西が丘高校占い研究会(仮)の奮戦 ③
「正直なところ、」
某ファーストフードチェーン店、東西が丘駅前店。
昨日と同じテーブルに、昨日とおなじ、宮川由比香と文妻京司郎の姿があった。
「我ながらこんなに自分の人脈が当てにならんとは思ってなかった」
しかつめらしい表情で、腕組みをして言う文妻に、今日は遠慮せずにテリヤキチキンバーガーをほおばろうとした由比香の手が止まった。
「あの、それってどういう……」
「声をかけようにも、予選落ちの人間がほとんどだ」
「予選落ち、ですか」
いま一つ理解っていない顔で由比香はオウム返しに言う。
「つまるところ、俺の知り合いはほとんどの人間が部活動に参加しているので、校則の兼部条項に引っかかってしまう」
「でも、学園祭のエキシビションで、その辺は解決したんじゃありませんでしたっけ?」
訊かれた文妻の表情が、苦々しいものに変わる。
「その辺はいろいろと事情があってな……。まぁ、次期生徒総会の校則改正案で盛り込まれるそうだから、一応解決したってことにはなるだろうが、ともあれ、現状、校則は校則だから、兼部前提で部員を集めても認められはしないだろうな」
少々暗い表情になった由比香は、無言のまま、テリヤキチキンバーガーをかじる。
「翻って見るに、俺の知り合いで部活に入ってない人間は二桁といない。おのずと候補は限られる中で、占いに人並み以上の関心を持つ人間がいるかと言うとだな、」
そこで言葉を切った文妻は、続く言葉とストローで吸いこんだジンジャエールを一緒に飲み込んだ。
一口だけかじったテリヤキチキンバーガーを手に由比香はフリーズした。
「なぁ、みやがー」
フリーズしたポーズはそのままに、視線だけは文妻に向ける由比香。
「この際、新学期まで待って、新入生から部員を募って公認してもらったらどうだ。呼び込みに人手が必要なら、俺も協力するし、」
「だめです」
文妻の言葉をさえぎって由比香が言う。
「うちの高校にどれだけ部活があると思ってるんですか。それに、公認されなければオリエンテーションにも出られないし、勧誘場所の割り振りもないんですよ。そんな状況で、部員が確保できると思います?」
「むぅ」
正直、部活の運営そのものには参画していない文妻には、いまいちそのあたりがわからない。
「来年度以降、まともに活動するためには、なんとか三月頭までに公認してもらわないと、まともな新入部員勧誘すらできないんです」
「そういや、うちには五十以上の公認団体があるんだったっけか」
少々うんざり気味の顔で文妻が言うと、由比香はこくこくとうなずいた。
「となると、もはや正攻法しか手はないか」
「正攻法?」
訊き返す由比香に、文妻は大きくうなずいた。
「うむ。勧誘をしよう」
翌日放課後。
西が丘高校昇降口前に、即席の屋台が設置され、そこには大きなのぼりが立てられた。のぼりにはマジックで、『占い研究会(仮)会員募集!』と書かれていた。
屋台の前には仁王立ちの男女、すなわち、宮川由比香と文妻京司郎の姿がある。
「と、いうわけでだ。来年度新入部員勧誘の予行練習も兼ねて、ここで無差別勧誘を行おうと思う」
「了解です、先輩」
びしっと敬礼をキメる由比香に、腕組みをしてうんうんとうなずく文妻。
「とはいえ、問題は、通りがかる人がなんかあんまりいないという事実なんですが」
それも道理、部材の調達に手間取ってしまったため、既にほとんどの部活動が活動を開始したあとの設置となってしまったのである。その中には当然、帰宅部も含まれていて、ほとんどの部員が絶賛活動中の有様である。
「まぁ、当然、今日一日で何とかなるなどとは思ってないだろう? 今日のこの設置は明日への礎だと思えばいい」
「はい先輩。とはいえ、こんなところに置いておいたら、撤去されはしませんか?」
「無論。なので、隠し場所も設けてある」
段ボール製屋台は素早く折りたたみ可能。そのまま自転車置き場の隙間に素早く差し込むと、何事もなかったかのように隠しこまれた。
「問題は、素材が素材だけに雨に弱いことだが、この場所ならよほどの大雨でも降らん限りは影響ないはずだ。というわけで、明日から本格的に勧誘活動を始めよう」
「はいっ。でも先輩、その……」
元気な返事から一転して、少し怪訝そうな表情で文妻をうかがう由比香。
「なんだってそう、ノリノリなんですか?」
最初は迷惑極まりない、という態度だったはずの文妻は、今日この場にいたって、実にアクティブである。
「まぁ、なんつーかな。はじめは簡単なものにするつもりだったんだが」
と、屋台の隠し場所に目を向ける文妻。
「なんか、作ってるうちに凝りだしたら止まらなくなってしまって。出来たもの見たら、なんだかこう、やってやるぜ感が」
その言葉を聞いて、一瞬ぽかんとした由比香だったが、くすくすと笑いだした。
「先輩って、意外と凝り性な人だったんですねぇ」
「否定はせん」
笑われたことにいささかむっとした表情になりながらも、文妻は一つの達成感を覚えていた。
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