第2話 メニューの力
気づくと今度は暗い空間にいた。石でできた部屋に正面には階段があり、上から光が差し込んでいる。
近くには、お兄ちゃんと章子がいた。さっきと服装は変わって、お兄ちゃんは身軽なファンタジーのような服装になっていて、かっこいい。章子は、白基調の修道服のような服装になっていて、似合っている。自分はというと、鎧を着ていて、かなり重装備になっていた。背中には大きな剣を担いでいるようだ。
「ついたみたいだな。<メニュー>」
お兄ちゃんが早速メニューと唱えている。
「そうだね。二人ともその服装似合ってんじゃん。」
「幹太はずいぶんごつい服装になったな。重くないのか?」
「全然。」
軽く体を動かしてみる。重装備なのに重く感じず、普通の服みたいで不思議だ。
「ここ、こわい、早く外に出よう。」
「まだ少し待って、二人ともメニューを確認してくれ。」
お兄ちゃんがおびえる妹を止めつつ、メニューを言うように促した。
「「<メニュー>」」
試しに僕も言ってみると、視界に半透明のパネルが浮かび上がった。アイテム、マップ、ステータスなどの項目が並んでいる。
「おお。」
「ステータスの部分に触れると、ステータスが見れるみたいだ。」
「へー」
お兄ちゃんの言うとおりに、ステータスの部分に指を持って行った。人差し指が触れるとステータスが開いた。
永見幹太
レベル 20
クラス 戦士
攻撃力 250
防御力 400
魔力 150
と、表示されている。
「レベルが20で、クラスが戦士って書いてある。」
「そうか、幹太は戦士か。俺は魔術師みたいだ。」
お兄ちゃんは魔術師のようだ。魔法が使えるのはかなり羨ましい。戦士は魔法は使えるのかな?使えないだろうな。
「章子は?」
「レベル20、クラス僧侶って出てる。」
「なるほど、確認ありがとな。」
お兄ちゃんは空中で人差し指を忙しく動かしている。
「マップを見ると、ここは森の中心みたいだ。少し先に道があって、近くの街につながっているみたいだ。」
「へー、マップってそんなにわかるのか。」
「そうだな、かなり詳しく情報も書いてある。街の名前はエルフォード。ここには大迷宮ユーカディアがあるらしい、これがおそらく件の迷宮だろう。」
「へー。」
自分もマップを開いてみる。すると、立体の地図が現れる。地図というより、縮小模型のようだ。注目すると、文字が出てくる。今僕たちは、忘れ去られた神殿アルウィンゲート、にいるようだ。ここは森の中の地下にあるみたいだ。
「すごい。」
高度な地図に感動する。
「じゃあ、早くその街に行こうよ。」
妹は、早く外に出たいようだ。
「そうだな。行くか。」
お兄ちゃんはそう言うと、正面の階段に向かった。妹はその後ろにぴったり付いている。
「幹太、行くぞ。」
「ああ。」
僕はもうちょっとメニューを見ていたかったけど、お兄ちゃんに言われて、後をついて階段を上る。
外は、地図の通り森の中だった。背の高い木が周りを囲んでいる。妹に引っ付かれたお兄ちゃんは正面にある獣道のような細い道を指して言った。
「この道を行けば、もっと大きい道に出るようだ。」
「あんまり、森の中歩きたくないなぁ。」
「どれくらいかな、100メートルくらいかな。」
僕は地図を見ながら、距離を目算した。縮尺とかついてないのかなと思い、探してみる。お兄ちゃんと章子はもうすでに小道に入って行った。僕も行かなくては。
「章子、あまりくっついたら、歩きにくいぞ。」
「だって、こわい。」
「大丈夫だから、少し離れてくれ。」
「うん。」
二人のやり取りを後ろから見つつ、ついていく。森の中は木々のせせらぎが聞こえるだけで静かだ。
「ところで、お兄ちゃんは大学で何してたの?」
