◇第42話◇長い長い一日
月曜日、末っ子のガッコウイキタクナイ病、再発。
土日と楽しそうに過ごしていたのに。
月曜日は大丈夫だよって指きりしたのに。
丸まって見えない硬い甲羅で覆われてて
どれだけ声をかけても答えない。
さすがに3日連続休んだ後、2日の休日。
連続5日の休みがあったわけで
今日は強引にでも行かせなきゃダメだって思った。
不登校という表面だけのことに対してじゃない。
逃げるのも休むのも必要な時だってあるけど、それでただズルズルと生活そのものをなし崩しにしていくのでは、逃げる意味も休む意味もなくなる。
逃げるなとはいわない。
休むなともいわない。
けど、どうしたって逃げ切れないことや、向き合わないといけないこともあるんだってことは知ってなきゃいけない。
話して、とにかく一緒についていくからといって玄関で靴を履いた後で、一瞬の隙をついて逃げられた。
あっという間に姿を見失う。
実はこのパターン次男からもやられている。
素早さではかなわない。
その時も探しても探しても見つからなくて
学校に連絡して警察に保護願いの電話もして。
胸が潰れるほどの思いで泣きそうになりながら探した。
最近は物騒な世の中で、先日も近くの学校の生徒が行きすがりの男にすれ違い様、刺された事件があったばかり。
他人事ではない。身近な恐怖。
今回の末っ子も次男の時と、まったくといっていいほど同じパターンで。
思えば、やっと落ち着いてきた次男がコトを起こしたのも同じくらいの時期だった。
入れ違うように次の大波はやってきて、わたしは息をつく暇もなく、あっぷあっぷと必死で溺れながら犬掻きしてる。
今回もまた同じに、同じような場所で
先生によって末っ子は見つかった。
何度も、そこだって探していたのに、パニックになっていた目には見えていなかったのか。それとも行き違ったのか。
とにかく見つかって、へなへなと力が抜けた。
見つからない時は良くない想像ばかりして不安が膨れ上がっていたから。
座り込んで抱きしめて、ただただ無事だったと安心して涙だけがこぼれた。
無事に見つかったことを警察に電話連絡して。学校に改めて報告とお礼の電話をして。
学校や先生とは、また明日話し合うことになるだろう。
アマノジャク王子は、まだ素直になれずに黙ったまま疲れて眠ってしまっている。
明日のことを考えると、わたしの胃はまたキリキリと痛む。
今、気が付いたけど、そういえば朝一番で薬だけは飲んだけど、何も食べていなかった。
だけど食べられそうに無い。
せめて薬を飲んで水だけは飲むようにしなくては。
◆◆◆
そういえば子供を捜している途中で、よりによって連絡もないまま数ヶ月ぶり、例の下請け仕事の知人に会った。
ご主人に荷物を持たせて買い物帰りらしく。
かけられた第一声は無邪気な声で「元気にしてる~?」だった。
こちらに依頼している継続の仕事のことはキレイに忘れられているんだなと思って怒るよりも呆れ果てた。
資料も渡されないまま連絡無いまま数ヶ月だから途中放棄しても文句を言われる筋合いはないと思っているが(仕事としての報酬もきちんと支払って貰ってないので)この宙ぶらりんの状態でも、わたしが仕事を放棄してないのは、もうこれ以上のゴタゴタは嫌だからだ。
こういうタイプの人はサッパリしているようで自信家なので、まず自分を正当化して明らかな間違いでも認めない。
相手に非を押し付けて痛いところを突かれれば逆ギレする。
亡夫の母がこのタイプの人だった。
それでわたしはボロボロにされた。
もう一度、このタイプの人と無意味な闘いをする気力は、わたしには残って無い。
そんなことに神経をすり減らすくらいなら、その分、子供のことに時間を使いたい。
だから「ごめんね。ちょっと調子が悪くてね」と言って、行き過ぎようとした。
その背中に向けて、またも投げかけられた言葉は「なんだか随分痩せたんじゃない?」
思わず失笑しそうになった。
色々話す気にもならないので振り返らずに
「体調が良くなくて病院通いしているもので……」といって、会釈だけして、その場を後にした。(多分彼女からみたら、わたしにしては珍しく無愛想に映っただろうけど、そんなことも、もうどうでもいい)
そしてトドメのように、大切にしていたくりぬき天然石のオマモリ指輪が家に帰りついた時、ドアに手を挟んで割れた。
◆◆◆
こんな日は、こんなものなんだろう。
よりによって何もかもが一度にやってきて、わたしの精神を打ち砕く。
詰め物の取れたままの奥歯は噛み締めると鈍く痛む。
何もかもから逃げ出せるものなら逃げ出したい。
魂が抜け落ちていくようで力が入らない。
それでも
わたしは此処にいるだろう。
信念とか責任とか、そんなカッコイイものじゃない。
自分が諦め切れないから。
自分が失くしたくないから。
だから、どんなみっともない姿を晒してでも、その与えられた期限がくるまで、生きる。
どうしても失くしてしまうものも、失くしたくなくても不器用なこの手から零れ落ちるものも、あるだろうけど。
カミサマや仏様や運命のせいにだけはしたくない。
いや、本当はそうしてしまいたい。
自分はついてなかっただけだと考えた方がまだ楽だもの。
ヒネクレモノなんだろうな。
だけど、誰かの何かのせいにする方が、なんだか余計に悲しくなる気がして。
だって例えば、辛いこと苦しいことの原因を全部、他に押し付けてしまうのか。
そんなの、自分たちのせいにされたカミサマや仏様や運命は、やり切れまい。
ヘタレの癖に変な ” 意地 ” だろうか。
でも大きな何かの力があるのだとしても、わたしは、その中でどれだけもみくちゃにされても、わたしの精一杯を、せめて生きていきたい。
長い長い一日だった。
もう夜が来て、そしてまた朝が来る。
明日は希望に満ちたものではないかもしれないけれど、それでもわたしは明日を生きる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
*この頃のこと*
色々重なって、いっぱいいっぱいになってしまっていた時です。
ああでもない、こうでもない、と考えても考えても答えが出なくて。
暗中模索して、親子で光を見つけようとしてひたすら足掻いていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます