第22話
雨が降っている。最初はぽつぽつと小さなものだったが、次第に勢いを増して葉を殴打する音が芙蓉の耳に届いた。
「……酷いわね」
防雨代わりの皮革に包まった月娟は激しい雨音から顔を背けるように隣に座る芙蓉の首元に顔を埋める。これは彼女の癖だ。幼い頃から怖いことがあればよく芙蓉に擦り寄り、密着した。こうすると不安はなくなり、落ち着くらしい。
「そうですね。すぐやめばいいのですが」
震える肩に手を置き、自分に引き寄せた芙蓉は空を見上げながら小さく呟いた。
一行は大きな
「しばらく、ここで休むので月娟様は少し眠ってください」
額を自分の首筋に擦り付ける動作を繰り返す月娟を見て、芙蓉は眠るように提案した。臥ていた自分を心配し、月娟は寝る間も惜しんで看病をしてくれたので疲労も積もっていることだろう。柔らかな絹の寝具は用意できないが休まないよりかはマシだと思っての提案に月娟は小さく頷く。
「芙蓉も休みましょう」
「私は……」
迷っていると今まで無言を貫いていたジュダルが「寝なよ」と声をかけてきた。
急に会話に割り入ってきたことに苛立ち、睨みつけるがジュダルは月娟しか眼中にないので芙蓉の視線に気づかない。
「俺達がいるし、安心していいよ」
その言葉に安心できる要素は皆無だ。月娟を守るためにこのまま寝ずに過ごそうと考えたが思ったより体の疲労は無くならなかった。有事の際に動けるように少しでも、休める時に体を休ませたほうがいい。
「では、お言葉に甘えて私も少し休みます」
そう言えば月娟は安心した様子で芙蓉にすり寄った。
「おやすみ。芙蓉」
「ええ、おやすみなさい」
しばらくして微かに寝息が聞こえてきた。肩にかかる重量が重くなったのを感じて、芙蓉は月娟が寝やすいように体勢を変えると静かに瞼を下ろした。
——もうすぐだ。
激しい雨音と重なり聞こえる心音に耳を傾けながら青峯が言っていたことを思い出す。
『この山は琰慈の庭のようなものです』
あの晩、青峯は一つの案を提案してきた。それは単純明快、誰もが思いつくであろう簡略的な案だった。
今までの芙蓉ならきっと「そんな作戦は失敗に終わる」と跳ね除けただろうが、その作戦を成功させるための二つの絶対必要条件を聞いて納得した。
——あの二人なら月娟様を任せられる。
それが例え、自分が死ぬのが条件だとしても月娟には生きて欲しかった。
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