暇なので、話しかける。
「解剖実習してて、疲れたから、食堂に休憩しに行ってた所だ。」
「今日も解剖だったんだ。」
てか、実習中に抜け出していいのか。大学は自由だな。
「最近は毎日だな。」
「お兄ちゃん、解剖してる中、何か食べようとするなんて、すごい神経してるね。」
妹が会話に入ってくる。
「解剖してると、お腹減るんだよな。腰も痛くなるし、少しだけ休憩したくなるんだよ。」
「えー、私は無理だな。解剖なんて。」
「人は慣れる生き物だぞ。良くも悪くもな。」
「ふーん。私は慣れる気がしないや。」
慣れる生き物か。僕たちもいつかきっとこの世界の生活に慣れるのかな。まだ、衣食住とか、迷宮とか、不安がいっぱいなんだけどな。早く慣れるといいな。ふと、ダジャレを思いついたので、言ってみる。
「章子も、慣れるように、なれるさ。」
「「…」」
少し風が冷たく感じる。改めて考えるとダジャレじゃなかったかも。
別に皆に笑ってもらおうと思ったわけでは無い。面白くも、上手でもないのは分かっている。ただ少しだけでも、僕たち三人兄妹の間に走っている緊張が無くなればいいなと思ったのだ。
僕達はこんな状況になって皆不安なはずなんだ。でも、皆で一緒だから、恥ずかしいから、心配かけたくないから、何でもないことのように、強がっているだけなんだ。きっとそうさ。
「幹太は、よくそんなつまらないことが言えるね。上手でもないし。」
章子は少し毒舌だ。
「ハハ、そんな褒めるな。」
「へー、つまらないって、褒め言葉なんだ。もっと褒めてあげようか?」
「冗談です。優しくしてください。」
「ふん。」
早めに自分が折れる。章子は僕には少し冷たい気がする。お兄ちゃんのことはお兄ちゃんって呼ぶけど。僕は普通に幹太だし。あんまり、お兄ちゃんと思われていないような気がする。お兄ちゃんにはとても懐いているので、少し嫉妬する。僕もお兄ちゃんは好きだし、しょうがないか。
そんな会話をしていると、広い石でできた道に着いた。
「こっちだな。」
お兄ちゃんは出て右の方向に歩き出した。章子はそれに並んで歩く。自分も兄の隣に並ぶ。
「おお、もう見えてるじゃん、あれ、建物だろ。街か。」
「そうだな。」
お兄ちゃんは人差し指を空中で動かしながら、歩いている。
「兄貴、メニュー見てんの?危なくないか?ちゃんと前見て歩きなよ。」
「大丈夫だ。」
「そう、大丈夫、私がお兄ちゃんの目になるから。」
「なんだよそれ。」
「別に必要ない。前はしっかり見えてる。」
「えー。」
章子はだいぶ落ち着いたみたいだ。さっきまで不安そうだったけど、いつものようになって良かった。お兄ちゃんのおかげだろう。お兄ちゃんはやっぱり頼りになるな。
お兄ちゃんがふと何かを手に持つ。カードみたいだ。
「なにそれ?」
「ギルドカードらしい。迷宮に入るために必要みたいだ。街に入るのにも必要かもしれん。アイテムのところに入ってた。」
「へー。」
「二人とも確認してくれ。」
「うん。」
メニューを開き、アイテムに触れる。するとアイテムの文字がたくさん並んでいる。携帯食料、テント、ギルドカード、お金1,000,000、防具、剣などの項目が並んでいる。
「おお、いっぱいある。」
ギルドカードの項目に触れると、取り出す、説明の二つの選択肢が出てきた。すかさず、取り出すの文字に触れる。すると右手にお兄ちゃんと同じような銀色のカードを持っていた。
「出てきた。すごい。」
章子が感動しているようだ。僕も感動してる。ゲームが現実になったみたいだ。
名前 カンタ ナガミ
ランク C
クラス 戦士
登録地 ウラストストレリア
識別番号 20128321
などの文字が書いてある。ウラストストレリアってどこだろう。
