三人兄妹次男の異世界冒険物語
寝坊 助丸
あの頃はまだ超余裕だった
第1話 白い空間に響く声
気づくと、真っ白な空間に立っていた。
「あれ?」
驚いて、あたりを見回すと、すぐ隣にお兄ちゃんと妹がいた。妹は水泳部の競泳水着の姿で、濡れている。寒くなってきたこの季節にその格好は寒そうだ。
「なにこれ?」
「いや、こっちの台詞なんだが、ここどこ?」
「なんで、お兄ちゃん達がいるの?私、さっきまで、プールにいたのに。」
プール?自分は何をしていたっけ?
そうだ、僕は学校が終わって帰る所だったんだ。
「僕は今から帰るところだったんだけど。」
「俺は少し休憩しようと大学の外に買い出しに行ってた所だ。」
「私、こわい。」
「大丈夫だろ。これ羽織れ。」
章子が不安そうなので、励ます。大丈夫なんて保証はないけど。水着姿でいるのは寒そうなので、自分の学ランを脱いで章子に渡す。
「ありがと。」
「とりあえず、生きてるから、大丈夫だ。」
お兄ちゃんはあたりを見回している。この真っ白い空間は不思議だ。白すぎて、床と壁と天井の区別がつかない。この世ではありえない。
「こんにちは!」
突然、女性の声が響いた。
「誰だ!?」
三人ともびっくりしたが、お兄ちゃんが言った。
「私は女神よ。初めまして。」
「女神?どうして俺たちはこんなところにいるんだ?」
「それは、貴方達が死んだからよ。」
「は?」
「え。」
「うそ。」
驚きすぎて、間抜けな声が出てしまった。僕が、僕たちが死んだ?にわかには、信じられない。
「いや、正確には死ぬところだったね、三人とも雷が落ちて死ぬところだったのよ。まぁ、今は生きてるし、最後はちゃんと助けてあげるから、安心しなさい。」
雷?そうか、そういえば、帰る時には雨が降っていたんだ。朝は晴れていたのに急に雨が降ってきて、ついてないなと思っていたのだ。傘を差しながら自転車を押して帰っている途中でいきなり視界が真っ白になったのだ。
その時に雷が落ちてきて死んだのか…。
「なんだって、意味が分からない。もっと説明してくれ。」
お兄ちゃんが代表して、謎の自称女神の声に話しかけている。
「そうね。まぁ、とりあえず、落ち着きなさい。貴方達には、協力してほしいことがあるの。それが終わったら、貴方達を元の場所に、元の時間に、元の状態で完全に戻してあげるわ。」
「協力?」
本当に完全な状態に戻せるなら、あまり心配しなくてもいいな。
「貴方達には私の作った世界のテスターになってほしいの。」
「世界を作った?」
「そうよ、女神ですもの。かなり上手に作れたんだけど、この世界の生き物の存在が少しだけ、不安定なの。特に知的生命体のね。多様性、確実性、感受性、個性、とかに少しだけ、脆弱な所があるの。普通は気づけない範囲で直すのも難しいのよね。そこで貴方達の存在が必要なの。完成された世界の知的生命体を参考にしたいわけよ。」
「具体的には、何をしたらいいんだ?」
「しばらく、目標をもって生きて、それを達成して欲しいわ。そういうわけで、私の作った世界の迷宮をクリアして欲しい。それで世界の歪みを矯正するデータが取れるわ。」
混乱してて、お兄ちゃんと女神様の会話についていけない。集中しないと。異世界の迷宮をクリアすればいいのか。少し楽しそうだな。
「拒否することはできないのか?」
「無理ね。色々理由があるけど。他の存在を見つけるのが無理なのよね。雷落として、転移させるのだって、何回もできないし。」
「雷落としたのはお前だったのか。雷から助けてくれたと少し恩を感じていたのに、マッチポンプじゃないか。」
「別に恩に着せるつもりなんて無かったわよ。てか、その口調で恩なんか感じてたの?和樹君。」
どうやら、雷を落としたのは、女神様の仕業だったらしい。確かに三か所同時に雷なんて自然では有り得ないな。
「迷宮って言ったか危なくないのか?」
「危ないけど、貴方達は大丈夫。死んでも復活できるわ。貴方達の存在自体は元の世界で固定されているから、貴方達が本当に危なくなることはないわ。それと、年を取ることもないわ。こっちの世界では、実質不老不死ね。ゲームをするように気楽にしてほしいわ。」
「なるほどな。」
「ほかに質問はあるかしら?幹太君も章子ちゃんも遠慮しなくて良いのよ。」
わからないことは沢山あるけど、そうだな、何を質問すればいいのか思いつかない。
「えーと」
僕が迷っていると、章子が口を開いた。
「クリアまでってどれくらい時間がかかるんですか?」
「貴方達の時間に合わせると、三年かしらね。」
「長い!」
章子が大きく声を上げる。確かに三年は長いかも元の世界を少し忘れてしまいそうだ。
「そうかしら、結構短いと思うんだけど。」
そういわれると、確かに短いかも、たった三年で、世界が完成されるならすごいことかもしれない。
「三人も行く必要ありますか?」
「全員必要よ、章子ちゃんだけ戻すことはできないわ。」
「そんな。」
章子が落ち込んでしまった。雰囲気が重たい。
「大丈夫だって、迷宮なんて、僕と兄貴がすぐにクリアしてやるよ。」
「そうだぞ。心配すんな、危ないことは全部俺がやる。」
「うん、ごめん。」
章子は、まだ少し落ち込んでいる。まぁ、しょうがない。章子はまだ中1なのだ。それに、マザコンだし。いつも母さんと一緒で、風呂にも、寝るときにも一緒だ。妹は少し成長が遅くて、まだ親離れができていないのだ。
章子だけでも戻せるなら、戻してあげたい。かわいそうだ。
「幹太君は何かある?」
「んー、僕は大丈夫です。」
「そうなの。」
また名前を呼ばれて、少しドキリとする。どうして、名前知っているんだろうか?女神だし、それぐらい知っていて当然か。
「よし、じゃあそろそろ行ってもらうわよ。皆には、こっちの世界の人にはない力をたくさん授けておくわ。アイテムも装備もしっかりしたやつを付けておくから、確認してね。迷わないようにはしておくから。こっちに着いたら、メニューと唱えてみてね。」
「そうか、わかった。」
力か、特殊能力とかかな。どんな力だろうか。
「それでは、貴方達が無事、この世界の迷宮をクリアできるように祈っています。」
女神様が急に改まった口調でそう言うと、視界は真っ白になった。
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