第175話ちょっと気を許したばっかりに
ちょっと気を許したばっかりに
ちょっと気を許した隙に-1
―地下の書類倉庫で
「その書類ってどこらへんにあるんですか?」
「おそらく、一番奥のラックの一番上の段にあると思うんだ」
それを聞いて背伸びをしながら一番奥のラックの上を見上げていると、突然後ろから須藤が純に抱き着いた。
「何するんですか!」
「いや~、上ばかり見ていてこのままだと転びそうだったから、危ないと思ってねー」
「大丈夫ですから離れてください!」
「そう?いや、もう少しこうして支えてあげるよ~」
「やめてください」
そう言って手を振りほどいて出口の方に逃げると
「おいおい、そんなに慌てて逃げることはないんじゃない?」
「何言ってるんですか、急に抱き着いてきたくせに、それって完全にセクハラですよ!」
「何言ってるの?転んで倒れたら危ないと思ったから後ろから支えただけだよ、セクハラなんてほんと失礼だな~」
「もういいです、戻ります」
「いいけど、まだ書類が見つかってないからね~、今手ぶらで席に戻ると地下倉庫の中で2人な何をしてたのか?って思われるんじゃない? まあ僕はそれでも良いけれどね~」
純は後悔した、あいつの行動に気を付けていたにも関わらず、サラっと数年前の書類が必要だからと言われ、迂闊にも、何の警戒せずそのまま地下倉庫に行ってしまったことを。
最近、あいつは何もしかけてこないし、よく書類を地下倉庫から取ってきてと頼まれ業務の新人も含め、何度か取ってきたことがあったから、つい油断してしまった・・
もっと注意していれば・・・。
最初はかっちゃんがこっそり付いてきてくれて、何事もなかったのに・・
かっちゃんなら、その事も知ってるから、ちゃんと説明すれば信じてくれるとは思ってはいるけれど、あいつはいろいろと姑息な手段で私達を落とし入れようとする。
くやしい、でもこのままじゃあ、また抱き着かれたら、もしそれ以上のことをされたら合気道でどれだけ自分を守れるだろうか・・・と思うと・・・
せっかくダミーで買ったスマホ、かっちゃんあらもらったあのキーも置いてきてしまった・・・
(かっちゃんごめん、助けて)
「そんなに警戒しなくてもいいんじゃない?
別に何かしようとしているわけじゃないんだから」
そう言って純にゆっくり近づいてくる
「それ以上近づかないでください、大声を出しますよ」
「あっそ、でもね、ここ地下の一番奥の工事車両の整備点検の音が響いて、周りには何も聞こえないと思うけど?」
「だからってこれ以上私に何かするなら、警察に訴えます!」
「おいおい、何言ってるんだい?僕は犯罪者になる気はないからね~、そんなことするわけないじゃない」
「じゃあ、どういうつもりなんですか」
「ここで2人で雑談でもしながら書類を探して、席に戻るだけだよ」
「どうしてそんなこと・・・」
「別に、書類を探すと言って2人で地下倉庫に行って、1時間くらいしてから席に戻ると思うけど、まあ、誤解されるかもしれないからね、だから僕が君の婚約者に何をしていたかちゃんと説明してあげるよ、それだけだけど?」
そう言ってニヤっといやらしい顔。
「戻ります」
「まあいいけど、じゃあ手ぶらだけど一緒に戻ろうか?」
(かっちゃん・・・)
「・・・」
「今戻っても、資料も何もなく手ぶらで2人で戻ったりしたら、一層疑われないかな~、まあ僕がちゃんと弁解してあげるから大丈夫だけどね」
わざとらしくさわやかイケメンを気取ってそんな事を言う。
純は、今度後ろから抱き着かれたら、合気道で!・・・と覚悟して
「わかりました」そう言って再び奥のラックの方に向かい、資料を探し始めた。
須藤はその姿をニヤニヤ見ながら、こっそりドアの鍵を掛け純の後ろについていく、
しかし、後ろに立ってただ見ているだけで何もしてこない。
(かっちゃん・・・こわいよ・・・)
【ちょっと気を許した隙に-2】
克己は仕事をしながら、ちょくちょく純の方を気にしていたが、ちょっと席をはずした隙に純がどこかに、ずーっと気になって見ていたが純が離席して30分ほどたっても戻ってこない。
須藤・・・いない、しまった、あいつは、今まで俺がこっそり純の後についていた事に気づいてたんだ・・・俺が席を外している隙を狙って・・クソッ
あわてて須藤のことを教えてくれた水野さんに聞いてみた。
「あの~、村井さんがずーっと席に戻っていないようなんです、須藤主任も・・・」
「そうなの?」そう言って総務の子に聞きに行ってくれ、それから業務課長と総務課長と何か話をしてから
「高谷君、ちょっと」そう言って、一緒に地下倉庫室に。
早歩きで、
「須藤主任が3年前の資料が必要になったから取りに行くって言って村井さんを連れて行ったらしいのよ、でももう30分以上経っているでしょ、だから」
そう言って地下倉庫の扉を開けようとしたところが鍵が、
「高谷君そこで待ってて、今キーを持ってくるから」
それを聞いて不安が・・・胸がざわめく、中にはおそらく須藤と純が、中で何が起こっているんだ、純は・・・・
ドアを思いっきり叩こうかと思ったが、須藤を追い込んで逆ギレされ、純に何かされたらと思うと……
