第174話ちょっと

ちょっと気を抜いた隙に-1

ちょっと気を許した隙に-1

―地下の書類倉庫で

  

 「その書類ってどこらへんにあるんですか?」

「おそらく、一番奥のラックの一番上の段にあると思うんだ」

それを聞いて背伸びをしながら一番奥のラックの上を見上げていると、突然後ろから須藤が純に抱き着いた。

「何するんですか!」

「いや~、上ばかり見ていてこのままだと転びそうだったから、危ないと思ってねー」

「大丈夫ですから離れてください!」

「そう?いや、もう少しこうして支えてあげるよ~」

「やめてください」

そう言って手を振りほどいて出口の方に逃げると

「おいおい、そんなに慌てて逃げることはないんじゃない?」

「何言ってるんですか、急に抱き着いてきたくせに、それって完全にセクハラですよ!」

「何言ってるの?転んで倒れたら危ないと思ったから後ろから支えただけだよ、セクハラなんてほんと失礼だな~」

「もういいです、戻ります」

「いいけど、まだ書類が見つかってないからね~、今手ぶらで席に戻ると地下倉庫の中で2人で何をしてたのか?って思われるんじゃない? まあ僕はそれでも良いけれどね~」

純は後悔した、あいつの行動に気を付けていたにも関わらず、サラっと数年前の書類が必要だからと言われ、迂闊にも、何の警戒せずそのまま地下倉庫に行ってしまったことを。

最近、あいつは何もしかけてこないし、よく書類を地下倉庫から取ってきてと頼まれ業務の新人も含め、何度か取ってきたことがあったから、つい油断してしまった・・

もっと注意していれば・・・。

最初はかっちゃんがこっそり付いてきてくれて、何事もなかったのに・・

かっちゃんなら、その事も知ってるから、ちゃんと説明すれば信じてくれるとは思ってはいるけれど、あいつはいろいろと姑息な手段で私達を落とし入れようとする。

くやしい、でもこのままじゃあ、また抱き着かれたら、もしそれ以上のことをされたら合気道でどれだけ自分を守れるだろうか・・・と思うと・・・

せっかくダミーで買ったスマホ、かっちゃんからもらったあのキーも置いてきてしまった・・・

(かっちゃんごめん、助けて)

「そんなに警戒しなくてもいいんじゃない?

別に何かしようとしているわけじゃないんだから」

そう言って純にゆっくり近づいてくる

「それ以上近づかないでください、大声を出しますよ」

「あっそ、でもね、ここ地下の一番奥の工事車両の整備点検の音が響いて、周りには何も聞こえないと思うけど?」

「だからってこれ以上私に何かするなら、警察に訴えます!」

「おいおい、何言ってるんだい?僕は犯罪者になる気はないからね~、そんなことするわけないじゃない」

「じゃあ、どういうつもりなんですか」

「ここで2人で雑談でもしながら書類を探して、席に戻るだけだよ」

「どうしてそんなこと・・・」

「別に、書類を探すと言って2人で地下倉庫に行って、1時間くらいしてから席に戻ると思うけど、まあ、誤解されるかもしれないからね、だから僕が君の婚約者に何をしていたかちゃんと説明してあげるよ、それだけだけど?」

そう言ってニヤっといやらしい顔。

「戻ります」

「まあいいけど、じゃあ手ぶらだけど一緒に戻ろうか?」

(かっちゃん・・・)

「・・・」

「今戻っても、資料も何もなく手ぶらで2人で戻ったりしたら、一層疑われないかな~、まあ僕がちゃんと弁解してあげるから大丈夫だけどね」

わざとらしくさわやかイケメンを気取ってそんな事を言う。

純は、今度後ろから抱き着かれたら、合気道で!・・・と覚悟して

「わかりました」そう言って再び奥のラックの方に向かい、資料を探し始めた。

須藤はその姿をニヤニヤ見ながら、こっそりドアの鍵を掛け純の後ろについていく、

しかし、後ろに立ってただ見ているだけで何もしてこない。

(かっちゃん・・・こわいよ・・・)



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