第9話 シナログの森 ③



 フィリップ達が叩き起こした巡回者達は、宿の食堂に集まっていた。


「起こして悪いが緊急事態だ、全員よく聞いてくれ。最果ての遠征中に第3砦が破られた。おかげで北の果てに星食い石≪バルゴット≫が2体もれたそうだ」


 巡回者たちは師から聞いて知っている、星食い石≪バルゴット≫の話を思い出した。


「おいおいおい、砦の連中は何をやってるんだ」

「シュピ、言いたい事はわかる。だが砦は今も波が止まないらしい。誰も人が出せんそうだ。我々で遠征隊が戻って来るまで持ちこたえなければならん。北の果てに|星食い石≪バルゴット≫が出現するのは実に40年ぶりになる」


 フィリップは当時のことを思い起こしながら説明を続ける。


「|星食い石≪バルゴット≫の現在地は、シナログの森とズノール雪原だ。現地にいる巡回者は、シナログの森コルニット・クロイツ、ククリス・アッシュリアガオ。ズノール平原ローデン・マクダネルだ。3名はこの情報を知らん。我々は3名の捜索救助を速やかに行う」


 3人の巡回予定路を食卓の上に広げた大きな地図にフィリップが素早く書き込んでいく。


「シナログの森はシュピをリーダーに8名、ズノール雪原にはわしを含め12名で向かう。向かう途中、巡回石が光ればそちらを優先してかまわん。シナログの森はおそらく、不浄石バルゴットの群れで溢れかえっている。既に激しい交戦状態にあるかもしれん、準備出来次第、急ぎ向かてくれ!!」


 フィリップの指揮の元、救助隊が組まれていった。


「|星食い石≪バルゴット≫の能力はどっちらも不明だ。下手に手を出すな。誰か1人でも食われて見ろ。ここが北の果でなくなるぞ」


 必要最低限の食料と荷物持ち巡回者達は、フズヤグから出て行った。



 「見つけた」


 シナログの森の外れに星食い石バルゴットはいた。


 大きさは3メートル弱の下級クラス。形状の特徴は目と腕があるくらい。

 崖の岩の隙間に大きな体をねじ込もうともがいていた。おそらく岩の隙間の先にお目当ての浄化石とククリスと言う巡回者が隠れて休んでいるにちがいない。


 「自らの形状を変形出来ない種類は、知能が低いが核が頑丈なのが特徴」


 師から教わった事を思い出す。


「食われるな。核の位置を見つかる前に特定しろ。能力を把握しろ。殺すときは一瞬。見つかったならまず逃げろ」


 核の位置は正面の人間で言うみぞおち辺り、手持ちの武器は剣のみ。近接戦闘で倒すしかないが、敵の能力は不明。

 星食い石との戦闘経験は自分にはない。師が一撃で仕留めるのを1度見たことがあるが、師の強さが異常過ぎて参考にならない。


 現状できる事は無かった。巡回は失敗となるが、このまま増援が来るまで何もなければそれでいいのだろう。


「誰だ!!」


 背後に気配を感じ振り返って剣を構えた。


「あなたこそ誰? あたしはククリス。あなた増援できたのに覚醒もしてないの? 弱い奴は居ても邪魔よ。その辺のゴミ石でも狩ってなさい。あれは私の獲物だから」


 赤いローブに身を包んだククリスは、右手で向けられた剣を払いながら、黒と赤の両手斧を背負った、隠れて様子を伺うことなく、星食いバルゴットに向かって歩き始めた。


「無茶だ、増援が来るまで」

「起きよ、光を放て」


 強烈な光を発する浄化石に言葉を遮られた。星食い石も光に反応し、こちらを向いて襲ってきた。

 彼女の体を星の命マナの光が包み込む。


「さっさと来なさい、石ころ野郎。 怪我も治ったし、今度こそ浄化ぶっこわしてやるだから」

「Graaaaa」


 ククリスの斧は星食い石の腕をいとも簡単に跳ね除け、腕は千切れた。千切れた腕は灰となって消えたが、直ぐに新しい腕が再生された。


 ククリスは武器に浄化石をはめ込まずに星食い石の体を切り裂く。それは普通では不可能な芸等だった。

 それができるのは最果ての巡回者でも数少ない、猛者たちだけ。浄化石から溢れ出る圧倒的なマナが必要だ。それには長い年月が必要になる。


「ククリス君はいったい何者なんだ?」


 星食い石はククリスを高速で殴っては腕をちぎられ続けた。


「gura?」


 おかしいと気づいたのか殴る手が止まった。ククリスは余裕そうにかかって来いと挑発している。

 

「Graaaaa!!」


 バルゴットの核が黒く光始めた。バルゴットは再度打撃を開始し始める。

 今度はククリスの斧に弾かれても腕は千切れなかった。ククリスはそれでも、浄化石を武器にはめ込むためのくぼみに、浄化石をはめ込まず戦い続ける。


「やる気が出てきたとこ悪いけど、さっさと終わらせてもらうわよ」


 ククリスは強化された腕をも切り裂き、胴体の核に斧を振り下ろした。振り下ろした斧は金属が鉱石に弾かれる甲高い音と共に弾き返された。


「っな」


 ククリスは新たに生えた腕に殴り飛ばされ、崖に打ちつけられた。


「カッハ」


 ククリスは血反吐を吐き、赤いローブの裾で口を拭い、その後もすぐに果敢に攻め込むが、何度も斧を打ち込んでも核は、壊れなかった。


「なんで?」


 ククリスは刃がかけた斧を不思議そうに眺めていた。


 打ち合う程、バルゴットの硬度は固くなっているように思えた。ククリスの斧がバルゴットの腕を切り裂く事はなくなり、ククリスの方が押され始めた。


「ック、これでどう!!」


 両者の全力の一撃がぶつかり、ククリスの斧だけが半分に折れた。


「 !! 」


 固まり折れたおのを見るククリスに星食い石の拳が迫る。


「危ない!!」


 全速力で走り出し浄化石を剣にはめ込み、剣を振るったが、僕とククリスはたやすく吹き飛ばされた。


 師の剣は折れなかったが、崖に打ちつけられた際に肋骨が何本か折れた。頭も強く打ったようで、血が頬を伝って来た。


「Gisyaaaaa!!」


 勝ち誇ったようにバルゴット雄叫びを上げる。

うずくまる僕を脇目にククリスは、たいしたこともないように、直ぐに立ち上がった。


「フフ、アハハハハ」


 ククリスは急に笑い出し、折れた斧の柄を星食い石に投げ捨てた。

 星食い石は飛んできた斧をたやすく跳ね除ける。


「やっぱりあたしには斧って合ってないのよ。ごめんね、アッシュリア姉さん。約束破る。素手じゃないとこいつ殺せないみたいだから」


 ククリスの体を覆うマナの姿が変わる。ただ体を覆っているのではなくなり、獣の姿に近く鋭い爪がある様にみえる。

 ククリスとハゴットの拳と拳がぶつかり合う。打ち合う度にハルゴットの腕に、ひびが入る。

 ハゴットの腕が砕け散った時、本体の体に爪で切り裂かれた様な跡が残った。核にも浅く傷が入った。


 ククリスの浄化石から放たれるマナの量が初めとは比べものにならないくらいに溢れている。

師には及ばないが、バルゴットとと渡り合うには十分な量だ。


「大地に帰りなさい」


 ククリスは自分とさほど変わらない小さな体で星食い石を殴り飛ばした。

 崖ににぶつかった星食い石の核は粉々に砕け散った。そこで僕の意識は途絶えた。









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