水野さんを待つしかない、ドアに耳をあてて中の様子を聞こうと耳をあてたが、地下の反対側は地上出入り口からのスロープを降りてきた工事車両の簡単な整備をする場所で、その音が響いて中の様子がまったく聞き取れない。不安がどんどん増して、いてもたってもいられなく絶望感が・・・
(純、俺は純が何をされても、ずーっと純だけ愛するから、大丈夫だから、無茶はしないでくれ・・・)
色々な事態を考え、覚悟していると、水野さんが息を切らしながら走ってきて鍵を開け、俺は資料倉庫に飛び込むと・・・純が1人資料を探して、そのすぐ後ろに須藤が立っていた
「純!」その声を聴くと 純が振り返る、俺の顔を見ると、 きつい目つきで怒った顔が、一気に緩んでそのまま泣きながら俺に向かって走って抱き着いて、俺はそのまま勢いで一緒に床に尻もちをついてしまった。
「かっちゃん、怖かったよ~」
それを見て水野さんが思いっきり須藤を睨み
「須藤君、あんた何やってるの!」
「えっ? 昔の資料でちょっと見たいのがあったんで、村井さんに手伝ってもらってたんですよ」
ツラっとした顔で答える。
水野さんは睨んだまま
「そういう白々しいウソやめなさい!」
「はあ?」あくまでとぼける須藤。
いつのまにか業務課長がやってきてドア付近から中を覗くように見ていた。
「なんでそんな資料を探すのに村井さんなの、同じ業務の人に頼めばいいでしょ、それになんで鍵がかかってるの、おかしいでしょ!」
「いや~、他の業務の人達は別の仕事業務をしていたし、村井さんは手が空いていそうだったからお願いしただけですよ」
「じゃあなんで鍵がかかってるの!」
「あれ? 鍵かかってました?それはどうもすみません、間違って掛けちゃったかな~」
あくまでしら切る。
純は泣きながらずーっと俺の胸に顔をうずめ「こわかった」その度に「もう大丈夫」そう言って頭を撫でて宥める。
業務課長が地下倉庫屋に入ってきて、何があったのか状況をそれぞれから聞くということ で、業務課長は須藤を、俺達3人は一緒に別の会議室に行き総務課長に話すことになった。
しばらくして純が落ち着いてきたので水野さんと一緒について行って営業のフロアの会議室に。
そこに、連絡を受けて、やってきた総務課長が
「何があったのかな?」と聞いてくるや否や
水野さんが「ちょっと、何とぼけてるの!見ればわかるでしょ!」
「すみません」課長の態度が急変、さすが水野さん
「だいたい、なんで須藤があんたの課の子にちょっかいかけてるのを黙って見てるのよ!須藤がどういう男かわかってるんでしょ!」
「はい」
「髙橋君、もしこれが事件になって警察沙汰にでもなったら会社の大損害に繋がるのよ、わかってるの?ちゃんとしなさい!」
すごい、課長を『君』呼ばわり
般若顔の水野さんが俺の方を向いて、般若を解く
「高谷君、村井さんごめんなさいね、須藤はなんらかの処分を、そして高橋君達にもなんらかの責任をとってもらいます。だから安心して、もうこれからは職場で正々堂々と2人イチャイチャしなさいね♡」
すごい、水野さん、こんな頼もしい人だったんだ。
純がぐずぐず泣き顔で、水野さんのその言葉にうなずくと、水野さんがニッコリ
「あら、泣き顔でぐちゃぐちゃね、せっかくの美人がだいなし、落ち着いたらトイレに行って整えてから席にもどりましょ♡」
そう言って顔面蒼白の総務課長を放っておいたまま3人で管理部門のフロアに、純がトイレで顔と服を整え、俺はトイレの前で純を待って、2人で居室に。
席についてあたりを見回すと、業務課長と須藤がまだ戻ってこない、どうなったんだろう と思っていると、水野さんが
「須藤はもう戻ってこないわ、だから安心して」
「はい」返事をして、そのまま純の席に行き、その旨を伝え頭を撫でると、純が「うん」まだ暗い顔のまま
「これからは、水野さんの言う通り、会社でもイチャイチャしようね」
「うん」ちょっと笑った
もういい!最初は、会社だから、職場だから、俺達はまだ新入社員だから、どうしようもなくなった時は最終手段として辞めるしかないかな、とかいろいろ考えて行動できなかった、しなかった。だけど、もう気にしない。
純にべったりくっつく、それが問題になるなら・・・悩まず2人でさっさと会社を辞めよう、腹は決まった。
今日は、ほとんど仕事に手がつかず、水野さんが、2人で一緒に定時前だけど帰りなさい。と言ってくれたので、定時のチャイムのなる前に、純のところへ行って、純の帰り支度を待ち、職場で正々堂々と手をつないで一緒に帰る。
純はかなりショックだったようで、そりゃそうだ。
1歩間違えると、犯罪被害者になってたんだから、高校の時の・・・トラウマにならなければ良いが・・・
家までの道のり、ずーっと純の耳元でささやく「大丈夫だよ、純に何があっても、何をされても、絶対純のそばを離れない、ずーっと一緒、ずーっと愛してる、その気持ちは変わらないよ」
家に近づいてきたところで、周りに人がいないのを確認して、エロ発動!
「帰ったら、俺のコレで純をトロトロにしてやるぞ!
あ~早く家に着かないかな~早く帰って純とズッコンバッコンしたいよ~」
「もう、かっちゃんのエッチ~」やっと笑ってくれた。
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