第44話 愛は人を救うことだってある4
「あ~、彼女が欲しいっす」
倉島は呟く。
刑事という職務上、緩んだことを言うのは聞き込み先ではやらないが、先輩が煙草休憩している時くらいはいいだろう。
「へえ。どういう人が好みなんだ?」
都道が煙草のケムリを吹かせながら言った。
先輩の都道は童顔でなめられやすいが、常に貫禄のありそうな笑みを浮かべ、からかったり皮肉を言ったりして相手を一蹴する。
周りからは暴走気味、得体の知れないと散々な言われようだが、倉島にとっては気安い先輩だ。
「胸が大きい子で、抱き心地のいいある程度ふくよかな感じがいいっすねえ」
「ほー。それで」
携帯が鳴る。自分のものでないので、先輩のだ。
「あ、すまんな」
「どうぞ」
都道が胸ポケットから携帯を取り出しでる。
「よお、本間君。仕事中じゃないのかね」
最初は軽快な口調だった。
なのに死んだらとかいうワードが出てくる。雑音がもれ聞こえはするものの、電話先の相手が何を言っているのかはわからない。先輩の口調にまったく陰りはなく、そのままで。最後にはホンマという人をからかっていた。
だが、指が小刻みに煙草を弾いて吸い殻入れに灰を落としていく。
「じゃあ、またな本間君」
倉島の戸惑いをよそに、都道は笑顔で電話を切った。煙草をギュッとねじ込んで火を消し吸い殻入れに入れる。
「先輩、今の何ですか?」
「なにか?」
都道はすっとぼけた顔をする。
「いえ、先輩。先輩が死ぬとか。無事を確認するとか。事件でしょう? 上に報告しないと」
「いやあ、ただの世間話だよ」
爽やかな笑顔に騙されそうになる。事件で知っている人が巻き込まれた場合、普通はこんな顔をしない。
ただ、この人は普通ではない。
「ただの世間話で、『死んだら無事を確認できない』って言うわけないじゃないですか」
お手上げというように、芝居がかった仕草で都道が両手を上げる。
「じゃあ、聞かなかったことにしてくれ」
「先輩。犯人から止められているのでしょうけど、僕は言いますよ。先輩の友人かなにかでホンマという人を調べればすぐにわかるでしょうし。人が多い方が人を見つけやすいですよ」
「倉島。上に言うのを三時間だけ待ってもらえないかな。というのはね、上に言うと逆に邪魔だし、私が直接犯人を殴りたいんだ」
「邪魔……」
先輩はそういう人だった。
上に言えば、関係者として前に出させてはもらえないだろう。
「はあ、わかりました。三時間だけですよ。その代わり情報は出してください」
「ありがとう。さすができる後輩」
都道が喜んで拍手する。そして、メモ帳にさらさらと書くと、ビリっと破りこちらへ手渡した。
日にちと銀行の支店名と『キ』という文字が読める。
「この日の銀行で倒れて病院に運ばれた奴について調べてほしい。苗字の頭文字は『キ』なはずだ。わかったら、姓名の名前以外を電話で私に教えて欲しい」
「なぜ名前以外?」
名前が重要ではないのだろうか。
「潰す相手のさ、誰かからもらったような名前を知りたかないんでね」
にへらと微笑む都道を見て、得体の知れないという評もわかると倉島は思った。
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