第五節
___私は肩を落とした。
里咲は無言で目の前の景色を見ていたけれど、彼女の雰囲気はわかりやすく落ち込んだものに変わっていた。
そこに、眼前に、虹の麓などという特別な物は無かったのだから。
宝物はもちろん、宝箱すらなかった。
ただ、そこにはほんの少しの開けた土地が広がっているだけだった。
本当に、ただそれだけだった。
周りを見回したところで、どこか別の場所に虹が見えるようなことはない。
私たちは、虹の麓に辿り着けなかったのだ。
「やっぱり、いつも通りだ」
眼前の寂しい光景を見て里咲が言った。
「里咲?」
悲しそうな里咲の顔が印象的で、私は思わず彼女の名前を呼んでしまった。
そうしなければ、彼女はどこか遠くに行ってしまいそうな気がしたから。
それほどまでに、里咲の背はごく普通のか弱い少女のものにしか見えなかったから。
だから、私は思わず里咲のことを呼び捨てで呼んでしまっていた。
「大丈夫。いつものことだから」
だから、別にがっかりしてしまう事はない。
そう言って里咲は微笑んだ。
涙を堪えるような弱々しい笑みに、私の胸の中には複雑な感情が湧きあがった。
拙くてどうしようもない私の語彙力では言い表せない、正真正銘に複雑な感情だった。
私たちはそのまま暫くの間、山頂から見える町並みを眺めた。
里咲がそこから動こうとしなかったっていうのもあるし、里咲を置いて私だけが帰るという選択を取れてしまうほど、私が薄情な人間ではなかったっていうのもある。
ただ、私は悲しそうに街並みを眺める里咲の横顔を見つめ続けられるほど、肝が据わっているわけではなかった。
だから、私は里咲と並ぶ位置に立ち、同じように山頂から見える街並みに目を向けた。
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