第3話 冒険者ギルドでの会話

「ここみたいだな。」


 お兄ちゃんは大きな建物の前で立ち止まった。10階ぐらいいの高さのある大きな建物だ。


「この中に迷宮の入り口があるみたいだ。」


 そう言うと、お兄ちゃんと章子は中に入っていった。僕もついていく。


 中に入ると、ゲームの酒場のようになっていた。天井は高くて広い。冒険者っぽい多様な服装をした人たちがいる。


 僕があたりを見回していると、お兄ちゃんはずんずん前に進んで、受付の前に向かっていった。おいて行かれないように、慌てて小走りで追いかける。


「おう、見慣れない顔だな。ギルドカードを見せてくれ。」


 受付のいかついおじさんが声をかけてくる。


「ああ、はい。」


 お兄ちゃんと章子は手に持っていたカードをおじさんに見せた。


 僕もあわてて、アイテムからカードを出して見せる。


 いかついおじさんは僕の手をじっと見つめていた。なんだろう、少し怖い。


「今、どうやって出したんだ。」


「え。」


「収納魔法じゃないな。」


「えーと。」


「あー、見たこと無いですか?俺たちは皆同じことができますよ。」


 お兄ちゃんが会話に入り込む。


「それはすげーな、収納魔法は知っているが、そんなすぐにできるもんじゃない。収納魔法は何回も見てきたが、ここまで早いのは初めてだぜ。」


 おじさんは、そう言うと、ギルドカードを見た。


「なるほどな、ランクCか、ガシアのウラストストレリアから来たのか。さっきのは、ガシア王国の血族魔法ってやつか?」


「まぁ、そんなところです。」


 知らない単語がいくつか出てきたけど、お兄ちゃんが答える。お兄ちゃんに任せておけば大丈夫だ。


 いかついおじさんは頬に大きな傷があって怖い顔をしている。腕は凄く太い。太った人の太ももくらいの太さだ。


 カードが返されたので、メニューに戻す。


「ランクCだったら、詳しい説明はしなくていいだろ。ここから先にゲートがある。あっちは魔石換金所だ。あっちは食事もできる。食事ができるのは珍しいだろ?結構美味いぞ。腹が減ってたら、食ってみな。」


 おじさんは大雑把に説明してくれる。


「そうなんですね。」


「最初は資料室に行くんだろ、四階にある。カードがあるなら入れるぜ。」


「そうですか、案内ありがとうございます。」


「ああ、俺が受付してる間は、迷宮に行きたくなったら、勝手にゲートをくぐって大丈夫だ。」


「わかりました。それではまた。」


 僕たち三人は受付から離れる。


「俺は資料室に行こうと思う。幹太と章子はお腹すいてないか?ご飯食べてていいぞ。」


「僕も資料室に行きたいな。」


「私少しお腹すいた。」


 まぁ、僕もお腹空いたけど。資料は気になるな、何も知らずに迷宮に入るのは不安だ。


「幹太、悪いが、章子についててくれないか?先にご飯を食べといてくれ。情報は後でしっかり共有するから安心しろ。」


「わかった。章子行こう。」


「うん。お先にお兄ちゃん。」


 章子は資料とか興味無いだろうし、一人でいたら危ないかもしれない。兄と別れて、二人で食事場の方に向かう。


 そういえばこっちの世界に来ていなかったら、もう夜ご飯の時間かもしれないな。


 四人用の席に向かい合って座ると、近くにいたウェイトレスさんがやってくる。


「メニューはこちらになっておりますニャ。」


 ニャ!?語尾に少し驚いて、ウェイトレスさんに注目すると、頭から猫の耳のようなものが生えている。獣人ってやつか。


「え、ああ、どうも、ありがとう。」


 あんまり驚くと失礼かもしれないから、なるべく平静を保っているようにする。


「お姉さん、その頭の耳可愛いね。」


 章子が話しかけた。


「ありがとうございますニャ、お客様も、黒い髪とてもきれいですね。」


「そうかな、ここじゃ珍しいのかな。」


「珍しいですよ。獣人の私たちより珍しいですニャ。」


「へー。」


 章子が知らない人に話しかけるなんて珍しいな。僕は会話を聞きながら、メニューを見る。


 メニューは結構豊富みたいだ。特にドリンクがたくさん書いてある。お酒が多いのかな?


