第110話 物語撲滅委員会、ただいま会員募集中
「本間様も物語撲滅委員会に好意的になられたようで、嬉しいですね。会員になりませんか」
「ならん」
今までどうにもならなかった角戸をどうにかした葉梨には感心するが。
「なぜです? 生まれる物語の数が少なくなれば、未完の物語も少なくなります。物語終了課としては願ってもない状況ではないでしょうか」
「物語を終了させる方法を編み出したのは良いと思うが、物語を自体をなくそうとする動きに同調はしない」
本音は関わりたくない。面倒くさい。
「物語が生まれないことのメリットは他にもございます。世の中に物語が多過ぎると思いませんか? 一生かけても読めない量の物語があふれている。増え続けている。読まなければ面白いかどうかがわからないというのに、選ぶのに苦労する。それもこれも物語が多過ぎるからです。余計な物語が減ればいいのです」
「自分好みじゃない話を余計な言うな」
本間は小声になった。
部外者に聞かれれば、まずいことになる。公務員は特に叩かれやすいのだ。庁舎内だが、宅配業者や外注の民間業者などが出入りする。
「それに妙な屁理屈をこねるんじゃない。聞いていると、物語未完部を思い出す」
オレンジ色のおさげ髪の子が笑顔でプレートを掲げている姿が頭に浮かぶ。頭痛まで思い出されて、本間は片手で頭を押さえた。
「みかんお嬢様をご存じで!」
「みかんお嬢さまああ?」
我ながら素っ頓狂な声が出る。
お嬢様は神出鬼没にプレートを持って現われたり、未完にするよう大衆を扇動したりしない。
固まる本間に小牧が付け加える。
「今田みかんちゃんは、文科省今田大臣のご息女ですよ」
「はあい?」
なぜ小牧が知っていて、自分が知らないのか。
周りの噂話とか井戸端会議にうとい自覚はあるが、あれだけみかんに関わっていて耳に入ってこないとは。
「どうして、みかんお嬢様はお父上に反抗的なのでしょう。物語未完部などというものを立ち上げて、大学でも未完サークルを。一体何が悪かったのか……」
と葉梨がハンカチを手にとり目元にやる。執事の格好をしている人と思ったら、執事らしい。
「名前だと思う」
「係長が言います?」
きっぱりと断言した本間に小牧が呆れたような顏をする。
「みかんお嬢様により未完の物語が増え続ければ、公の旦那様の立場がありません。旦那様の心労を軽減すべく、『物語撲滅委員会』を発足したのです」
「言っとくが大体の方向性は一緒だし、大臣の悩みの種に一緒になっていると思う」
主従そろって似たようなことをやらんでもいい。
「変に周り道しないで、素直に物語を終わらせることだけに集中して……」
「未完こそが正義!!」
ガラッと大きく戸が開かれ、はたしてオレンジ色の今田みかんが仁王立ちで立っていた。走ってきたのか、おさげ髪が揺れている。
人はこういう時に壁にめり込みたくなるのだと思う。衝動的に。
「もう、あいつらまとめて対消滅しないかな」
本間は心ここにあらずといった目で、そうぼやいた。
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続きはまた12月となります。
中途半端ですみません。
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