わたしにも言わせて!

ジュン

第1話 夢見る少女じゃいられない

女は言った。

「毎日毎日同じことの繰り返し。飽き飽きするわ」

同僚の別の女が言う。

「みんなそうよ。私もそう。働いたら働いたで毎日同じことの繰り返し。だからって、家庭に入ったら家事に追われて毎日同じことの繰り返しだしね」

「少女のロマンティシズムなんて、社会人になったらあっという間にご破算だものね」

「そりゃそうよ。夢見る少女じゃ生き抜けないもの」

「書店に行くことがあるんだけど、宗教とかポップサイエンス系の心理学、それにスピリチュアルがどうとか、いわゆる生き方本がたくさん売られてるのよ。それ見てると、生き方がわからない人が多いんだなあと思ったわ」

「あなたはどうなのよ。確固たる生き方の指針あるの?」

「ないわね。人のこと言えない。でも、今の時代って、哲学の大御所、例えば、ニーチェ、ハイデッカー、サルトルとか、そういう人の思想を必要としてないと思うの」

「そりゃそうよ。あんなのは、思考中毒の患者なんだから」

「いつの時代も人は生き方に悩んだりもするものじゃない?けれど、生き方に答えなんてないから、できるだけ安全な方を選びましょうってなっちゃう」

「寄らば大樹の陰、長い物には巻かれろ、てことね」

「そう。でも、結局つぶしがきかない状況になるとやっぱりそうゆうほうが正しいんだって納得しちゃう」

「どんなに、いろんな夢を描いたり、自分を表現したりしたいにしても、あるいはもっとありふれた仕事や主婦や共働きにしてもさ、食べていかれないとどうにもならないじゃない。仙人じゃないしカスミを取って食べましょうってわけにいかないのよね」

「『和を以て貴しとなす、逆らう事なきをむねとせよ』っていうのが日本人は大好き。私の嫌いな言葉に『絆(きずな)』があるけど、あれって、お互いに依存し合いましょう、『共依存』でいましょう、自立しないで甘え合いましょう、社会や世間様や偉い人に迎合しましょう、って奨励してるのよね。土居健郎の『甘えの構造』を読んでよくわかったわ」

「土居健郎を読むんなら、斎藤学(さいとう さとる)の本も読んでみたら?社会なり社会の最小単位の『家族』の依存症の病理をえぐり出してるわよ。アリスミラーの著作もそうだわね」

「それで、『おとな』ってものになると、避けられないのがリアリズムとそこから来る『寂しさ』の感情なのよね。だから、酒や煙草やセックスやギャンブルやワーカホリックになって寂しさを遠ざけようとするのよね」

「それしか、やることがないのよね(笑)。忙しいけど暇です、みたいな」

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