そういえば、カードは出したらしまえないのかな。手に持っていたら邪魔だ。この鎧ポケットがついてない。そう思って、カードをアイテムのパネルに持っていき、戻せないか試すと、吸い込まれるように消えた。アイテムの欄にはギルトカードという項目が戻っている。
「幹太、今のどうやったんだ?」
「画面に戻そうとしたら、戻ったよ。」
「おお、戻った。」
お兄ちゃんも同じようにカードをしまったみたいだ。
アイテムの画面を見ながら歩いていると森を抜けた。小さな橋の向こうには街がある。人も結構多く見える。検問とかは無いみたいだ。
「なんか、外国みたいだね。」
章子がつぶやく。
「そうだな。」
外国なんて行ったことないけど。
「人、たくさんいるね。」
「そりゃいるだろ。」
「私たち、怪しまれないかな。」
「大丈夫だろ。」
橋を越えると街の綺麗な道に入る。何人かがこっちを見ているのが分かる。
「ちょっと注目されてるみたい。」
章子が不安そうに小さな声で口に出す。
「章子、あまりきょろきょろすんな。黄色人種はこっちじゃ珍しいのかもしれん。」
「はー。言葉通じんのかな、これ。」
日本語で大丈夫なのかな。
「そういえば、そうだな。カードには日本語が書かれていたが。」
「あそこの看板日本語だよ。」
章子が指をさす。
「本当だ。」
「聞こえてくる言葉もたぶん日本語みたいだ。」
英語の看板もあるけど、言語は日本語で大丈夫みたいだ。
「兄貴、今はどこに向かってるんだ?」
「宿屋に向かっている所だ。」
「私もう疲れちゃったよ。」
「まだ何もしてないだろ。」
確かに疲れたが。不思議な出来事がたくさん起きてるから、疲れるのだろう。
「あそこの宿屋だ。シェーブロン、見えるか。」
四階建てぐらいの大きな赤い建物が見えた。
「結構良さそうな所じゃん。」
目の前まで付くと、お兄ちゃんが中に入って行く。章子と僕も中に入って行く。中はロビーで、机がいくつも並び、目の前には受付があった。受付には金髪の女性が立っている。受付嬢かな。
「こんにちは、ご宿泊ですか?」
目の前まで行くと、話しかけてくる。日本語で大丈夫だった。
「ああ、そうです。部屋は空いてますか。」
お兄ちゃんが対応してくれる。
「現在、二人部屋がいくつか空いてますね。個室と四人部屋もあるのですが、埋まってます。」
「じゃあ、二人部屋を二つ貸してください。」
「かしこまりました。一泊当たり、代金が7800エルになります。料金は一泊ごとにお支払いください。」
お兄ちゃんが、指を動かし、手に何かを出した。この世界のお金だろう。
「これで大丈夫ですか?」
「収納魔法!ええ、ちょうどですね。」
受付嬢さんは驚いている。青い瞳を大きく見開いた。
メニューのアイテムの力は収納魔法と呼ばれているのか。確かに魔法のようだけど。この反応を見ると、こっちの世界の人全員が使える力じゃないみたいだな。
「それでは、こちらがカギとなっております。出かけられる際は鍵はこちらにお預けください。三階の305と306の部屋になってます。階段はそちらです。ごゆっくりどうぞ。」
受付嬢さんはそう言うと、お兄ちゃんにカギを二つ渡した。
「どうも。」
お兄ちゃんについて行って、階段を上っていく。
「そういえば、部屋割りはどうするの?」
気になったので聞く。
「男と女で良いんじゃないか?章子は二人部屋を一人で使っていいぞ。」
「私、一人は嫌だ。お兄ちゃんと一緒が良い。」
「じゃあ、僕一人で使ってもいい?兄貴はついててあげなよ。」
「そうか、じゃあ幹太、はいこれ。」
お兄ちゃんが僕に306と書かれた鍵をくれた。
「ありがとう。」
「とりあえず、305の部屋でこれからのことを話そう。」
