◇第36話◇走馬灯
運動会、無事何とか終了。
お母ちゃんは案の定、お弁当食べて昼過ぎにはグッタリして、一足先にヘタリつつ家に帰り着き、シャワー。
帰ってきた子供ら、ひっ捕まえて、すぐにシャワー。
そのあとに夕食後、限界で、ぶっ倒れて泥のように眠りましたとさ。
◆◆◆
で、さっき目が覚めて、珍しくネットの海ふらふらしてて、これ……見つけた。
【「ありがとう」って言いそびれたヤツいる?】※1
共感とか感動とか、そういうのと少し違って、でも思い出していた、いろんなことを。
細切れの思い出。
情景。風景。場所。言葉……そして……声。
泣けなくなったわたし。
でも、ココロが、ずきん、と啼いた。
ありがとう、じゃなくて、ごめんってね言われたんだよ。
まだ動けていた頃、あの病院の帰り道に。
「苦労かけてばかりでごめん。でも治ったら今度こそ頑張って、その分返すから」って、アノヒト。
細く細くなった腕、支えて歩きながら
「ほんとだよ。ちゃーんと恩返ししてもらわなきゃねー」って
冗談交じりに憎まれ口叩いてやった。
いつもみたいに。
わたしの精一杯。
馬鹿。
あんた、ほんとに馬鹿だよ。
遅すぎだよ。いつだってそう。
最期だってそうじゃんか。
なんで、疲れて居眠りしてしまってた、ちょっとの間に何も言わず逝くのよ。
なんで、声くらいかけないのよ。
起こさないのよ。
「看病疲れの奥さん、起こさないようにって思いやりだったんですよ」
って看護婦さん言ってくれたけど、そんなのでわたしが喜ぶと思ったの?
ほんとにさ、あんた……いつも独りよがりで……身勝手……。
大馬鹿だよ。
病棟の夜明けの廊下。
待合室。電話ボックス。訃報の連絡。
慌しく動いていく周囲。動かされていく自分。
横たわったアノヒト。
静かな白い横顔。
空。
晴れていた。青い。
出逢った頃のこと。過ごした時間のこと。
一緒に聴いた歌。
いつも自分勝手でウソツキで。
不器用で仕事のストレス溜め込んだ挙句、家でわたしにぶつけて。
「ごめんね、もう二度としない」って、何度聞かされた?
甘えてばかりのヒト。
最期まで甘えたまま逝って。
返してくれてないじゃんよ……。
憎ませることすら結局させてくれなかった。
懐かしいものになんてなってどうするのよ。
こんなの……こんなの……ないよ。
走馬灯のように。
沢山の想いが浮かんでは消えて。
言葉にならないまま
また、此処で、立ち尽くしている。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
*この頃のこと*
前回の運動会終了後の日記になります。
そして、
※1【「ありがとう」って言いそびれたヤツいる?】はご存知の方もいるかと思いますが、改めて今回の再掲作業していてYouTubeで見つけたので↓
https://youtu.be/stAJ0JW-t0g
有名な話だったんですね。今は漫画にもなっているみたいで。
正直、泣ける話の類は、あまり好きじゃないんです。物語として感動する余裕が自分に持てないからかもしれません。
この時は亡くなって数年後だったので、重なる思いがあったんでしょうね。
改めて今回、YouTubeで観て、思い出したりしました。色んなこと。
時は経っても……いや、時が経ったからこそ、観るのが辛くなるってこともあるんだなぁなんて思ったりしたのでした。
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