第二十章 物語撲滅委員会、ただいま会員募集中2
第111話 勝手に○○がやりました、は信用されない
「みかんお嬢様、このようなところにまで。大学はどうしたのです?」
葉梨はたしなめるが、みかんは自信たっぷりな表情なままだ。ビシッと人差し指を出した。
「大学の講義は選択だから、時間はとれるわ!」
「待て。関係者じゃない人は庁舎に立ち入り禁止。出た出た」
本間は、はいはいと腕であおぎ、羊かペンギンかのようにみかんを追いたてる。
「なによ。私は未完サークルの会長で、ポンカンは係長よ。立場をわきまえなさい!」
「お嬢さまは、あなたのような下の者がそのような扱いをする相手ではございません」
正直、この面倒コンビは息が合っている。角戸とは別意味で面倒だ。
本間はあおいでいた腕を止め、手を上げる。
「わかった。執事さんが外まで連れて行ってくれ。いっその事、家まで送ってくれてもいい」
二人をそのまま追い出したい。
そして、二度と戻って来るな。
「みかんお嬢様。爺やめがお供いたしますゆえ、帰りましょう」
「嫌よ。完結依頼サイトを作った本元はここでしょう。報酬に釣られて、作者が物語を適当に終わらせるなんて悪の所業を見逃すわけにはいかないわ!」
みかんは物語終了課全体を大仰に指し示す。その通る声と物珍しさで人目を集めつつある。非常にまずい。
小牧はいつの間にか、遠巻きにしてこちらを眺めている。
ずるい。
「ポンカンも証拠集めを手伝いなさい! 何でもするって言ったでしょう」
「はあ?」
そんな危険極まりないことを言った覚えはない。
だが、みかんの方も嘘をついたとは思ってないらしい。
「ポンカンが間違えて角戸の小説をシュレッダーしたというから、コピーを渡してあげたのに。恩を覚えてないのかしら」
「何のこと?」
「そこの茶色の髪のお姉さんがそう言って……」
みかんの視線の先に、小牧がいる。本間が手招きすると、その分だけ小牧がカクカクと遠ざかる。
ロボットか。
小牧が離れたところで、小さく指先の方だけで手を合わせた。
「すみません、係長。みかんちゃんがくれたコピーで係長は戻って来れたので、良かったということにしてください。あ、私は仕事しなくちゃ」
本間がじっと見つめる中、いそいそと小牧は自身の机へと帰っていった。
本間だけ、みかんと葉梨という中に取り残される。なぜ他の人達は回避能力が高いのだろう。
「部下の言ったことの責任を上司がとるのは、当然だと思うの」
つまり、自分が角戸の物語に閉じ込められた時に、小牧が勝手に『係長が何でもするから』とか言ったらしい。
普通、『自分が何でもするから』じゃなかろうか。
あの時に周りに迷惑をかけたということは自覚しているので、強くは言えないが。
「いや、そもそも完結依頼サイトを作ったのは、そこの執事さんって本人が言ってたぞ。詳しくは自宅で大いに話し合ってくれ」
主従争いにも親子喧嘩にも巻き込まれるのはごめんだ。さっさと帰って欲しい。
「『勝手に秘書がやりました』みたいなこと言っても無駄よ! 私の父も言うけど、わかってるからね」
言うんかい。
「いや、本当に物語終了課は関係ない。葉梨さんも言ってやってくれ」
「僭越ながら、旦那様のために爺やが勝手に作成致しました」
葉梨がすっと手を胸に当て、軽く頭をさげる。動作がスマートでいいが、スマートにみかんも処置してもらいたい。
「父のためというなら、つまり物語終了課のためじゃない。爺が物語終了課の非常勤職員なのも知っているわよ。作家への精神的な妨害を含め、悪事を世に知らしめてやるわ」
一般の大学生ならまだしも、文科省大臣の娘である。周りが面白がってとりあげるというのはあり得ることだ。
完結依頼サイトはまだいいが、物語撲滅委員会として葉梨がやっていたことはアウトだ。
確実に反発を招くだろう。
平穏無事に過ごしていたい。
「ちょっと待った。お願いだから、よーく話し合ってくれ。葉梨さんもどうにかしてくれ。このままじゃあ大臣も非難されるだろ」
葉梨は深く息を吸い込んで、アルカイックスマイルを浮かべる。
「すべて爺やの責任です」
「潔く諦めるな」
こうして、久しぶりに物語終了課がテレビに取り上げられることになったのだった。
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