「わかった。」
305の部屋の前に着いたので、中に入る。ベッドが二つと机が一つ並んだだけのシンプルな部屋だけど、綺麗で結構広い。
「わー、結構いいじゃん。」
章子は嬉しそうに言って、手前のベッドに腰を掛けた。楽しそうにベッドの上で弾んでいる。
お兄ちゃんと僕は机から椅子を二つ、ベッドの前まで運んで座った。三人で円のような形になる。
「わたし、もう疲れちゃったよ。」
先ほど聞いたようなセリフを吐きつつ、章子はベッドの上に倒れこんだ。
「まだ何もしてないだろ。」
「今日は、少し迷宮に入ってみようと思っていたんだが、もう休むか?」
お兄ちゃんが提案する。
「うーん。」
章子は枕に抱き着いている。
「章子は休んでてもいいんじゃないか。僕とお兄ちゃんだけでも迷宮に行こう。早く迷宮に行ってみたい。」
「それもそうだな、わざわざ三人で行く必要ないかな。」
「ヤダ、私も行く。お兄ちゃんと一緒が良い。」
章子は枕に抱き着いたまま、勢いよく身を起こした。
「なんだよそれ。」
「じゃあ、早速だが、メニューのスキルを確認してくれないか?どんなことができるのか把握したい。」
「うん!」
章子は突然元気になった。
お兄ちゃんの言うとおり、メニューのスキルを開く。
スラッシュ
抜刀斬り
高速移動
状態異常無効
挑発
上のような文字が並んでいる。
「スラッシュ、抜刀斬り、高速移動、状態異常無効、挑発って書いてるな。」
「幹太は、近接戦闘タイプだな。章子は?」
「ヒール、ハイヒール、エリアヒール、フィジカルアーマー、フィジカルインフォース、マジックインフォース、ディストラクト、アンチポイズンって書いてある。まだあるけど。」
え、章子のスキル多くないか。僕は5個だぞ。
「僧侶はやはり支援系か、光の魔法だろ、説明になんて書いてある?俺は、火の魔法、水の魔法、土の魔法とかが使えるみたいだ。ファイアボールとかだな。鑑定、探知もあるな。説明を見るとスキルの詳細がわかるぞ。」
「もしかして、僕ってスキル少ない?」
「確かに、俺はスキルが15個くらいあるけど、クラスの特性によるんだろう。」
「そうなのか。」
自分のスキルが少ないとわかって、ショックだ。
「幹太、5個しかないの?少なーい。」
章子がにやけて煽ってくる。
「大事なのは、量じゃない質だ。」
気にしてない風にかっこつけて返す。
「くさ。」
章子は鼻で笑った。
章子の事は気にせずにスキルの詳細を見る。
スラッシュ
高速で剣を斬りつける。
抜刀斬り
剣を収めた状態から、素早く剣を持ち、高速で斬りつける。
高速移動
高速で数歩分程度動く。
状態異常無効
状態異常にならない。
挑発
生き物の敵意を刺激する。非常に狙われやすくなる。生き物によっては興奮状態となる。
スキルの詳細はこんな感じだ。スラッシュとか早く使ってみたいな。
「迷宮の中での戦闘は、幹太が戦闘で、俺が後ろから攻撃で、章子が支援のため後ろで隠れとくのがよさそうだな。」
「そうだね。」
「ディストラクトって、敵から狙われにくくなる効果があるんだって、これ使えばいいのかな。」
「そうだな、使っておいてくれ。まだ、迷宮に入ってないからわからないが、最初はそれで行こう。」
お兄ちゃんの作戦を受け入れておく、確かにそれが良いだろうな。
「じゃあ、早速行こうか。」
「ああ。」
そして僕たち三人とも迷宮に向かうことにした。
迷宮がどんなところなのか不安な気持ちもあるけど、ワクワクの方が大きいな。異世界の迷宮なんて、ファンタジーの鉄板だよな。
僕は、胸に期待を膨らませつつ、二人の後ろをついて行った。
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