第89話それは突然に
それは突然に
それは突然に
それでも契約当初に比べると事務所に拘束される時間が増えた、授業のない日は撮影という約束は守られているが、何故か頻繁に授業が終わってからは事務所で打ち合わせがあった。
そんな時、俺にとって、それは突然に訪れた。
実はあまり顔をだしていなかった商学研究会から、昨日の夕方急に連絡があった、商学研究会の打ち合わせが午前中にあり、この日も純の仕事で事務所での打ち合わせに付きあうことができず純は1人で仕事に出かけた。
最近、事務所での打ち合わせが多く、俺はなかなか都合がつかず純が1人で行くことがあったが、事務所内での打ち合わせなので、純1人でも大丈夫という事で1人の時が多かった。
それが・・・・・・。
研究会の打ち合わせが終わったら、純の仕事先に行くという事で純と約束し、お昼も食べずに事務所に行くと純は1人の男性と楽しそうに話していた。
彼も楽しそうに純と話をして、時々彼が純の肩に手を乗せたり、腕を掴んだり、純が彼の腕を掴んだり、とても親しげで楽しそうに見えた。
最初はそれを見てモヤモヤした気分になり嫉妬?と思ったが違う。
2人の間に俺の入る隙はなかった。
純が彼に向ける笑顔がとても自然で、いつの間にか2人はお互いを名前で呼び合っている。
2人はずーっと付き合っているかのような自然な振る舞い。
9月から新しく純の担当になったと紹介されたマネージャー。
とても声をかけて良い雰囲気じゃなかった、向こうが気づくまで、そこに立って2人が楽しそうに絡んでいるのを見ているしかなかった。
・・・・・・知らなかった。
いつのまに2人はこんなに親密な関係になっていたんだ?
モデルほどイケメンではないがそこそこの顔立ち、身長も俺とあまり変わらない。
体型も普通、でも仕草がとてもスマートでやさしそうな雰囲気、大人の男性。
彼と純は恋人のようなお似合いのカップルに見えた。
2人が楽しそうに、お互い肩や腕を触れ合いながら話しているのを見て、
そっか・・・・・・純が今、気になっている人は彼なんだ・・・・・・俺じゃないんだ・・・・・・そう思うとこのイヤな感覚が自分の胸にストンと落ちた。体の温度がどんどん下がっていく。
その場で2人を見てボーっと立っていると、純がようやく俺に気が付いて彼に挨拶をしてこちらに向ってきた、彼は俺を見て軽く頭を下げ、別のスタッフの方へ行った。
「かっちゃん 来てくれたんだね」
「うん、約束だからね」
それからの俺は、純が何を話しているかわからないまま、気が付くと青山のカフェにいた。
「あのね、のぼるさんがね、&%$%()#$%」
話のほとんどは頭の中が真っ白で入ってこない、ただ言える事は、このカフェはあいつと2人だけで来ている事、そして全部彼の話で、純は彼の事をいつのまにか、のぼるさん、と名前呼びをしている事。
「ふ~ん、そうなんだ」
「かっちゃん、どうしたの?」
「えっ?」
「私の話聞いてないでしょ」
「ごめん、今日の研究会の打ち合わせで色々やる事ができて、それで頭がいっぱいだったんだ、ごめん」うそだ。幽霊部員の俺が急に忙しくなるわけない。
「もう、ちゃんと聞いて」
「うん、ごめん」
「でも、そんなに大変なの?」
「ああ」
「そっか、あんまり無理しないでね」
「ああ」帰りたい、1人になりたい。
2人は、それから純の家に行き、純は一緒に部屋に行くつもりだったようだけれど、俺はゼミで必要な事をしなければいけないから と言って、そのまま門の前で別れて1人家に帰った。
ショックだった。
純の彼に対する態度、仕草、そして純の話が彼の事ばかりで、のぼるさんって名前で・・・・・・お似合いのカップルか・・・・・・。
いろんなことが頭をよぎる、母さんが良く言っていた「克己よりもっと良い男ができたら、振っていいんだからね」
純のお義母さん「あまりあせらないで、一生一緒なら1年や2年なんてほんとにたいした事ないでしょ」
そういうことなのか~、やっぱり高校生が付き合って舞い上がっているだけで、大学に行って世界が広がるとそれぞれ別の人を・・・・・・。
1人ベッドで横になっていると純からRINEが「大丈夫?」 「うん、大丈夫」
「無理しないでね」「うん」
「会えない?」「ごめんね、一段落したら会いに行くから」またうそをついてしまった。
今、純に会うと、お似合いの2人を思い出して・・・・・・。
「ごめん、明日も研究会の打ち合わせがあって、ちょっと行けない」
「そっか、でも無理しないで、私1人でも大丈夫だから」
「ゴメン」「いいの」
「じゃあね」「うん」
・・・・・・むなしい。
今までと同じ普通のやりとり、違う、随分あっさりしている。
のぼるさん、のぼるさんってあんなに仲良くしていて2人でデートまでして、平気な顔で俺に接して、俺がいなくても大丈夫・・・・・・か。
それから、毎日同じようなやりとりで1週間が過ぎた。
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