閑話 どうでもいい日常2
第51話 北九州市民は下関を自分の領土だと思っている
北九州の冬で美味しいのはフグだ。
フグというと山口県の下関が有名だが、ただ対岸なだけで獲れる海は同じである。
むしろ、北九州市民は下関を自分の領土だと思っている。
フグと言えば高級魚だが、すべてのフグが高級魚というわけではない。
高級魚のフグはトラフグといい、一匹六千から八千円ほど。一方で、小さなサバフグは十匹で千円しない。
トラフグ一匹だけで良い出汁がでるので、安いサバフグに舞茸、白菜、長ネギ等を投入しても、家族四人で一万円もしない鍋が出来上がる。
トラフグの刺身を買っても、一万ちょっと過ぎるくらいだ。
刺身に飾りとしてフグヒレが付いてくる。それをコンロの火で軽く炙り、日本酒の中に入れ熱燗にすると安酒が2ランク以上の味になる。
年末年始に実家に帰る楽しみの一つだ。
「乾杯」
本間 続は、飲み助な父とおちょこで軽く乾杯する。香ばしい燻製のような香りと出汁のある甘さが口に広がる。いくらでも飲める。
母と姉(ではない)は飲めないので、代わりに緑茶を飲んでいた。
サバフグは安いといえど、身はやわらかく白身魚にしては味がしっかりとしていて美味しい。対して、トラフグは身が筋肉質で一緒に煮込むとうま味が出てくる。もちろん、身だけ食べてもとてもいい。
そのうま味が出た汁で食べる白菜もうまい。
翌朝は雑炊にし、出汁はすべて米に吸わせて余すところなく食べる。
カニ鍋ではないが、フグ鍋でも食べるのに夢中で無言になる。鍋と熱燗でコタツに入っているのに、もういらないと思えるほど体が温かくなる。
****
母は緑茶を注ぎながら、ぐちぐちと言う。
「私は七十になる前に、孫の顔が見たいだけなのよ。続はテレビに出るようなイケメンじゃないけど悪くない顔をしていると思うのよ。ちゃんとファッションとかに気を遣えばいいのに、スーツを着ている方がましなくらいに私服がやぼったいわ、ジャケットさえ着ていればいいと思ってねえ」
「あ、お母さん。弟のことは私に任せてください」
夏美が真面目な顔で言う。
「そうね。そうね。夏美に服を選んでもらえばいいわ。もうせっかく公務員なのだから、婚活パーティーとかに行けばある程度モテるはずよ。お見合いとかも薦めたのに、なんのかんので言い訳して行きやしない。変に純で困るわ。お父さんからも何とか言って」
「お父さん」
夏美と母の視線の先には、
くー。
すー。
父、息子揃って同じ格好で寝ていた。
「アンタたち! コタツで寝るなと前から散々言っているでしょーが!! 歯磨きしてふとんで寝なさい! もう!」
母は二人の足を蹴っ飛ばした。
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