◇第6話◇どれだけ雨が降っても……(2)

 午前5時半、目覚ましの必要さえなく、わたしは起床。

(というか、いつものごとく眠れなかったともいえるけど)

 末っ子を起こす。

 あまり寝起きの良いほうではない子だけど

「約束のコンビニまで買い物に行こう」というと飛び起きた。


 顔を洗い、着替えを済ませて、いざ出発。

 お兄ちゃんたちは、まだ寝ているので起こさないように。一応、心配するといけないのでメモを書いて置き、そっと鍵をかける。


 夜は明けているものの相変わらずのジメジメ曇り空。


 傘は迷ったけど、やっぱり念の為もっていくことにした。


 朝の道を、二人並んで歩く。

 やっぱりかなりの湿気に、歩きだし早々に頭の芯が鈍く痛み出す。

 汗が既に滲んでる。


 これじゃいかん!と持ってきた携帯のカメラで道々の花を撮る。

 撮った画像を見せたりしながら。


 そういえば紫陽花の

 季節なんだよね。

 同じ紫陽花と呼ばれてても

 種類も色々 

 色もそれぞれ。


 立ち止まり

 また、立ち止まりながら歩く。

 不思議と、せっかちな末っ子も

 せかさないで一緒に、ゆっくりと。


 コンビニでおにぎり類と飲み物ゲット。

 ついでに(前渡し?)彼が選んだのは大好きなチーズ。


 お兄ちゃんたちの分もあるから結構重い。

「半分持とうか?」って声を一応かけてみるけど、「ううん、大丈夫!」と、ちょっとやせ我慢も入ってるみたいだけど。

 オトコの意地ってヤツ?

 そうだね、約束だもん、頑張れ!


 帰り道を、ふうふう言いながら家に帰り着いたら長男はもう起きてた。


 けど、昨夜より落ち着いたみたいとはいえ、まだ寄せ付けないムードは、そのまま。

 買ってきた、おにぎりも野菜ジュースにも手をつけようとせずに出かけようとするからトイレに行った隙に、こっそりと学校のバックに、おにぎりとジュース包んで忍ばせておいた。

 食べても食べなくても、そうしないではいられなかった。

 結局、いってきます、も言わずにドアを荒く閉めて登校。


 次男は次男で食欲ない!の一点張り。

 布団にもぐったまま出てこない。


 とりあえず時間が迫ってきたので

 長男と同じように、おにぎりとジュースを別に入れてカバンに忍ばせておく。

 それでも、次男も遅刻すれすれ時間に何とかバタバタ用意して登校。 

 こちらも ” いってきます ” は無いまま。


 最後は末っ子。

 こちらは朝の散歩が効いたのか、食欲もあり、しっかりご飯食べてランドセル背負って

「いってきます!」と登校して行った。



 それから実家に電話。昨夜の件について。

 こちらも話を聞き、とにかく穏やかに、かなり気を遣って話をする。

 両親も祖母の介護で疲れているのだ。


 みんな、それぞれがそれぞれの想いを抱えて苦悶して疲れている。


 子供達、送り出して、実家への電話を終えたらグッタリ。

 頭痛薬追加したら氷枕してダウン。



 でも、朝の散歩は良かったと思う。

 何とか、ほんの少しでも。

 何か朝の楽しみを作ってやってみたらどうだろうか。

 そんなことを、うつらうつらしながら考える。


 結局、子供らが学校から帰ってくるまで、ひたすら氷枕と友達。

 どうにもこうにも身体が動かない。

 洗濯も降り出した雨を言い訳にお休み。



 それでも子供達が帰ってきた時には何とか起き上がれるようになっていたから良かった。


 それと子供達(上二人)の方も学校へ行き、友達と話したりしたことで随分と気持ちを切り替えることができたようで、二人とも落ち着いて話すことができるようになっていた。


「ごめんなさい」の言葉も聞いた。


 三人を集めて、これだけは……と思うことだけを話した。

 聞いてなかったようでも前日のわたしの話、わかっていたようだったから。


 ひとまず、大雨降ったけど曇り空でも雨は止んだ。


 わたしには、この子達や実家の両親や祖母を支えきれるだけの力が足りてない。情けないけど、それは事実だ。


 そして、この現実の中で、わたしたちは、それでもお互いを支えあいながら生きていくしかない。


 みんなボロボロで、とにかく一日一日をやり過ごすようにして、今日を生き延びることを目標にしながら。



 わたしだって、倒れたら助け起こしてくれる人が身近にいてくれたらと何度も何度も思った。


 支えてくれるトモダチがいるだけでも有難いことだと思うけど、みんな遠い地に住んでいる。


 テレビの中、街の風景が映し出される時、いや、そうでなくても病院への行き帰りの道で、すれ違う、家族連れ、カップル。


 普通の基準なんていうのも、おかしなものかもしれない。

 わたしがすれ違った、その家族やカップルにだって、わたしの知らない何かが無いとどうしていえる?


 それでもね……

 心弱く、芯まで疲れきった時には、その位置に場所に、往くことの叶わぬ我が身を再認識させられて、堪らなく辛くなるんだ。


 知らない人様の、あるかもしれない事情を考えられるほど、わたしは人間できちゃいない。

 そんな立派なものじゃない。


 ただ、無理してるだけ。

 身の丈に合わない、器に収まりきれない、無理。

 だって誰かが、そうしないと、わたしたち家族は生き延びられないから。

 今、その役ができるのは、わたししかいないから。

 だって、後は高齢の両親に祖母と子供たちだけ。



 ◆◆◆



 走り続けて走り続けて

 必死でなりふりかまわずに。


 自分は誰も傷つけていないなんていうつもりはない。

 亡夫のアチラノヒトタチへさえも。

 でも、それ以上に傷つけられてもきた。


 あの仕事関係の○○とのことだって……

 利用されて、踏みつけにされて、それでも相手は痛みすら感じてない。そんなもん。

 事を荒立ててもモノの見方自体が違う人に何を言っても余計にこちらが傷つくだけ。


 それを嫌というほど学んだから、苦いものを喉につかえさせながらでも呑み込む。


 満身創痍。


 それでも

 それでも

 それでも

 それでも


 どれだけ雨が降り続いてもね


 雲の間から射し込む、日射し

 暗い夜を照らす、月明かり


 1%の希望を探しながら


 今日を

 生きる よ。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


*この頃のこと*


実家の方では祖母の介護のこともあり、わたしの方も、子供らの学校問題で試行錯誤していて、みんながそれぞれに、いっぱいいっぱいだった苦しい時期でした。


祖母も、そして母も、今はもう亡く……久しぶりに読み返してみて、時の流れを感じずにはいられません。


今の悩みや苦しさも後になれば、こんな風に思い出すのかもしれませんねぇ。

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