西が丘高校生徒会の非日常 ~或いは文妻VS生徒会長~ ⑦
そして、ついに学園祭当日を迎える。
今回は三連休に当たったため、これまた会長の捻じ込みで会期が三日間、初日は内部公開、二日目と三日目の午後二時までが一般公開、その後が後夜祭という豪華に過ぎる構成となった。
注目の後夜祭イベント細目は最終日、つまり三日目に発表となっていた。主役と目される二人も学園祭を多忙に過ごし、瞬く間に二日間が終わり、三日目の朝がやってきた。
朝のホームルームがクラスごとに終わって、三日目の開会放送を待つばかりとなった時間。三日目ともなれば疲れを感じていいはずだが、お祭り騒ぎの高揚感からざわめきが絶えない校内に、学園祭実行委員会からの放送を示すジングルが鳴り響いた。
『おはようございます。本日はいよいよ最終日ですが、開会宣言に先立ち、実行委員会よりお知らせがあります』
ざわめきがひときわ高くなり、急に沈静化する。外部の音が聞こえないはずの放送室で、そのタイミングを図ったかのように、鷲津は言葉を続けた。
『本日の後夜祭にて開催される、エキシビジョンイベントですが、次のようなルールにて開催します。
一つ、目的は宝捜しとします。本日正午、学内の複数の場所にそのターゲットの写真を掲示します。参加者はそれを学内のある場所から探し出してください』
参加者ったって、会長と文妻だろ~と、どこかで声があがる。
『二つ、ターゲットをゴールまで運ぶことが勝利条件となります。なので、ターゲットがゴールに着いた時点で所持していた者が勝利者となります。その者が発見者であるかどうかは審判を務める委員会は関知しません。また、ゴールの場所はターゲットに記載してあるため、それを入手しない限りわからないようになっています』
つまり……と誰かが呟く。
ターゲットの形状はわかっている。それを運んでる最中に奪ってゴールまで持っていけばいい。ただし、ゴールがどこか知っているのは一度でもターゲットを手に入れた人だけだから、待ち伏せするにも一度は手に入れないとダメ、と。
『三つ、参加資格は当校の生徒であること。また、男女ペアでの参加を必須とします』
会長は副会長とかな? 文妻は誰と組むんだろうな。
『ゴールには、必ずペアで到着すること。ペアのどちらかが ターゲットを所持した状態で、ゴールしたと審判が判定した時点で勝利とします』
体力差を埋めるのかな? でも、あの会長が文妻に体力で負けると思わんけどな。
『勝利者には賞品が贈られます。その内容は生徒会の権限が及ぶ範囲で、勝利者の意向を一つかなえる、というものになっています』
そいつぁうらやましいなぁ。でもあれか? 会長は勝ってもメリットなし?
『なお、このイベントについて、事前の参加申告などは不要です。誰でも自由に参加が可能です』
学校内のざわめきが徐々に大きくなる。
会長対文妻じゃなかったのか? だったら自分が勝ったら何でも叶えてくれるってこと? 生徒会が?
『イベントの開始時刻は、また放送でお知らせします。なお、開始時刻前にイベントの勝敗に関わる行為が行なわれたと判定された場合、その行為に参加したものはイベントへの参加資格を失うことになりますのでご注意ください』
と、そこまで鷲津が言い終えた時点で、スピーカー越しに何かを叩く物音が聞こえてきた。がつん、と音がして、誰もが聞き覚えのある声が飛びこんでくる。
『待て鷲津っ! 私はここまでの事をしろとは言っていないぞっ』
誰あろう会長である。
『あー、本件についてはこちらに一任という条件だったと思いますが』
『そ、それは、そうだが』
『故に当委員会でこのようにイベントを用意させていただきました。出来るだけ人目を引いて、勝敗がはっきりするという条件は満たしていると思いますが』
『そ、それもまぁ、確かにそうだが……』
『ここで盛り上がりつつ、会長の度量を改めて皆が思い知る絶好の機会ではありませんか?』
なんだか内幕がだだ漏れなんだがいいのだろうか、と誰もが思いながら、固唾を飲んで放送を聴き入っている。
『では、賞品提供者である会長から一言、何かあいさつを』
かなりのドサクサのまま、鷲津は会長にマイクを手渡した。
会長は一瞬戸惑ったが、すぐにぐっと握りなおす。
『よ、よかろう。んんっ、ん。あー、そもそもは皆が知ってのとおり、文妻と私の対決の目的だったわけだが、この際だ。鷲津委員長がせっかく整えてくれたこの舞台、受けて立つぞ』
おぉ! と学校中にどよめきが満ちる。
『予算増額、部の設立、校則の改定、生徒会の出来ることなら何でも勝った奴一人一つ聞いてやる。だが、生徒会に負けたその時にはっ!』
きーん、とハウリングが巻き起こり、学内が一瞬で静寂に満ちる。
『全部活動、委員会活動の予算を一律二割削減、来年度の予算折衝も行わないこととするっ』
なんだとー。会長横暴! 生徒会の暴走を許すな!
などという叫びが方々から巻き起こる。くどいようだが、そんな物音が聞こえないはずの放送室で会長はそれらの叫びを聞きつけたかのように、宣言してみせた。
『文句があるなら勝てば良い! 我が生徒会執行部はっ』
そのとき誰の脳裏にも、会長が腰に左手を当てて右腕を振り上げる光景が浮かんだという。
『誰の挑戦でも受けるっ!』
もはや狂騒言ってもいいどよめきで校舎が揺らいだ。
会長のマイクパフォーマンスはまだ続いている。
『文妻ァ! 一対一の勝負でなくなったとはいえ、勝者はただ一人、勝てなければ雑言のツケは払ってもらうぞ。楽しみにしておけ』
高笑いを上げだした会長からタイミングよくマイクを取り上げて、鷲津はルール説明の続きを始める。
『なお、ターゲットの直接争奪以外の妨害は一切禁止とします。参加者の拉致監禁などを企てたりしないように』
スピーカーの奥からは高笑い、学内では狂騒めいたどよめきが続く中、鷲津は次の言葉で締めくくった。
『では諸君、開始の放送をお楽しみに!』
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