◇第20話◇孤独の肖像

 両親からは一人娘だったせいもあり、愛されて育った……と、思う。


 ただ今思えば、その分、期待と重圧、こうあるべきという縛りが常にあり、親の価値観と、その枠からはみ出る事は許されなかった。


 失敗を、できるだけしないようにと、転ばぬ先の杖の過干渉。

 意志が強く有言実行の父は、可愛い娘にはできるだけ苦労させたくないし、傷つけたくないと思ったのだろう。


 挨拶、行儀、礼儀は、祖母がいたせいもあって、かなり厳しく仕込まれた。

 これには感謝しているが、それにしても幼い頃のわたしは、子供らしい無邪気さというよりも、大人しい典型的な指示待ちっ子だった。

 何に対しても、親からそれで大丈夫といわれないと安心できず、失敗を極度に恐れるようになっていた。


 明るく素直で良い子だけども考えすぎて神経質すぎる。

 よく言われてきた言葉であり評価。


 明るく素直で良い子という評価は、わたしなりに周りの顔色を読み、望む反応をするという努力をし続けてきて得たもので、そうすることで初めてわたしは愛されるのだ、ということを経験して学んだわけだ。


 考えすぎて神経質すぎる、というのは、それだけアンテナを張り巡らせてないと、ちゃんとあるべき姿が維持できなかったということなのだが、注意深さと考えすぎの境界線というのが大変に難しく(これは今でもそうだ)

 長じるにつれ、頑張りすぎて自滅するというパターンが多くなっていた。


 まぁ、そういう決定的なアンバランスさはあったものの、大きく親に逆らうこともせずに

 わたしは(年齢的には)大人になった。


 両親には両親の夢がずっとあった。

 わたしの夫になる人に養子に入ってもらい、娘夫婦と一緒に住んでのんびりと畑仕事などする、という希望。


 でもこれを、わたしはものの見事に裏切ってしまったことになる。

 嫁に出て行ったわけだし、選んだ人もその家族も、そうしてその結婚自体が波乱に満ちたというか、あまり幸せとは言いがたいような出来事を残し、結末を迎えてしまった。

 これは両親にとっては痛恨の極みだろう。


 期待は無残に裏切られ、挙句、病んで病院通いの娘。

 不憫はあるだろうけれども、要するに娘は失敗したわけだ。


 残された新たな希望の星は、だから今は息子たち。

 特に長男は、ちょうど昔のわたしのような立場。


 正直、わたしもいい歳なので、別にベトベトと甘えたいとも甘やかされたいとも思いはしないけど、たまに実家に行っても、わたしは空気のように存在を完全無視されたり、こちらが普通に話しかけても答えてもらえなかったり。

 特に父がそうで、もうしばらくこの状態が続いている。

 その上、最近は母ともぎくしゃくすることが多くなってしまった。


 両親共に歳を取って頑固にもなってきたし、元々プライドが高く、その基準が厳しいので、わたしから思うような反応が返ってこなかったりするとイライラもするようだ。

 思い込みも激しくなっているので対応が難しい。


 実の親子なので遠慮がない分、あからさまに言われたり、態度に出されるので、かなり辛い部分がある。


 なんていうか……これは昔からなのだけど、両親はわたしに対して

「これだけしてやってる」

「これだけしてやってきたのに」

 というのを、よく口にする。

 そして周りからも(世間、親戚など)

 本当に良くやってあげてる、と言われるのを好む傾向にある。


 確かに、いろいろな面でよくしてもらってきた。

 愛情を注ぎ、可愛がってもらってきたことには、自分が親と呼ばれるようになってみれば、改めて心から感謝もしているし、尚更に不甲斐ない現状を申し訳なくも思っている。


 けど、わたしだってわたしなりに両親の知らないところで一人、世間にも揉まれて頑張って乗り越えてきた部分がある。

 それを、それすら、未だ認めてもらえないのが哀しい。

 わたしという人間は両親にとって既に失敗作でしかないのか、という砂を噛む様な虚しさ。


 ◆◆◆


 かけがえの無いひと達がいてくれても、

 信じているのに

 信じているはずなのに


 今、この手の中に残ったものは、こんなどん底のわたしからでも離れずに、ずっと寄り添ってきてくれたひとたちなのだから。


 なのに、どうしてなのか、

 埋まらない

 消えない

 この 

 孤独感

 この

 飢餓感。


 わたしは人を求めながら、無意識に拒絶しているのかもしれない。


 どうして?


 この、距離感は?

 自らが置かずにはいられない


 どうして?


 こんなに

 いつも飢えたように

 寂しいのに

 怖いのに

 温もりが恋しいのに


 信じきれない、のか。


 ◆◆◆


 わたしは 

 つかまらない自分を

 ずっと今も探し続けている気がする


 独りで。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


*この頃のこと*


父だけでなく母とも少しギクシャクしていた時がありました。

こうして読み返していると、色々思い出します。上手くこの感情を表現するのは……今でも難しいですね(苦笑)


幸せを願っていたからこそ

『こんなはずじゃなかった。こんな姿は見たくなかった』

と両親は思ったことだろうなと。

祖母の介護問題もあった頃なので、尚更だったでしょうね。


晩年の母とは特に喧嘩することもありませんでしたし(元々、相性も悪くなかったし)

現在、父も随分、歳も取り丸くもなったと思います。

気質は相変わらずなので、対応に神経は使ってますけど、関係もそれなりに(笑)


***


わたしの孤独と飢餓感は……?


わたしは、つかまらない自分を

相変わらず探し続けています。

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