しい癒しの時間でした。
その時に買ったヘビのヌイグルミは、今でも大事にしています。お気に入りです(笑)
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