10000000000と100000000000の違いってなに?

ちびまるフォイ

ステータスオープン!って必要?

「ステータスオープン!!」


魔法の呪文を唱えると、半透明の板が浮かび上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:たかし

Lv.1

HP:10000000000

MP:10000000000

攻撃:10000000000

防御:10000000000

魔力:10000000000

敏捷:10000000000

レアリティ:10000000000

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「フッ、まいったな。レアリティまでぶっとんでやがるぜ」


異世界で自分の能力値を見て驚いた。

見たこともない桁数の能力値がそこにあった。


学校の成績表では1ばかりだった俺が、

別世界ではこんなにも優秀だとわかると嬉しくてたまらない。


「冒険者さま! あなたの能力を見込んでお願いがあります!

 どうか東の洞窟にいるドラゴンを倒してくれませんか!?」


「任せてください。秒殺してきますよ」


意気揚々と東の洞窟へと向かった。

情報通り洞窟最深部にはドラゴンが待ち構えている。


「かかってきなトカゲ野郎」


「ギャオオオーーッ!!」


ドラゴンは先制攻撃とばかりに炎を吐いた。


「ふん、チート持ちの俺にそんな炎がきくか」


結界魔法と唱えるのもばからしく、戦意喪失させるためあえて真正面から受けた。

俺は消し炭になって死んだ。


女神の加護(有料)により蘇生されると自分の体験を疑った。


「え!? なんで負けるの!? 俺強いよね!?」


もう一度ステータスを表示する。

相変わらず何桁かも数えたくなくなるほどの数値。


ふたたびドラゴンに挑戦するもバトル描写を省かれるほど瞬殺された。


「どうなってるんだ! なんで勝てないんだ!!」


三度ドラゴンへと挑戦する。

今度は戦うというよりも何故負けていたのかの検証という意味合いが大きい。


「ステータス、オープン!!」


ドラゴンに向けて呪文を放つと、そのパラメータが表示された。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:佐藤 ドラゴン

Lv.1000000

HP:1000000000000000000000000

MP:1000000000000000000000000

攻撃:1000000000000000000000000

防御:1000000000000000000000000

魔力:1000000000000000000000000

敏捷:1000000000000000000000000

レアリティ:1000000000000000000

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんじゃこりゃあああ!?」


リアクションしているうちにまた負けた。

自分は強いのかもしれないが、他の強さに比べればたいしたことはなかった。


目を覚ますと土葬されているところだった。


「冒険者さま、目が覚めましたか。

 何度もドラゴンに負けているのでもうなんかいいやって感じになってます」


「あのドラゴンなんであんなに強いんですか!?

 パラメータの数値おかしいでしょ!?」


「え? いや、普通ですよ。あなたが弱いんじゃないですか」


「あれが普通なわけないでしょ。俺のを見てください。

 ステータスオープン」


自分の栄光を見せつけるようにステータスを開いた。


「……この値なら、我々のほうが冒険者さまより強いですね。

 ステータスオープン」


「えっ」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:町長

Lv.1000

HP:1000000000000000

MP:1000000000000000

攻撃:1000000000000000

防御:1000000000000000

魔力:1000000000000000

敏捷:1000000000000000

レアリティ:1000000000000000

ーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまで桁数が多いと並べてみないとどっちが多いのかわからない。

ただひとつわかるのはものすごい桁数のパラメータがありふれているということ。


「なんで町長がこんな強いんですか!」


「いえいえ、みんなこんなものんですよ。

 うちのジンバブエ異世界ではみんな同じくらいです」


自分のパラメータを他人と比較することなく

その数値のデカさから調子に乗っていたが実際には平均以下だった。


「ち、ちくしょう! 俺だって強くなれるんだ!

 俺はチートを持っているんだぞーー!!」


自分の唯一であり心の拠り所でもあった自尊心の柱を砕かれ、

それでも成長速度が早いとかそっちのチートはあるんじゃなかろうかと

地道なレベルアップへと邁進したが、秒で敗北した。


「スラスラスラッ。その程度の実力でスライムに挑もうとは片腹痛いスラ」


「お前なんでそんなに強いんだよ! ステータスオープン!」



ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:スライム

Lv.10

HP:100000000000

MP:100000000000

攻撃:100000000000

防御:100000000000

魔力:100000000000

敏捷:100000000000

レアリティ:100000000000

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:たかし

Lv.1

HP:10000000000

MP:10000000000

攻撃:10000000000

防御:10000000000

魔力:10000000000

敏捷:10000000000

レアリティ:10000000000

ーーーーーーーーーーーーーーーー


おわかりいただけただろうか。


スライムのほうが能力値が微妙に1桁ほど多いことに。

たった1桁でもその差はなんと10倍。

勝てるわけがない。


「なんだよこのインフレ! これじゃどれだけ強いのか差がわからない!」


弱いものいじめして経験値を集めるという目論見だったが、

そもそも誰が弱いのか数値で判断することが難しい。


たった1桁でも数え間違ったら10倍の力量差になってしまう。


「お困りのようですね」


「あなたは!?」


「私はあなたをこのジンバブエ異世界に召喚した女神です」


「女神さま、聞いてくださいよ!

