西が丘高校生徒会の非日常 ~或いは文妻VS生徒会長~ ⑩
「わたしね、今回の件でつくづく思ったんだけど」
当てもなく歩く本校舎の廊下。まだ出し物も一部で継続している中、きょろきょろと探し回りながら矢羽が呟く。
「写真て、当てにならないもんなんだね」
特に探し回るそぶりも見せずに隣を歩いていた文妻が振り向く。
「まぁなぁ。あれでわかる情報は外見だけで,大きさも重さもわからんからなぁ。そこまで計算してるとしたら、実行委員長とやらは相当の食わせもんだな」
実際、大きさがわからない、というのは全ての参加者に共通の悩みだった。極端な話、ものすごく小さければどんな隙間にだって収められてしまうのである。現に、今二人の前でも水飲み場の下を這いずって覗いている男子生徒がいる。
「こりゃ結構難儀かもな」
それを見ながら、まるで他人事のように肩をすくめて言う文妻。矢羽は、呆れ半分、怒り半分で文妻に詰め寄る。
「あんたさ。真面目に探す気あるの? なんか全然そういう風に見えないんだけど」
険しい矢羽の視線を愛想笑いで受け流して、文妻は小声で返答する。
「実はあの箱は全然探してない」
「……あのねぇ!」
一瞬呆然としてから、憤然と声を上げた矢羽に、文妻は人差し指をたてて静かにするようにと合図を送る。はっとして回りを確認すると、結構な注目を集めていることに気がついた。ただでさえ文妻が目立っている上にあの声である。
「ま、歩きながら小声でな」
周りに愛想笑いを振り撒きながら、早足でその場を後にする。なぜか何人かが距離を開けて追跡してくるが、少々距離が開いたところで矢羽が口を開く。
「んで、何か考えがあって探してない、とでも言うの?」
「まぁな。俺が探してるのは、騒ぎの中心、或いは嬉ヶ谷」
矢羽がきょとん、とした顔で立ち止まる。
「会長?」
文妻は後ろにちらっと視線を送りながら、矢羽に歩くよう促す。
「これは俺の勘なんだが。この箱を最初に見つけるのは嬉ヶ谷だ」
「なによ、その勘、って言いたいところだけど、妙な説得力があって否定し切れないわね」
「だろ?」
まだなにもしてないのに、してやったりと言わんばかりの笑顔を向ける文妻。
「まぁ、この勘が外れたとしても、箱は必ず一度は嬉ヶ谷の手に渡るはず。となれば、嬉ヶ谷がいるか、さもなくば騒ぎが起こっているところにいけば、自動的に箱も見つかるというわけだ」
「なるほど、でも、最初に手に入れようとは思わないわけね」
「そりゃそうだ」
自信満々に言う文妻に苦笑する矢羽。
「これが策ってもんだからな」
上機嫌の文妻を前に、溺れなきゃいいんだけど、とは思っても言えない矢羽だった。
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