「章子?何にする?」


「んー、どうしようかな、おすすめとかありますか?」


「おすすめは、日替わりランチですニャ。」



「じゃあ、それで。」


「僕も、同じやつお願いします。」


「分かりました、日替わりランチ二点ですニャ。」


 猫耳お姉さんはそう言うと厨房の方へ消えた。


「あ、お兄ちゃんの分頼んでおいた方がよかったかな。」


「兄貴は自分で選びたいだろ。」



「そっかー。それにしても、あの耳可愛かったね。思わず、声かけちゃった。」


「そうだな。さすがファンタジー異世界だな。」


 そういえば、章子は動物が好きだったな、将来の夢は獣医さんって言ってた時があったな。


「幹太は、犬派だっけ?」


「そうだな。どっちも好きだけど。」



「犬の獣人もいるといいねぇ。」


「いや、犬が好きなだけで、犬の獣人が好きなわけではないぞ。」



「いるといいなぁ。」


 章子は恍惚としている。章子って獣人萌えだったのか、知らなかったな。


「いつの間に、そんなに獣人が好きになったんだ?」


「みんな好きでしょ?幹太好きじゃないの?」



「そこまで好きってわけではないぞ。」


「あの耳とか、尻尾とか最高だけどな。最近、獣人が出てくるアニメよく見るんだ。」

 


「へー、そういうアニメ見るようになったんだな。」



「よくリビングで見てるよ。幹太はあまり部屋から出ないもんね。」


「勉強しないといけないんだよ。そういえばこんなに話すのも久しぶりかもな。」



「そうだね。勉強大変そうだね。」


 章子は少しだけ、目をそらした。


「章子は勉強しなくていいのか?」


「私はいいの。」


「いや良くないだろ。」


 章子はあまり成績が良くない。


「この前、タイタニック号のドキュメンタリーがやってたの。そこでね、ノブレスオブリージュって言葉を知ったの?知ってる?」


「知ってるけど、今の話とは全く関係ないな。」



「私はね、思うの。勉強できる人は勉強しないといけないって、それで、勉強できない人を助けないといけないんだよ。勉強できる人は責任もって、勉強できない私の分まで勉強しないといけないんだよ。」


「ええ、滅茶苦茶だな。ノブレスオブリージュの意味とはかけ離れてるし、章子が勉強しなくていい理由になってないぞ。」



「幹太、私の分まで勉強してくれて、ありがとうね。」


 章子が両手を合わせながら言う。都合の悪いことは聞いていないようだ。


「まったく、しょうがないやつだな。」


 僕はあきれた声を出す。


「私の頭の良い友達は笑ってくれたよ。」


「嘲笑だろうな。」


「ミキティーはそんな嫌な子じゃない!」


「いや、知らんし。」


「お待たせいたしました。カニカのムニエル定食ですニャ。」


 そんな話をしてると、猫耳ウェイトレスさんが料理を運んできた。


「わー、おいしそう。」


 どうやら、魚の定食みたいだ。パンとスープとサラダがついている。


「このエルフォードは海の街ですからね。魚はとてもおいしいですよ。おすすめニャ。」


「へー、どうもありがとう。」


「うん。おいしい!」


 妹は早速食べて、喜んでいる。本当においしそうだ。


「良かったですニャ、それではごゆっくりどうぞ。」


 そう言って席から離れていった。



 章子の方を見ると、猫耳ウェイトレスさんの後姿をガン見しているようだ。


「おい。」


「え、何。」


「どこ見てるんだ、あんまり見てると失礼かもしれないぞ。」


「つい、あの尻尾が気になってね。へへ。」


「まったく。いただきます。」


 僕も食べることにする。


 魚の身をほぐして食べると確かに美味しい。外国の料理は不味いって聞くけど、この街の料理は美味しくてよかった。


 僕達はかわす言葉も少なく、夢中でご飯を食べる。想像以上にお腹空いていたようで、すぐに料理は食べ終わった。


「結構、お腹いっぱいになったな。」


「そうだね。」


 章子も食べ終わったようで、お腹をさする動作をする。


「兄貴はまだかな?」


「あ、今戻ってきたよ。」


 章子が僕の後ろを見て言った。


「待たせたな。」


 お兄ちゃんは僕の隣に座った。


「全然待ってないよ。ご飯食べてたし。」


「何か分かった?」


「ああ、この世界ついても少しわかったと思う。」


「まぁ、まずは何かご飯食べなよ。ここの料理めっちゃおいしかったよ。」


 章子はそう言って、メニューをお兄ちゃんに見せる。


「ああ、ありがとう。二人は何を食べたの?」


「どっちも日替わり定食にしたよ。美味しかった。」


「じゃあ俺もそれにしよう。」


 猫耳ウェイトレスさんはすぐに席にやってきた。


「ご注文はお決まりですかニャ?」


「ああ、日替わり定食で。」


「かしこまりましたニャ。こちらのお皿はさげますね。」


 猫耳ウェイトレスさんはそう言って、食べ終えた僕と章子の皿を回収して、厨房の方へ歩いて行った。


 お兄ちゃんの方を見ると、どうやらお兄ちゃんも猫耳ウェイトレスさんのしっぽを見ているらしい。


「おい。」


「うん?ああ、つい見てしまった。さっきから何人か獣人とはすれ違っているが、やっぱりあの動く耳と尻尾は珍しくてなぁ。」


「分かるよ、見ちゃうよねー。」



「ああ、あの耳はどうやってついているのか、人間の耳はあるのか気になるな。内耳の場所が違うだろうからな、頭蓋底の位置はどうなっているんだろうか。顔の位置からして、あそこに耳があるのは不思議だなあ。」


 お兄ちゃんはブツブツ言い始める。


「迷宮のことは何が分かったの?」


 お兄ちゃんの話を遮り、聞く。


「結構わかったぞ、資料はかなりたくさんあった。また行かないといけないな。幹太も章子も今度行った方が良い。」


「そうか。僕も暇なときに行くわ。」


「私は行かなくていいや、文字読むの嫌だし。」



「まぁ、大事なことは俺が教えるから、それでもいいけど。あのゲートを抜けると迷宮につながっているんだが、その先は草原が広がっているみたいだ。一階から十階までは草原地帯のようだ。」


「草原か、暗い迷路とかじゃないんだな。」



「ああ、そういうところもあるみたいだが、とりあえず最初は違うみたいだ。もう一つの世界という風にも書かれていたな。あとモンスターが出る。最初はゴブリンという弱いモンスターみたいだな。一体だけではそこまで脅威ではないらしいが、数が多かったり、種類も豊富で危ないこともあるみたいだ。」


