第81話 神鳥

 ジズは神獣にも匹敵する幻獣であるらしいが、知能は人間と意思疎通するタイプではない。

 タイプが違うだけで、知能自体は高く、悠斗の危険性をちゃんと推測できている。

 そんなジズはまず、竜巻を起こした。

 日本人にはあまり馴染みがないが、竜巻は普通に人間を空高くにまで吹き飛ばし、時々海の魚を地上に降らせたりもする。


 だがこれは遠距離攻撃。威嚇のようなものだ。

 大空を悠々と遊弋しながら、こちらの出方を伺っている。


 悠斗はと言えば、とにかく暴風の中、地面にしがみつている感じだ。

 地球の神話のジズと、オーフィルのジズと名付けた神獣では、もちろん能力が違う。

 精霊を操って幾つもの竜巻を起こして、風の中で攪拌して悠斗を切り刻もうとしている。

 この範囲攻撃とも言える攻撃の他に、備えているのは潤沢な魔力。

 肉弾戦はそもそもあの質量が攻撃手段になるだろうが、鳥の特徴を持っているのなら、接近戦は避けようとするはずだ。


 空を飛行する獣に特有の弱点。

 それは耐久性だ。

 簡単な話で、重ければ重いほど、空を飛ぶのは難しい。

 鳥の骨は中空になっていて、重量を減らしている。

 もっともこの世界の竜種は、魔法によって飛行するため、体重を軽減していなかったりもする。

 だが鳥の姿をしているのだから、この特徴はあってもおかしくはない。


 勝負は近接戦。

 こちらの攻撃は近距離からなら、おそらく確実に通る。

 問題はどう接近戦に持ち込むかだ。




 ジズの攻撃は今のところ竜巻による遠距離攻撃だ。

 これはよく考えなくても、効率が悪い。大軍相手には効果的だが、たった一人の人間相手には、魔力による破壊力が拡散しすぎている。

 それに、威力もそれほどではない。魔法の防壁によって充分に防げる程度だ。

 ただ動きを止める分にはこれで充分かもしれない。


 動きを止めた状態で、何を仕掛けてくるのか。

 その口が開き、魔力が収束する。

(ブレスかよ!?)

 白色の光がレーザーのように悠斗に向けられる。


 直前で悠斗は地面を掴まえる魔力を消し、竜巻の中に飛び込んだ。

 竜巻に巻き込まれた、大小の石や岩は魔法の障壁で防げる。

 ただ運動エネルギーが問題である。


 竜巻の中心、台風の目の部分は、動きが少ない。そこまで移動してから、一気に上空に逃げ出す。

 眼下の風景は一変していて、ブレスが照射されたであろう地面は、沸騰している。確実に強大な熱エネルギーだ。

(あれを自爆させればいいんだろうけど)

 再度放たれたブレスを、悠斗は魔法で防御する。

(高出力の熱か。レーザーじゃないな。炎が高温なだけだ)

 さすがに光の速さはない。


 魔力の防壁で防御も出来る。

 ただ、そのための消耗はかなり激しい。

 ジズもこのレベルの魔力を収束させた攻撃は、それなりに消耗しているようだ。

 しかしあと一発とか二発とかの、すぐに魔力切れになるほどのものではない。

(やっぱり接近戦で短期決戦!)

 飛行して襲い掛かる悠斗だが、ジズは羽を広げて急降下すると、そこからまた舞い上がって悠斗と距離を取る。

 接近戦を嫌がっている。そしてあの巨体でありながら小回りはそれなりで、飛行速度も速い。

 追撃しようとしたところに、またブレスを浴びせかける。




 鬼ごっこだ。

 どうやらあちらの最強の攻撃手段はブレスのようで、高速で移動しながら発射してくる。

 接近戦を考えていた悠斗だが、すぐにそれは変更する。

 大ダメージを与えるのは接近戦が有効だという考えは変わらないが、そのためにはまず機動力を削がなければいけない。

 問題はあちらの防御力である。


 悠斗の遠距離攻撃は、全てあちらとの距離があり、さらに高速で移動しているため回避される。

(誘導ならどうだ)

 追尾型の術式を組み込んだ魔法の攻撃も、相手が飛行している間に霧散してしまう。

 ミサイルで言うなら推進剤切れで追尾不可能、といったところだ。


 攻撃にも飛行にも、かなりの魔力を注ぎ込んでいる。

 防御に関しては、回避に重きを置いて、おそらく薄い障壁しか持っていない。

 もちろん防御力を引き上げる可能性もあるが、それにはかなりの魔力を消費するだろう。

 広範囲攻撃の魔法なら回避も不可能かもしれないが、そもそもかなりの距離を置いて戦っているため、その範囲に入ってこない。


 分からないでもない。魔法においても最も魔力において費用対効果が高いのは、熱攻撃の魔法だ。

 実際の質量をぶつける系統の魔法も強力ではあるが、速度においては限界がある。


 地球にはあって、オーフィルでは一般的でない物理学的知見。

 この世で最も速いものは光である。


 悠斗は指二本を、ジズに向かって突きつける。

 魔力を練り上げ、収束し、そして打ち出す!


 光線。

 巨大な光エネルギーが、ジズの翼を穿つ。

 確実に回避不能の攻撃。もし防御の手段があったとしても、放たれた時には既に命中している。

 叫び声を上げるジズに対して、もう一度の光線。片側の羽が半分ほども切断される。

 下手に空中を動き回っていたがゆえに、レーザーで切断されるような傷になった。




 機動力が落ちてからは早かった

 全力で接近し、近距離から神剣を振るい、その肉体に直接のダメージを与える。

 やはり魔力によって強化されているとはいえ、本質的に肉体は脆い。

 むしろ魔力を失えば、自重によってそのまま潰れることさえある。


 大地に落ちた神鳥の首へ、悠斗は神剣を振るった。

「幻獣でも血抜きは大事なんだよなあ」

 この血液でさえ、栄養の塊なのである。本当はもったいない。


 悠斗は神剣の権能を使った。

 巨大なジズの肉体が、どんどんと神剣の光を浴びて小さくなっていく。

 やがてそれは、20cmほどの鳥の死体のようにまで縮んだ。

 四次元ポケットの権能はないが、スモールライトは存在するのだ。


 しかし、けっこう疲れた。

 大空を飛びまわる相手は、前世でもそれほど戦ったことがない。それこそ未熟な竜種ぐらいか。

 飛行しながら強力な攻撃魔法を使うのは、魔力消費がそれぞれ別に魔法を使うより、三倍ほどはかかる。

 やはり空中戦をするならば、攻撃手段は近接戦にするのが本来は正しいのだろう。


 さて、土産も出来た。

 悠斗はジズを包むと、紐を引っ掛けて背負う。

 行く先が戦場であるならば、この大量の鶏肉は、大いに歓迎されるであろう。

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