西が丘高校生徒会の非日常 ~或いは文妻VS生徒会長~ ④

 翌月曜日。

 影山がギリギリの時間までと惰眠をむさぼっていると、枕もとの携帯が激しく震え出した。

 寝ぼけ眼で、誰からの着信かを確認もせずに出ると、朝っぱらから異様なハイテンションでしゃべりまくるのは彼の上司であった。

「何だまだ寝ていたのかカゲマル。いいことを思いついた。出来るだけ早く生徒会室に来い。いいか、出来るだけ急いで、だ」

 意味もわからぬまま、半覚醒で切れた携帯を見つめた影山は、急に悪寒を覚えた。

「……何かろくでもないことを思いついてそうだな、あの人は……」

 影山はひとりごちると、残りの睡眠を諦めて着替えだした。


 三十分ほど後。予鈴まで二十分ほどを余して、影山は生徒会室にたどり着いた。扉をそろそろと開けて覗き込みながら、おずおずと挨拶をする。

「おはようござ……」

「おぉ、カゲマル。思ったより早かったな。感心感心」

 昨日とうって変わって上機嫌の極みにあるらしい会長が彼を出迎える。

「なんかあったんですか?」

 訝しげな影山の問いに、会長は常にない明るい笑い声を立てる。

「ははは、やはりカゲマルにもわかってしまったか? 常と違う私が」

「え、えぇ、それは、まぁ」

 これがわからないのは間違いなく初対面の人間だけだろう。

 初対面と言えば、前回の会談の時に、会長の初対面という言葉に文妻が妙な反応を見せていたことを思い出した。

 文妻は、会長とは初対面ではないのだろうか。

 もっとも、やたらと広範な活動範囲を誇る彼のこと、会長とどこかで面識があってもおかしくない。だが、当の会長が、あれだけ印象に残る男と顔を合わせたことを忘れているものだろうか……。

 などと思考していたところで、会長がじっと見上げていることに気がついた。

「カゲマル。朝の時間は貴重だ。呆けている暇があれば、私の話を聞け」

「は、はい」

 我に返った影山が返事をすると、よろしい、といわんばかりに頷いた会長が思いついた『いいこと』を話し始めた。

「あれからゆっくりと考えてみたのだ。で、私も思った。文妻の言うことにも一理ある、とな」

 傲岸不遜、猪突猛進、独立自尊が服をまとっていると言っても過言ではない会長がそんな台詞を吐いたことに影山はいささか驚く。

「それはその、」

「なんだ」

 まだユカイそうな笑顔で会長は先を促す。

「意外、でした。あれだけのことを言った文妻く……文妻の意見に賛同するとは」

「私は皆がいうほど狭量ではないぞ」

 胸を張って、まさしく呵々大笑する会長。

 影山がもし、もうちょっと会長との付き合いが短かったら、度量が広がって良いことだと素直に感心しただろう。だが、それなりに本性を知っている今となっては、その裏に何かもう一くさり、陰謀なり策謀なりを隠しているのは容易に看破出来た。

「で、文妻に何をさせようというのです?」

「さすがカゲマル、話が早いな」

 外見だけでもさわやかに見えていた笑いが、にやりとした策士の顔に変わる。

「文妻には、実力で要求を勝ち取ってもらおうと思う。まぁ、私に対してあれだけの雑言を吐いたのだ。責任は取ってもらわんとな」

 かくして影山は、会長からの挑戦状を文妻に届ける役を仰せつかったのであった。

「ま、私が知る以上に仲も良い様だし、適役というものだ」

 ……どうやら、友人であることを言わなかったことについて、思った以上に根に持ってもいるらしかった。

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