西が丘高校生徒会の非日常 ~或いは文妻VS生徒会長~ ①

 文化祭シーズンを前にして、西が丘高校生徒会は、来年度予算編成の事前調査で多忙を極めていた。

 各部活や委員会から提出された所属名簿と、今年度の予算の使用状況をまとめ、文化祭後の予算折衝に備える。言葉にすればそれだけのことだが、部活動が盛んなこの高校には、予算分配対象になる部活だけでも五十を超える数がある。そのいちいちにチェックを入れて、不正使用の有無を確認し、部員数と活動内容から分配額を決定し、増やせ、増やせんの押し問答を繰り返す。

 毎年毎年、おそらく万人が不毛さを感じていると思われるのだが、改革派を以って鳴る生徒会長、嬉ヶ谷うれしがやしのぶをもってしてもこの必要悪を無くす事は不可能であった。

「要はもっと金があればこういう事をしなくてすむのだな」

 積み上げられた書類に目を通し、チェックが必要なところをいちいちメモしながら、会長はひとりごちる。

「どうでしょうね。金があろうがなかろうが、額が変わるだけで結局同じような気もしますが」

 同じように書類に目を通しながら、運動部・常設委員会管轄、生徒会副会長にして、会長官房長(非公式)、影山治也かげやまはるやが応じると、その隣で領収書の束と格闘していた会計の外崎賢吾とざきけんごがうんうんと頷く。

「むしろ、額が増えた方が、苦労が増えそうですな」

 その手元の、札束と見紛うばかりの領収書を見て、会長は眉を寄せながらおずおずと頷いた。

「カゲマルや外崎の言うことの方が正しそうだな……」

 そしてまた、黙々と手元の書類の確認作業を続ける。


「カゲマル」

 下校時間も近づき、今日の作業も大詰めに入ったところで、会長が影山に声をかけた。

「どうかしましたか」

 影山が覗き込むと、その手元にはいくつかの部活の部員名簿があった。

「我が高校は、校則で部活動の複数同時加入を禁じていたな?」

 記憶力に自信があるとは言え、さすがに校則の全条文を暗記しているわけではない影山は、生徒手帳を取り出して確認する。

「ありますね。『第二十三条、生徒は学校生活をより豊かに送るため、部活動に参加することが望ましい。また、複数の部活動への参加はこれを禁止とする』、ですか」

「そこでこれだ」

 会長が並べたのは全部で七つの部活の部員名簿だった。

「全てに共通する一人の男子生徒の名前がある」

 目を通す前から、そこに誰の名前があるのか、影山にはなんとなくわかっていた。

「神山、この部活それぞれの入部届けを」

 書記の神山瑞希かみやまみずきが、書類棚を漁り、七つのファイルを取り出してきた。

 会長、影山、神山の三人で、それぞれ名簿と入部届けを付き合わせる。

 それぞれの結果を聞いて会長は、腕組みをして眉を寄せた。

「ほとんどはなかろうと思ったが、まさか全部で入部届けを提出していないとは」

 該当生徒の名前に赤線が引かれた名簿を取りまとめ、会長は影山に向き直る。

「関係者に話を聞く必要がありそうだな。カゲマル、明日の放課後、各部活の部長を召喚しろ。その上で、こいつにも話を聞くとしよう」

 会長は、一番上の名簿の赤線をびしっと指差した。

「二年A組文妻、か」

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