第2話 フォルニダ山脈

 朝早く確認した巡回石は、予定通り拠点から左斜め上の北に50マイトのフォルニダ山脈の巡回路を指した。


 幸い今日は昨日より風は穏やかで、僕の旅立ちを祝う様な巡回日和だった。

 まず目指すのはフォルニダ山脈の近くに建てられてある、無人の山小屋だ。無事に進めば、2日後には、最初の浄化地点にたどり着いたつけるだろう。

 リュックには食べ慣れた2か月分の保存食を詰めこんだ。


「気をつけてな、コル」


 朝早くフィリップさんに鍵を預け宿を出た。人気のない町の中を砦の門を目指して歩いた。


「扉を開けろ! 巡回者が出る」


 門を開けてもらい。フズヤグを出た。


 巡回者にも色々いる。浄化は行わず、食料や手紙などの配達に重きを置く者、拠点を維持し救助を行う者、木材や金属などの資源を調達する者、僕のように浄化を行う者、そして、不浄石バゴットが巡回者の命を奪い化け物となった星食い石バルゴット不浄石バゴットを狩る者。使命は違っても、星の命マナを守る仲間として、協力し合っている。


 巡回者の移動の基本は己の足で歩くこと。そりと狼たちがいれば荷物を運ぶのはもっと楽になるが、ソリで移動すると浄化石の水が浄化するだけの力を何故か構築できないのだ。


 フズヤグを出て2日後、無事に無人の山小屋に着いた。外のひどい吹雪から逃れられる、唯一の憩いの場所だ。リュックに詰めてきた保存食を取り出し、帰りのために山小屋にいくつか置いておく。


 今回の巡回路に挑戦できる期間は長くて2か月、それを過ぎると一度帰るしかない。その場合フォルニダ山の星命石マゴット不浄石バゴットに変わるだろう。僕の他にこの場所を目指す者がいたら話は別だが、山小屋が無人だったことから、他に挑戦しに来るものはいないと思った方が良いだろう。


 食事の量を減らせばもう少し期間を延ばして挑戦できるが、あまり望ましいことではない。フォルニダ山の星命石マゴットは大きく、不浄石バゴットになれば大型の不浄石バゴットが生まれるだろう。下手に期間を延ばして、変化のタイミングとかち合ってしまうと、ヘトヘトの僕では倒せない可能性もある。

 囲炉裏に火をおこし、3時間の睡眠と食事をとった。その後、再度手帳に目を通し、山小屋をでた。


「残り10マイト」


 最初の浄化地点は山の麓にある。巡る浄化地点は全部で28箇所、2日に1つは浄化しなくてはいけない。そんな悠長なペースでは最終目的地にたどり着けるかは怪しいので、先を急いでいた。

 今回のルートの総距離は約1020マイト、巡回石は直線でしか距離を表示してくれないため、100マイト以上余分に歩くことを想定しておかなければならない。1日30マイトは歩く工程で巡回をする予定だ。

 師の手帳には、120年前に到達した男の巡回ルートが載っていた。男は反時計回りに、巡回し最後にフォルニダ山に挑んでいた。もしそのルートが本当なら、僕もその順で浄化を行うことになる。

 男は多い日には、日に3箇所浄化していた。最終地点のフォルニダ山の洞窟の浄化を含めた男の巡回期間はひと月半。高山病にならないためにも、彼はゆっくりと山を登り、巡回を終えていた。熟練の巡回者だったのだろうが、僕はまだ子供なので、そのペースには合わせられない。僕はひと月半かけて、27か所を回り終え、半月以内にフォルニダ山に挑み、成功すれるにしろ、しないにしろ、帰還する予定だ。


「着いた」


 雪のついた寒そうに風に震える針葉樹に囲まれた森の中に、星命石マゴットはあった。星命石マゴットの周りは雪が解け、幻想的な灰色の光を放って輝いていた。周囲を確認し、雪の斜面を駆けおりた。

 下におり終えると、首にかけてある浄化石を防寒服の下から取り出し、星命石マゴットの真上に手首から垂らした。


「我、北の大地を巡り、到達せし。命の水よ、星の命を紡ぎたまえ」


 逆三角形の形をした浄化石の先端から、一滴の水が落ちる。灰色だった星命石マゴットは光が白に変わった。無事浄化できたことを確認し、手帳に今日の日付を書き込む。


「ゼガの1608年、黄玉の月、赤の星の日」


 巡回石は次の目的地を示した。手帳のルート通りならば、この山を越えた先の山の中腹にある浄化地点、直線距離にして20マイト先だ。


 一度深く深呼吸して、気持ちを整え巡回石の示す、2つ目の浄化地点に向かった。



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