◇第12話◇Please relieve this pain

 駄目だ、気持が重い、重い、重い。

 何もしたくない。


 何もしたくないけど、何もしないわけにはいかないし、何もしなければまた、それで落ち込むだろう。


 それでも、内側から湧き上がる強烈な拒否反応。

 懸命に抑え付けるけど抑えてるけど。


 自分の為に、為だけに、ゆっくりとしたい。

 何かを必死で考えたり計算したり。

 それは死活問題。 

 忘れてないか?落ち度は無いか?

 気を遣って気を張り詰め続けて。

 当たり前だけど仕方ないことだけど、息苦しさがまた、今にも限界値を越えそうになってる。


 わたしは本当の意味でツヨイ人間なんかじゃない。

 常に犬掻きで溺れかかりながら、やっと岸辺に辿りついては息をつく。

 それでも身体は、まだ水の中で、一息ついた後は、また犬掻きで溺れ泳ぎを続ける。

 いつまでたっても泳ぎは上達しない。


「少し休ませてくれたら、また泳ぎますから」

 黙々と泳ぎ続けるヒト達の中で、そんなヘタレな泣き言を言う。

 ヘタレもヘタレ大ヘタレ。

 まだ曲がりなりにも泳いでる(溺れながらでも)のが不思議なくらい。

 根性は自慢じゃないが、無い。


 異様な精神力は確かに発揮されたりするが、そのツケと反動も、また大きい。


 息が苦しい。


 大嫌いな、夏。

 大きくなるセミの声に、頭痛が酷くなる。



 繰り返される痛みの再確認。

 How long does this pain last?


 まだ夏は続く。


 ***


 相変わらず、布団で寝ていない。

 眠ってないわけじゃない。うつらうつらしてはハッとする。

 身体は常に鉛のようだから余計に、ちゃんと横になって寝なきゃと思う。

 何してるんだ、こんなことしていても効率は悪くなるばかりで、いいことなんて何もないって自覚してる。


 悪夢の中のように、動かない進めない。

 何でだ。

 得体のしれない不安感と焦燥感に内側で声なき声が悲鳴をあげている。


 泣き出したいような寂しささえオブラートに包まれて、痛みは……ココロにかけた麻酔で何処か遠いのに……。

 何故か深く抉られ続けてるのが感じられて

 胸からせリあがってくる。 

 これは吐き気。



 1つ大きなことを終えた後の精神の揺り返しか?


 それと 夏。


 ああ 夏。

 憎悪すら感じる、夏。


 命日もお盆もお彼岸も全部、そのたびに何かが誰かが、その誰かの ” アノヒトノオモイデ ” で、わたしを抉る。

 あるべき ” アノヒトノツマ ” であったわたし、の姿を求める。


 もう、休ませてくれ。解放してくれ。

 もう、わたしに触れるな。頼む。

 ココロで叫びながら穏やかに接待。

 そうして壊れていく神経が軋む音をたてる。


 まだ、わたしにそれを背負えと?受け継げと?

 もう、いいだろう?勘弁してくれ。


 笑うのは習性。

 治らない習性。


 声が出なくなる俯く身体がどうにも動かない。

 何もかもが怖くて膝を抱えて震えながら。


 でもまだ笑おうとしてる。

 泣き方が思い出せないんだ。どうしても。



 愚かしいほど弱気になっているジブンに気づいて愕然とする。

 気づいちゃいけないのに、背負っているものの重さと現実。

 それを全て自覚したら確実に、わたしは耐えられず壊れるから。

 だからオブラートで包んで薄い膜をはって、気づかないように、して、いるのに。


 ねぇ、泣き方が……ね、思い出せないんだ。


 笑いモドキなら、こんなに上手にできるのに。

 大丈夫って言葉なら、こんなにスムーズに言えるようになったのに。


 なんで、いつも追いかけられてる?

 何に、いつも追いかけられてる?


 悲鳴は、いつも呑みこまれて、胸の澱みは、そのたびに降り積もる。


 イキガデキナクナル



 Pain, pain, go away!

 唱えても唱えても


 Please relieve this pain

 壊れていくわたしに気づいて。



 闇の中 吸い込まれる声


 いつも、ずっと変わらず 

 応えは 


 無い。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


*この頃のこと*


かなり行き詰まっていた時だと思います。

色々やらないといけないことは山積みで、先がまるで見えなくて。


夫が亡くなってから数年は、まだ諸々のお付き合いも残っていたのですが(本来それは有難いことなのでしょうけれど)もう、できることなら、申し訳ないけれど、そっとしておいて欲しいと思っていました。


弱音と愚痴のオンパレード。

毒吐いたりもしてる。。。

ただ、とてもとても疲れていました。


昔のわたしは……でもやっぱり、こうして書くことで、何とか日々を歩いていた気がします。。。


この日記には随分、救われたなぁ……と。

読み返しながら改めて、そう思っています。

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