西が丘高校生徒会の非日常 ~或いは文妻VS生徒会長~ ⑨

「ええ、まぁ、こうなるでしょうね」

 そろそろターゲット発表となる正午近く、影山は容赦なく会長にキャプチャーされていた。

「何か言ったか?」

「いえいえ、パートナーの栄に浴し光栄でございます、会長」

「そう皮肉を言うな」

 両手を腰を当て、ふん、と鼻から息を噴出して、会長は影山を見上げた。

「執行部代表ということであれば、会長、副会長で出るのが筋というものだ。カゲマルが忍者っぽい名前の割に運動神経があまり優れてないことは私も承知している。その分は」

 ニィ、と歯を剥き出しに笑う。

「根性で補え」

「了解しました、が、忍者っぽいのは会長のつけたあだ名であって、自分の名前ではありませんよ」

「瑣末なことにこだわる奴だ」

 影山の抗議を一言で斬って捨て、くるっと背を向けた会長は大股で歩き出す。

「ともあれ、我々に許された結果は勝利のみだ。おおよその事は私に任せておけ。影山はゴールする時に、傍らにいてくれれば良い」

「はっ」

 久々にまともに名を呼ばれ、影山の気が少し引き締まる。

「そろそろか。では、掲示板でも確認に行こう」

 と、会長が言った途端にスピーカーから実行委員会のジングルが鳴った。


『こちらは、学園祭実行委員会です。ただいま正午となりました。本日の一般公開は午後二時までとなりますので、一般来賓の皆様はお時間に気をつけてご観覧ください。なお、ただいまより、校内掲示板三箇所にて、後夜祭エキシビジョンイベントのターゲットを発表いたします。参加予定の方はお早めにご確認ください。なお、まだターゲットは学内に配置されていませんので探しても無駄です。以上、実行委員会からのお知らせでした』


 放送が終わると同時に、人だかりのする三箇所の掲示板に実行委員の腕章をつけたスタッフがポスターを貼る。それは……

「本当に宝箱とはな……」

 そう、海賊映画にでも出てきそうな重厚そうな木製の宝箱だった。ただし、簡単な写真に、『ターゲット!』という文字があるだけで、その他の情報はまるでない。貼り終わった実行委員は、ポスターへのいたずら防止の為か、SPのごとく両脇に後ろ手を組んで立つ。

「これだけではよくわからんな。実行委員、大きさはどんなものだ?」

 質問をした会長にちらりと視線を送るが、すぐに正面に向き直り、恐らくはマニュアルどおりであろう返答をした。

「ターゲットに関する質問には、一切お答えできません」

 会長以外にも、重さは、中身は、まさかこのポスターがターゲットとか言うオチじゃないだろうな、などと質問が飛ぶが、歩哨役の実行委員はただ一言を繰り返すだけ。さすがに、このポスターがターゲットではありません、とは返答したが。

 とりあえず、ターゲットを確認した面々が三々五々散り始めた時、会長と文妻がお互いの姿を確認し、どちらともなく歩み寄って、正面からにらみ合うような格好になった。とは言え、二人の身長差は実に三十九cm。会長が見上げるような形になるのは否めない。

 立ち去りかけていた者が思わず振り返るほど、場の空気が緊迫する。二人は一言も口を利かず、ただじっと互いの目を見つめているだけだ。

 たっぷり三十秒はそうしていただろうか。

 どちらともなくふっ、と笑みを浮かべると、そのまますれ違う。一気に緩む場の空気。

 まっすぐ歩く会長の背後から影山が小声で話し掛けた。

「舌戦とか、なしですか」

「体力は温存しておかんと」

 会長の笑みが一段と深くなる。

「敗者に止めの一言を言う為に、な」


 そして、午後二時、学園祭最終日、一般公開時間終了。

 午後二時二十三分、エキシビジョンイベントの開始が宣言された。

制限時間は完全下校時刻三十分前となる十八時ちょうど。

参加申告もないので、誰が参加者やらわからない状態で学校内は探索の場と化した。

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