異世界に名を轟かし始める僕ら

第11話 魔法の欠点

 この世界に来てちょうど二週間たった。


 僕たちはあれから毎日迷宮に行き、現在は31階層に到達していた。


「沼地とは聞いてたけど、この階層は大変そうだな―。」


 31階層には池と水没林が広がる沼地だった。地面は泥のようにぬかるんでいて、長時間歩くのは大変そうだ。


「これ、足べちゃべちゃになるね。今日はもう帰ろうよ。」

「そうだな。」


 妹が帰りたがる。僕も賛成する。


「うーん。」


 お兄ちゃんは何やら考え込んでいる。


「兄貴はまだ進みたいの?」


「いや、ここのモンスターを確認したくてな。この階層の魔物はスライムとかなんだが、魔法が効きづらく、物理攻撃が有効な攻撃手段になっているらしくてな。俺の魔法がどれくらい通用するか確認したいんだ。」


「えー、帰ろうよ。」


 妹は嫌がっている。


「そうか。僕は良いけど。兄貴の魔力量には余裕あんの?」


 20階層を越えたあたりからのモンスターは強くなってきているので、モンスターを倒すためのお兄ちゃんの魔法は強力になり、お兄ちゃんは魔力切れを起こすことがあった。お兄ちゃんは魔力切れを起こすようになっても、魔法の練習を止めず、移動中は石の魔法で何か作っていることが多い。


「まだ少しくらいなら大丈夫だ。章子行けるか?」

「章子は帰ってもいいんじゃないか?」


「やだ、私も行く。」

「なんだよそれ。」


 妹は心変わりが早い。


「助かる。章子の強化魔法があった方が良いからな。」

「しょうがないなぁ、お兄ちゃんは。」


 章子は必要とされていてうれしいようだ。


 僕は大きなため息をつく。


「早く行こう。兄貴、案内してくれ。」

「ああ、わかった。」






 しばらく歩いて、お兄ちゃんが立ち止まる。


「あれだ。」


 少し先に濁った水色の物体がいる。これがスライムか。


「はい。」

 章子がお兄ちゃんに強化魔法をかける。


「ありがとう。」


 お兄ちゃんが隣で炎の魔法を出す。炎は大きな槍の形になる。ファイアランスというお兄ちゃんが新しく覚えたスキルだ。火力が高いらしい。


 火の魔法はスライムの方に飛んでいき、スライムに当たる。スライムはしばらく燃えあがって、うねうねもがいているように見える。


 しばらく燃えるが、消えてしまう。少しだけ小さくなった気がするが、元気そうだ。こちらが魔法を撃ったことに気付いたようで、こっちに向かってきている。


「あまり効いてないみたいだな。どうやって倒すんだ。」

「ああ、中の黒い石が見えるだろう、あれが弱点のコアらしい。やっぱり火の魔法はだめだな。」


 濁った半透明の体の中にはサッカーボールぐらいの大きさの黒い塊が浮いている。


 お兄ちゃんは拳ほどの大きさの石の弾を作りスライムに飛ばす。石の弾はスライムに当たるとスライムの体をはじけ飛ばす。スライムの体は小さくなる。


 しかし、コアは無事だったようだ。周りの液体が緩衝材の役割を果たすのだろう。スライムは動きを止めるとうねうね動きすぐに元の大きさに戻る。


「もっと大きいやつ作れば。」


 僕はお兄ちゃんに言う。


「言われなくても。」


 お兄ちゃんはそう言うと、大きな石を作り出す。石はどんどん大きくなり、僕の上半身ほどの大きさになる。


「これでどうだ。」


 お兄ちゃんはそう言うと、岩を飛ばす。


 岩はゆっくり飛び、ズシーンと大きな音を立てて、すぐ手前に落ちる。泥が飛び散り、少し自分にかかる。スライムまでは全然届いていない。



「いや、兄貴、もっと速く飛ばさないと。」


 お兄ちゃんは額に汗を流す。


「すまん、魔力切れだ。重い物体は飛ばすのにかなり魔力を消費するんだ。」


「えぇ。」


 なんか似たようなことがこの前にもあったような気がする。


「魔力の無駄遣いしすぎだよ。」


 僕は一歩前に出ようとする。


 出ようとする僕をお兄ちゃんが止める。


「いや、今回は大丈夫だ。ステータスの魔力を上げる。少し待て。」


 僕たちのレベルは現在32である。お兄ちゃんは魔力に保留していたステータスポイントを振ることにしたらしい。魔力は魔力出力と魔力量と魔力操作などに関連しているようなので、また魔法がうてるようになるのだろう。


 僕は小さくため息をつきつつ、目の前の邪魔な岩をどかす。


 お兄ちゃんは魔力が回復したようでまた石を作り出す。今度は先ほどより小さい。おそらくコアと同じぐらいの大きさだろう。形が完全な球形ではなく前が少しとがっている。


 石の弾は先ほどより早いスビードで飛び、風を切りながらスライムの体の液体を派手にまき散らしつつ。コアに当たった。


 カキィンとおそらくコアが砕ける音がすると黒い結晶ははじける。中からは魔石が出てきたようだ。


「まぁ、なんとか倒せそうだな。」


 お兄ちゃんは満足そうである。


 お兄ちゃんは魔石を拾いに行く。


「章子、帰ろうか。」

「うん。」


 僕たちは帰り始める。


 道中、近くの池からスライムが飛び出してきたが、今度は僕が出番をもらいコアをたたき砕いた。


 僕の巨大な剣の前ではスライムの液体の緩衝作用はあまり効果が無いようで、楽勝だった。


 20層あたりに出現するオークの方がたぶん強かった。




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