第74話 三人(部下と作家)集まれば文殊の知恵というけれど
角戸から話をあらましを聞いた小牧と遠藤は、どう終了させるかを真剣に考えるということはなく、コタツの上のみかんを食べていた。
「ん~。デスゲームを作った悪の結社は、世界でも最強の存在。元軍隊や元マフィア、殺し屋等を有しって、アホなの?」
「アホと言われても……」
強く言われた角戸は、コタツに小さくなり潜り込む。
遠藤が意味もなくメガネを押し上げた。
「困りましたね。黒幕を潰してしまえば、係長の身の安全を図れるうえに終了させることもできるというのに」
「ほんとよ! 面倒なことをしてくれて。いいわ。悪の結社を各国が協力して倒させるわ。全滅させてやる」
角戸が唐突に自信ありげに顔を上げる。
「警察機能はなくなっていることから分かるだろ。悪の結社は各国の中枢に潜り込んでいて影響をもたらしているのだ。そんな生半可なことでは、悪の結社は滅ばない! フハハハハハ!」
小牧がうざったそうに角戸をみやる。
「戦争でも起こして、色々うやむやにしちゃおうかしら」
「小牧さん。それは、係長の命が危なくなります」
「じゃあ、元特殊部隊のコックでも投入してやるわっ!」
「はっはっはっ!! 元特殊部隊のコックは、もうとっくに返り討ちに遭っている話を書いた。物語終了課どもに簡単に終わらなどするものか!」
「余計なことをして!」
小牧は、皮付きのみかんを角戸の口に押し入れた。ぐぼぐぼ、というくぐもった音がする。
「ここは超能力、宇宙人、魔法とか霊とかの出番でしょう」
遠藤はそう言ったが、角戸がみかんを右頬によせ言う。
「物語終了課対策はきちんと取っているんだ。非現実的なことは全然書いていな、ぐぼお」
追加のみかんがつっこまれた。
「まったく。どうしようもない」
小牧は腹立たしいとばかりに、ボールペンをカチカチと鳴らす。
と、着信音が響いた。角戸がリスのように両頬を膨らませて、電話に出る。
「はい。どなたでしょう」
『私、みかん。あなたの家のそばにいるの』
「あの、また、もしかして」
角戸がカーテンを開けると、『進捗ダメですね』という看板をもったオレンジ色のおさげ髪の少女が外にいた。
ちらつく雪などものともせずに、元気よくVサインをしている。
「……」
『進捗ダメですね』
「ダメです……」
角戸が崩れ落ちる。後ろから小牧が顔を出して、窓を開けた。
「みかんちゃん、寒くない? お菓子にお茶もあるから入っておいでよ」
「物語終了課ということは未完の危機ね。すぐ行くわ!」
みかんは笑顔で返した。
****
コタツは角戸、小牧、遠藤、みかんの四人でちょうど埋まった。みかんは緑茶の湯のみで手をあっためている。
「物語終了課が、作家の家に来るなんて珍しいわね。何の用かしら」
「物語終了課がやることは、物語を終了させることです。特別なことはないですね」
遠藤は当然という風に答えた。
「絶滅危惧種たる未完作品は、未完部によって保護されているわ。物語終了課の手が入らない作家本人による未完作品は、レッドリスト入りよ」
「またまた訳わからないことをおっしゃる」
笑う遠藤に対し、小牧は小首をかしげた。
「未完作品を保護しているということは、保管しているってこと?」
「もちろんよ! ありとあらゆる作家の未完作品を蒐集しているわ」
「角戸の作品も?」
「あったりまえじゃない!」
みかんの言葉で、ハッと角戸が顔を上げた。
「そういえば、渡したあの作品」
小牧はみかんの方を向いて、願うように手を組む。
「みかんちゃん。ポンカン係長の首に関わってるの。二人殺さないといけないデスゲームの話を渡して。コピーでいいから」
「ポンカンが? どうして?」
「ポンカンがポカしたのよ。回収したはずの作品をシュレッダーにかけて」
「え、あの係長は俺の夢の、ごぼっ」
小牧は、余計なことを言いかけた角戸の口にみかん(果物)をつっこんだ。
「相変わらずのアンポンカンぶりね」
うんうんとばかりに、みかん(人間)は首を縦に振り、
「ただ、天敵である物語終了課においそれと渡すわけにいかないわ!」
ビシッと人差し指で小牧を指す。
「懲戒免職になって、無職になったポンカンに利用価値はある? 物語終了課の係長だからこそ利用しがいがあるんじゃない?」
「一理あるわね」
「あ~、ポンカン係長。作品が戻ってくるなら何でもするって言ってたな~」
小牧は嘘っぱちを白々しく並べるが、みかんは腕を組んで真剣に聞いている。
「そうね。あのポンカンに恩を売るのもいいかもね。未完部の発展、未完作品が世を席巻するために寄与してもらうのも悪くはないわ」
当然ながら、被害をこうむるのは本間係長である。
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