 この世界は桁数がぶっとんでいてパラメータの強弱がわからないんです!」


「わかりました。そんなあなたに「T」を差し上げましょう」


「なんかのバンド名ですか?」


女神はノルマ達成とばかりにすぐに帰ってしまった。

会話とはこんなにも一方的なものなのかと考えさせられる。


手には女神より進呈された"T"が残っていた。


「こんなんでどうすればいいんだよ……」


自分のスキルかなにかで使えないものかと思い、ステータスを開く。

以前のおびただしい数値は少し収まっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:たかし

Lv.1

HP:10T

MP:10T

攻撃:10T

防御:10T

魔力:10T

敏捷:10T

レアリティ:10T

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「すごい! パラメータがシュッとしている!!」


たかしだから「T」かと思ったが、

テラの意味での「T」だとは思わなかった。


桁数がかなり圧縮され、数字の比較がしやすくなった。


「これで強いか弱いか判断しやすくなる!

 ようし、バリバリ強くなってやる!!」


社会人1年目くらいのやる気に満ちた俺の前に敵が襲ってきた。


「ガルルル……」


「オオカミ、ね。

 どれだけの実力差があるのか確かめてやる! ステータスオープン!」



ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:オオカミ

Lv.1

HP:1TT

MP:1TT

攻撃:1TT

防御:1TT

魔力:1TT

敏捷:1TT

レアリティ:1TT

ーーーーーーーーーーーーーーーー


数値的に弱そうなオオカミに攻撃をしかけた。

その圧倒的な力の差に絶望してボコボコにされてしまった。


「ちくしょう! なんだよTTって!! 11に見えたわ!!」


桁数は少ないもののTを分解すると実際には

1000000000000になる。

TTは「1000000000000000000000000」だ。


数字が小さくてもその値はクソでかい。


「ダメだ……桁数が減ったら減ったでわかりにくい……。

 もうどうすればいいんだ!!」


そこへ今度は女神ではなく男神がやってきた。


「迷える冒険者よ。いったいどうしたというのかな」


「男神さま! 実はこの世界はインフレにインフレが進んで

 もはや値の大小がわからないんです!!」


「ふうん」

「いや聞けや」


「では私からは"点"を進呈しよう」


「ほ、ほんとうですか! やった!!」


「この世界のあらゆるステータスに

 点を打って共通化しておいた。これでよいだろう」


「男神さま! ありがとうございます!!!」


点が入れば話は別。

どれだけの桁数があるかわかりやすくなるだろう。

おあつらえ向きにいつかのスライムがやってきた。


「ぷよーーん!!」


「出たなスライムめ。刀のさびにしてくれる!

 その前に……ステータス、オーーップン!!」


ステータスのパネルを呼び出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:スライム

Lv.1.0

HP:1.00000000000

MP:1.00000000000

攻撃:1.00000000000

防御:1.00000000000

魔力:1.00000000000

敏捷:1.00000000000

レアリティ:1.00000000000

ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:たかし

Lv.1

HP:1.0000000000

MP:1.0000000000

攻撃:1.0000000000

防御:1.0000000000

魔力:1.0000000000

敏捷:1.0000000000

レアリティ:1.0000000000

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「……あれ!? 桁数ごとにカンマじゃないの!?

 ステータスオープン1 オープン! オープン!!」


何度開き直しても、他のモンスターのステータスを出しても同じだった。

やっと男神の言っていた点が小数点だということに気づくのに時間がかかった。


これでどんなに桁数が多くなろうとも変わらない。


1.0000000000だろうが

1.00000000000000000000だろうが同じ「1」だ。


「そ、想像していたのとはちがうが、これでシンプルになった!

 もうステータスの大小を気にする必要はないってことだな!!」


「ぷよーーん」


「このゼリーおばけめっ。数字の遊びはこれまでだ!

 ここからは数字で現れないプレイヤースキルの勝負だ!

 いくぞ!! うおおおーーーーー!!!」





同じパラメータになったスライムに負けたとき、

俺は異世界を離れて実家に戻ることを固く決心した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

10000000000と100000000000の違いってなに? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