「へー、そうなのか。」


 ファンタジーの基本通りのような気がする。


「やっぱり、戦わなきゃいけないんだよね、私少し心配だな。」


「章子は後ろで隠れているだけでいい。ディストラクトを使えばおそらく安全だろう。とりあえず、俺と幹太でどこまでやれるのか試しておきたい。」


「そうだな。ゴブリンはどのくらいの強さなんだ?」


「冒険者ランクE相当らしい。」



「僕たちはランクCだから、余裕なのかな。だけど、少しわかりづらいな。レベルはどれくらいなんだ?」


「それなんだが、レベルについての記載は見当たらなかった。この世界の人たちはレベルという概念を知らないのかもしれん。」



「まじか、レベルも僕たちだけに与えられた力なのか。」


「正確には、レベルを見る力だな。スキルの鑑定を使うと人のレベルが分かる。」



「そうなのか。鑑定すごいな。」


 鑑定羨ましいな。他人のステータスを見れるなんてチートだ。


「え、じゃあ、もしかして、ウェイトレスさんのレベルもわかるの?」


「ああ、22みたいだな。攻撃力295、防御力190だな。ステータスだけ見れば幹太と良い勝負かもしれない。」


 いつの間に鑑定したんだ。お兄ちゃん。というか僕のステータスも勝手に見られてるみたいだな。


「まじか、てか勝手に鑑定すんな。」


「あのお姉さん強いんだ。確かにそういわれると強そうだね。」


 確かに背筋はぴんと伸びていて、スタイルが良い。細いからあまり強そうではないが、きっと鍛えているのだろう。


「今まで見た中で一番強いのは、受付の人だな。レベル45だ。」


「へー。」


「あの見た目で弱いわけないよね。きっと昔は冒険者だったんでしょ。」


「そうかもしれんな。」


「お待たせいたしました。こちらがカニカのムニエルですニャ。」


 猫耳のウェイトレスさんが近づいてきたので、会話を中断する。


「ありがとう。」


「それでは、ごゆっくりどうぞ。」


 猫耳ウェイトレスさんは席から離れていった。相変わらず、妹は尻尾をガン見しているようだ。


「これは、魚かな、白身魚っぽいな。」


「魚みたいだよ、この街の海でとれたって言ってたよ。」


「へー。」

 お兄ちゃんはいただきますと言って食べ始めた。


「美味しいな。」


「そうだよね。」



「待たせて、申し訳無いな。」


「気にしないで良いよ、ゆっくり食べなよ。僕はメニュー見とくよ。」


「そうだよ、別に退屈してないよ。私は猫耳見とくよ。」


 僕はメニューを開いて、マップを眺めることにする。メニューの力は口に出さずとも念じるだけで操作できるようだ。マップにはこの建物の中までしっかりとうつっていた。


 この3Dマップはハイテクすぎる。この建物、ギルド大迷宮ユーカディア探索拠点は8階建てらしい。資料室だけではなく、治療室、会議室、展示室、店などいろんな施設が入っているようだ。


 マップを縮小して、広範囲の街の全体を眺めることもできるようだ。この街は港町のようだ。武器屋、魔道具屋、など、お店があるようなので、色々地図の中を探索する。


 僕は昔からは地図が好きだ。地図を見て、目的地までの最短ルートを考えたり、寄り道を考えたりすることもある。行ったことのない地図を見て、観光したような気持ちになることもできるし、見ていて飽きない。



「ごちそうさま。待たせたな。それじゃあ迷宮に少しだけ行ってみよう。」


 お兄ちゃんは食べ終わったようだ。


「ああ。」


「よし、行きましょ。」


 僕たち三人は立ち上がった。


「俺会計してくるわ。先にゲートの前まで行っててくれ。」


「ありがと、よろしく。」


 お兄ちゃんは会計をしに行った。


 僕と章子はゲートの方に向かって歩く。ゲートの近くまで来ると、ゲートをよく観察する。ゲートは大きな門のようで、中には真っ白の空間が広がっているように見える。中に入るとおそらく草原につながっているのだろう。


「この中入るの、少し怖いね?」


「大丈夫だろ、あ、今入って行った。」


 他の冒険者6人組がゲートの中に入って消えた。


「ほんとだ、すごいね。」


「待たせたな。行くか。」


「うん。」


 お兄ちゃんは先頭に立って、迷いなくゲートに入って行った。妹はぴったり兄に張り付く。僕も置いて行かれないように後を追いかけた。

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