第4話 緑色の妖精

 ゲートを抜けると、草原が広がっていた。雲一つない青空が広がり、さわやかな風が頬を撫でる。後ろには今入ってきたゲートがある。左の方には森が広がり、右の方はなだらかな丘が広がっている。


「無事入って来れたようだな。」


 お兄ちゃんは僕たちがいるのを確認すると。草の生えていない道を歩き出した。この道は沢山の人たちが踏みつけてできたのだろう。


「兄貴、まずはどこに行くんだ?」


「今はモンスターを探してる所だ。」


「お兄ちゃん場所分かるの?」



「俺の探知スキルとマップを組み合わせると生き物の位置が分かるみたいだ。あっちの方に二つ、人間じゃない生き物がいるみたいだ。たぶんゴブリンだろう。」


「いいなぁ、探知スキル。そんなことまでできるのか。」


「お兄ちゃん何でもできるね。」



「それにしても、この場所綺麗だね?もっと怖い場所を想像してたよ。」


「そうだな。」


「家族でピクニックに来たみたいかもな。」



「お母さんが見たら、喜ぶだろうな。お母さん自然の風景とか大好きだもんね。」


「そうだな。」

「うん。」


 妹が母さんの話を出すと、やっぱり母さんが恋しいのかなと心配になる。しばらく三人とも無言になり、ひたすら歩く。途中で道をそれたが、お兄ちゃんについていく。


「あそこだ。見えるか?」


「緑の小さいやつかな。」


「どこだ?草の色と混じって見えないよ。あ、あれか。」


 お兄ちゃんが指をさした方向を見ると、200メートルくらい先に二つの緑の生き物が動いている。


「幹太、前に出てくれるか?」


「分かった。」


 僕は、背中から剣を手に持ち、二人の前に出た。僕の身長ほどある大きな剣はとても軽く感じた。体感500グラム、ペットボトル一本分ぐらいだ。


「私魔法かけていい?<フィジカルアーマー><フィジカルインフォース>」


 章子が、後ろでスキルを呟くと、自分の体が軽くなったように力がみなぎる。


「おお、ありがとう。」


「スキルは口に出さなくても使えるぞ。」


「そうなんだ。」


 ゴブリンを斬る決意を固め、前を歩く。斬れるのか不安だな。スキルを使おう。


 二匹のゴブリンと50メートルくらいになると、様子がよくわかる。どうやらあちらもこちらに気付いているらしい。手には木でできたこん棒を持っているようだ。身長は自分の腰ぐらいしかない。想像以上に小さかった。


「気をつけろよ幹太。」


「任せろ、でも二体同時はきついかも。」



「一匹は俺がやる。」


「がんばってね。」


「ああ。」



「二体ともレベル2でステータスは15くらいだ。」


「それ、弱くね。」


 自分の攻撃力は250あったはずだ。少し安心する。


「油断すんな。」


「分かってる。」


 いよいよ近づいてくると、ゴブリン達は走ってきた。急激に縮まる敵との距離に緊張感が高まる。僕は両手に持った剣を左に構える。


「キキッ。」


 一体のゴブリンがこん棒を振り上げ、自分の間合いまでやってくる。


 来たな。


「<スラッシュ>」


 思わず、スキルを口に出す。


 一瞬で右に振り抜かれた自分の両腕に驚く。目の前のゴブリンは、真っ二つになって、血と肉片をまき散らしつつ、吹っ飛んだ。


「え。」


 あまりのあっけなさに拍子抜けする。


「キキッ!」


 もう一体は、怯えたように、背中を向けて逃げ出した。呆然として、追いかけるのを忘れる。


 すると、自分の横を大きな火の玉が通り過ぎる。熱風が自分の顔を撫で少し驚く。火の玉は逃げるゴブリンに当たると、ゴブリンを包み込んで燃え上がった。ゴブリンは火だるまになってしばらくもがいた後、動かなくなり黒焦げになった。


 後ろを向くと、お兄ちゃんが短い杖を持っていた。さっきのはお兄ちゃんの魔法だろう。


「ああ、ありがとう。逃がすところだった。」


「いや、作戦通りだろう。」



「こいつらすごい弱いな。オーバーキルじゃないか?」


「さっきのファイヤーボールは、火の魔法の初級魔法なんだがかなり威力があるな。」


「あの魔法、僕に当てないようにしてくれよ。」


「大丈夫だ、当てないよ。」


 お兄ちゃんはこっちに向かって歩いてくる。ゴブリンの真っ二つの死体はいつの間にか消えていた。血と肉片も消えていて不思議だ。お兄ちゃんは死体が転がっていた場所まで行くと、小さな薄い紫色の石を拾い上げた。


「なにそれ?」


「魔石みたいだ。これを換金してお金を稼ぐみたいだ。」



「へー。モンスターは死ぬと魔石になるんだ。」


 僕は黒焦げゴブリンの死体のあった場所に行き、小さな半透明の紫色の石を拾った。綺麗な石だな。形を整えれば宝石として高く売れそうだ。


 ふと、静かな章子が気になり、そちらを見ると、少しうつむいて暗い表情をしている。


「章子、どうしたの?大丈夫か?」


 死体を見て気持ち悪くなったのか?


「え、ああ、いや、うん、大丈夫だよ。」


「いや、大丈夫じゃないだろ。ごめんな、嫌なもん見せたな。」


「章子はやっぱりこうゆうのは苦手か?」


 章子は首を振ってこたえた。


「ううん、違うの。でも、逃げるゴブリンを殺しちゃったのは、かわいそうだなって、少しね。でも、初めはこっちに襲ってきてたし、しょうがないよね?なんかお猿さんみたいで、同情しちゃったのかも。」


「そうか。モンスターは倒さないと魔石が取れないんだ。倒せるところで倒さないとお金が足りなくなるかもしれない。すまなかったな。」



「ううん、お兄ちゃんは悪くないの。私こそごめん。」


 少し空気が重くなる。


「おい、章子見てみろよ。この魔石綺麗じゃないか?」


 章子に手に持った魔石を渡した。


「ほんとだ、綺麗。こんなきれいな石初めて見た。」


 章子は渡した魔石をじっくり眺める。


「一個くらい売らずに持っておいても良いぞ。」


 気に入った様子の章子にお兄ちゃんが言った。


「いや良いよ。売った方が良いよ。はい。」


 そういって章子はお兄ちゃんに魔石を渡した。


「そうか、じゃあ、もう今日は帰ろう。」


「そうだね、私もう疲れちゃったよ。」


「今日はもういろんなことがあったしな。」


「そうしよう。」


 僕たちはそう言って、三人で並んでもと来た道を戻った。章子が真ん中、僕が右端、お兄ちゃんが左端だ。




「手とか、つなぐか?」

「いやだよ、何言ってんの?あ、お兄ちゃんとならつないでもいいよ。」

「ハハ。」

「なんだよそれ。三人で手をつないで歩くことは昔からあっただろ。つい最近まで、高い高いして喜んでたけどな。」

「いつの話よ。」

「そんなこともあったかもな。」


 そんな会話をした。

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