第7話 シナログの森 ①
森に入っていから1つ目の
「鼻がもげそう」
急いでリュックをおろし、小さなリュックに7日分の食料と地図だけを詰め込んで背負った。大きなリュックは近くの木に吊るし、鞘から剣を抜き、凹みに浄化石をはめ込む。
――――こんな数を相手にするのはいつぶりだろ。
――――きっと砦の防衛以来だ。
蜘蛛型の
※
「シルバの弟子を見てみろよ。いい腕してる」
「ここじゃ、援護射撃くらいなら誰も外さないだろうが」
最果ての砦に押し寄せてくる黒い波に、クロスボウガンが唸り声をあげ続ける。弓での対処は間に合わず銃弾に切り替えて引き金を引き続けていた。
師が造った銃弾は着弾すると中から浄化水が溢れてくるため、
「コル‼ 弾はまだあるか‼」
「はい、大丈夫です‼」
師は最前線で仲間たちと、
「前線が優秀だと仕事がないね。コルニット」
「ゲラルドさんも撃ってください」
「お前に経験を積ませてやろうと思ってな。俺は玉の節約だ」
前線から漏れてくる
「シルバがいると楽でいい」
「大型もかたがついいたし、明日には休めそうだな」
イニットとアルさんも手を抜きながら、援護射撃を続ける。
「ふたりともあめえな。今のうちに休んどけよ。明日はクロエラ山の浄化だ」
「まじすっか!!」
「イニット外したぞ。下手くそ」
うち漏らした不浄石をアルさんが撃ち抜く。
「あたぼうよ。未確認の|星食い石≪バルゴット≫が出たんだ。シルバが休むわけないだろう」
ゲラルトさんの言葉を聞いて、2人は肩を落としていた。
「もうひと波来ます‼」
砦の監視塔から大声で伝令役が叫んだ。
※
「数が多すぎる」
丸2日は戦い続けているが群れの数が減る気配がない。
浄化は全く進まず、最果ての砦で何かあったに違いないと思考がよぎったが、確認するすべはなかった。
――――時間がない。
これだけの数がいたなら、タリスさんがボロボロになるのも理解できた。腕が2本では足りない。
肩で息をしながら、歯を食いしばって大型の
「やあぁああああー」
襲ってきた群れ倒し終えるのに3日かかった。
「駄目だ、間にあわない」
地図を広げ、星命石の色を確認する。1番最後の浄化地点は山吹色が赤身を帯び始めていた。残り39か所を4日で回るなんてことは事実上不可能だった。
ルートを変更するか考え直した。幸い食料は、タリスさんから3日分を余分にもらているので巡回の予定日を伸ばすことは可能だった。
――――森の臭いも幾分かマシにはなったけど、まだもうひと群れはいるだろうな。
地図を急いでしまい、リュックを背負い僕は走り出した。安全に休める場所は木の上だが木に登っている余裕はない。最終日まで自分の体がもつ事を願いながら夜通し走った。
群れからはぐれた個体や小さめの集団を撃破しつつ浄化を行う。
「我北の大地を巡り到達せし、星の命を紡ぎたまえ」
浄化の完了を確認後、すぐにその場を離れて走る。白い息が何度も口から漏れた。
予定日を伸ばし浄化に当たったが、それでも間に合うか間に合わないかの瀬戸際だった。
「残り8か所を明日で回りきらなきゃ」
残り8か所の≪マゴット≫は真っ赤に染まってしまった。安全を確保し、早めに木の上で眠りについた。
※
コルニットがシナログの森に入った初日。フズヤグの拠点に、赤いマフラーをまいた一羽の鳥が飛んできた。
鳥はフィリップの宿の入り口に手紙を置くと慌ただしく主人の元へと帰っていった。
フィリップはいつものように朝刊を取りに宿の玄関を開けた。玄関の軒下に置かれた赤い布切れと手紙を拾い上げると、フィリップは朝刊を取らずに玄関を閉めた。
「おや、あんたに手紙なんて珍しいね。なんて書いてあるんだい、フィリップ?」
フィリップは素早く、狐の形をしたペーパーナイフの尾で封を開けた。
「ロジェ、本部に連絡してくれ。最果ての砦がひとつ落ちた。それと新たな星食い石≪バルゴット≫が2体出た」
フィリップは今外に出ている巡回者を再確認する。
「ゴジュ、すまんが調理の手を止めて、寝ている暇な巡回者を今すぐ叩き起こせ。 シナログの森が危険だ、ここも危ないかもしれん」
フィリップは慌ただしく他の拠点に向けて手紙を書き始めた。
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