第8話 シナログの森 ②
不浄石の群れの中を無理やり生命石≪マゴット≫のある方に向かって突っ切っていく。
不思議なことに、不浄石の群れは仲間がやられてもその場から動こうとはしなかった。
「はぁはぁはぁ」
群れを横断し終え、その場に膝をついた。群れの中にいると体が重くなる。原因は、不浄石≪バゴット≫の力が影響を及ぼしていると言われている。浄化石が覚醒していない者が、最果てに行けないのはそのためだ。
呼吸を整え、巡回石の導きに従い、かすり傷の処置をしながら歩き出した。
「我、北の大地を巡り、到達せし、星の命を、紡ぎ給え」
肩で呼吸しながらあとひとつを残し浄化を終えた。
――――おかしい。
群れを抜けてから数時間は経ったはずなのに体は重いままだった。
――――あれがいる。
そう直感で判断した。
雪に沈む足を前に出すのが億劫になる。最後のひとつだと気持ちを奮い立たせて足を前に出し続けた。
※
クロエラ山巡回最終日、山頂の付近の生命石≪マゴット≫の浄化に師と僕だけが挑戦していた。
協力を申し出た他の隊には、周囲の敵の掃討と邪魔になる大型の不浄石≪バゴット≫の排除をおこなってもらった。
スオガオとハロルドには、山中の敵を引き付けてもらった。時折休憩を挟みながら、巡回は順調に進んでいた。
「シルバ、ほんとにコルニットを連れていくのか?」
「ハロルド、シルバの決めたことだ。あんたが口出すことじゃないよ」
ハロルドは僕の同行を良しとしなかった。
「師が俺にしたように、俺も弟子にする。それだけだ」
師はハロルドにそう言うと、僕の手を引いていった。
ヘルビッツに来てから、師の予備の浄化石を常に首から下げるように言われていた。これを外せば、ほんの数十分で鍛え上げられた巡回者であろうと死んでしまう。
「コル、首から浄化石を外してみろ」
昼食を取り終え、一時間休息を取ることになった時、師にそう言われた。師の命令は絶対なので、仕方なく浄化石を恐る恐る首から外した。
外したとたん、吐き気と全身に重りを付けたように体が重くなった。
「おおえ」
胃から昼食を吐き出した。
師は僕の手から滑り落ちた浄化石を直ぐに首にかけ直した。
「今、最果ての中でも危険な覚醒領域≪デスゾーン≫にいる。これからクロエラ山の巡回に行くが、数時間おきに浄化石を外せ。巡回が終わる頃には、すこしは体が慣れるはずだ。もし覚醒領域の途中で浄化石の力が失われても数時間は生きて動けなければ救援が来る前に死ぬ。それを避けるための訓練だ」
今までの訓練のなかで最も過酷だった。
「止まれ」
最終浄化地点まであと数百メルト地点まで来ていた。何度か大型の不浄石と遭遇したが師の前では、小石のようにけり飛ばされていった。
師が停止を要求することは珍しかった。今までにそんな事はなかった。
「コル、救援要請の狼煙を上げろ。急げ」
師がこちらに振り返りそう言い終わった時、師と僕は宙を舞っていた。
師は素早く体制を立て直し、荷物の入ったリュックを捨て、鞘から剣を抜き臨戦態勢に入った。
僕はリュックから赤い救援の狼煙を上げる弾を取り出し、クロスボウガンで空に向かって打ち上げた。
「よし、コル離脱しろ」
僕は全速力でクロエラ山を駆け下りた。背後から身の毛のよだつような禍々しい気配と師の力がぶつかるのを感じた。
それからあのことはよく覚えていない。クロエラ山を下っていたはずなのに目が覚めると、クロラ山山頂付近の黒い光を上げる生命石≪マゴット≫の近くで目が覚めた。
師が血だらけで後から駆け付けてきて、星食い石≪バルゴット≫食われた。
僕が星食い石≪バルゴット≫だった。正確には僕に擬態した星食い石≪バルゴット≫に師は食われて死んだ。
師も途中で気が付き反撃したが遅かった。
クロエラ山が崩れ落ちる中、スオガオとハロルドに救助され、僕は起きたことのすべてを話し、ヘルビッツから追い返された。
「コルニット何があった‼ シルバはどうした‼」
「よしなハロルド‼ 見てわかるだろ、巡回は失敗、シルバは死んだんだよ」
※
雪の上に血の跡が見つかり始めたのは、最終浄化地点の付近からだった。血の跡は何者かと戦闘を繰り広げ、生命石≪マゴット≫から敵を引きはがすように、痕跡が続いていた。
辺りの木々はなぎ倒され、戦闘の激しさを物語っていた。
木には星食い
「我北の大地を巡りて、到達せし、星の命を紡ぎたまえ」
祝詞を唱えても、浄化石から水は落ちてこなかった。
原因は大量の不浄石≪バゴット≫の存在とおそらくいるであろう、星食い石≪バルゴット≫が辺りの空気をひどく汚染してしまっていることにある。
「倒さないとだめか」
雪に付着していた血の跡を追うことにした。
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