第十一節
翌日から、彼女が私に話しかけてくれることはなかった。
朝、教室に来てから夕方に下校するまで。
里咲はずっと、教室の天井にぶら下げられた光源を見つめ続けていた。
何をするわけでもなく、ただ、見つめ続けていた。
私はただ、息苦しかった。
以前のような四面楚歌の息苦しさではなく、自分が傷つけてしまった女の子が目の前で傷の処置もできずに傷つき続けているという事実が耐えられない。
そういった苦しさだった。
皆は私を傷つけていた時、同じような感覚を味わっていたのだろうか。
もしそうなのだとしたら。こんな感覚に耐え続けて私を傷つけていたのだとしたら。
そんなのは、人間にできる所業ではない。
私は、里咲を視界に映す事で込み上げてくる苦しさから逃れるように、雅さんと慰めあった。
毎日のように。何度も何度も。
このまま、ずっと私たちの関係は私の身勝手な感情に壊されたままなのだろうかと思っていた。
その矢先の事。
雅さんと付き合い始めて十日が経った頃。
六月の二十日。
朝のニュース番組で雅さんが捕まったという報道がされていた。
犯した罪は未成年に対するわいせつな行為だそうだ。
意味がわからなかった。
けれど、いつかこんな日が来るのだろうという事は、心のどこかで感じ取っていた。
形あるものはいつか壊れる。
よく聞く話だ。
けれど、形がないものだって崩れる事はある。
現に、私はその体験をした。
幸せなんて。
日常なんて。
形なくとも崩れる。
もう、笑えてしまう程にいとも容易く。
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