第11頁「暗闇」

「わっ!?」


 急に部屋の中がになり、僕は思わず声を漏らしていた。

 普段なら明かりを消しても窓からが入ってきて、部屋の中はそれなりに明るいのだが、その時は自分の手すら全く見えないほどの闇だった。


(おいおいマジか…何にも見えねえじゃねえか…そうだスマホ…!!!)


 スマホの明かりを、と思ったときに僕はやっと気が付いた。

 スマホは左手に持ったままだ。


 自分自身に起きていることの原因も状況も分からずに焦った僕は、なにも見えない状態でで周囲の状況を確認しようとした。


 左手にはスマホを持ったままで、右手で辺りを探っていたときだった。


 ヌルっ………


「うわっ!?」


 生ぬるいが右手に触れた。


 その瞬間、は明るくなった。


 後日、眼科に行って検査をしたが、僕の眼に全く異常はなかった。

 その時に診てもらった眼科の先生からを教えてもらった。


「私も長い間この仕事を続けていますが、時々、全盲の方の診察をすることがあるんです。中には後天性の方もいて、その方たちがたまにをすることがあるんですよ。目が見えなくなってから手探りで物を探すことが増え、その時たまにに触れることがある、という話なんですが、もしかしたらそれかも知れませんね。」


 その先生の話は冗談なのか本気なのかはわからなかったが、に触れた側の僕としては、そんな話は聞きたくなかった。








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