西が丘高校生徒会の非日常 ~或いは文妻VS生徒会長~ ⑫
本校舎三階。
その叫びは文妻にも聞こえていた。
「聞こえたか千里」
「もちろん」
互いに無駄口は叩かず、すぐ近くの階段から上がろうとしたその時。
ぱ~ぷ~ぱ~ぷ~……。
「何だ?」
間の抜けた救急車のサイレンが近づいてくる。踊り場から姿をあらわしたその正体は。
「嬉ヶ谷?!」
頭上高く、その間抜けな音源の箱を差し上げたまま、会長は文妻と目が会うと不敵に笑って見せた。
「箱はここだぞ、文妻!」
そしてドップラー効果すら伴いながら、階下へと降りていく。
文妻と矢羽は、むしろその間抜けな音に気を取られて、会長と、遅れて続く追跡者の集団を呆然と見送った。
「箱、だったね」
「あぁ」
「でも、あの音は一体何?」
呆然としたままで顔を見合わせて、はたと我に返る二人。
「音なんざどうでもいい。追うぞ」
先頭の会長は既にはるか彼方であったが、追う集団の最後尾あたりには何とか追いつくことが出来た。本校舎二階の廊下を突っ切った後、どうやら降りたのとは反対の階段から、また三階に上がったらしい。
「なにやってんだ、あいつは」
「多分、チェックポイントの関係なんじゃないかな。三階は目の前に私たちがいたから、反射的に避けちゃったんじゃない?」
「なるほどな」
集団は、三階の渡り廊下から、特別棟に流れていく。そのまま、一番奥の化学室に向かうところで、渋滞が出来ていた。文妻と矢羽もあえて奥に入り込むことはせず最後尾で様子を見ることにする。
少しして、モーセが目前にした葦の海のごとく、人垣が割れて奥から間抜け音箱を手にしたままの会長が出てきた。
左右に威嚇の視線を投げながら人垣を抜けようというところで、文妻の姿を認め、目の前で立ち止まる。そしてまたあの不敵な笑みを浮かべる。
「どうした! 箱は奪わんのか!?」
サイレンがうるさいので、どうしても大声になる。
「今はな!」
文妻の狙いはわかっていると、言いたげに会長は悠然と歩み去る。その後ろから、恐らく文妻と同じ結論に達しているらしい集団がぞろぞろと続く。
文妻と矢羽はまた最後尾について歩き出した。今度はさっきよりは距離が近いはずだが、背が低い会長は完全に埋もれて姿は見えない。
「どうするの?」
と、まだ文妻の狙いがわかってなかった矢羽が尋ねる。
「なに、チェックポイントは全部会長に回ってもらおうと思ってな。多分ここの全員同じ考えだ」
「あ、なるほど。途中で奪い合いになったら、チェックポイントもゴールも確認する暇がなくなっちゃうからか」
「そういうことだな。とは言え、最後のチェックポイントを過ぎたら、一度は手に入れてゴールの位置を確認したいところだが……」
文妻は思案顔で悠々と進む集団の後に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます