第33話 罠に掛かる
「さて、警察の人達はこれを解いていない。宝石強盗の男の証言で答を聞き、宝石を見付けた。寺北は前半を解く前に亡くなった。だからこの暗号に挑戦するのは、君達が初めてだ」
初めてと聞いて気分の高揚が上乗せされる。
ちなみにだけれども、暗号解読の途中で亡くなった寺北保仁は宝石強盗犯の弟分で、定職には就いていなかったが犯行自体には関与していない。犯人の自供によれば、暗号メモを一時的に隠すつもりで寺北の部屋を訪れ、開封済みのティッシュケースに押し込んでおいた。恐らく寺北は犯人逮捕のあと、暗号メモを見付けて宝石の隠し場所だと察し、探してみるつもりになったのだろう。
「仮に解けなくても刑事さんから聞いて僕はもう答を知ってるから、宿題が間に合いそうにないと思ったら、ギブアップしても大丈夫だよ。教えられる」
「それは嫌。自力で解きたい」
「だろうね。それで、目処は立っている?」
「無茶言わないで。今見たばかりなんだから。ねえ、みんな」
同意を求める瑠音に三人はうなずき返した。さらに高谷が付け加える。
「野木村さん、私達を急かして解かせないようにしてません? 刑事さんの顔を立てなきゃいけないとかの理由で」
「はは、そんなことないよ。ただ、それなりに時間があったんだから、何らかの作戦は練ってあるのかなと思ったまで」
「もちろん、あのヒントに関しては充分に検討しました」
高谷は元々の暗号メモにあった書き込みを指で押さえた。そう、“絶対に“宝”を奪う! 三文字が重要!”の箇所である。
「へえ、どんなのか聞かせて」
「三文字が重要とあるから、それよりも前の文で三文字になるものを探したわ」
代わって瑠音が答え始める。
「そのままの文字では三文字じゃないけど、仮名にすればやっぱり“宝”が当てはまるかなと思った。そして“宝”を奪うってことは、仮名の『た』『か』『ら』を文章から消すって意味じゃないかしら。そういう結論に一応なってたの」
「なるほど。それをこの新たな暗号に当てはめてみるか」
「うん。最初に全部、仮名にしたいんだけど、これの読み方が分からない」
歌間屋の箇所を指差した瑠音。倉持が検索を始めようとするのを、野木村がストップを掛けた。
「それは無蔵島にあるカラオケ店で『うたまや』と読む。検索しても出て来ないんだ」
「ありがとう。じゃ、書いてみる」
からさわけおやしきおもてもんからうたまやにむけて15メートル
「ここから『た』『か』『ら』の三文字を取っていくと」
さわけおやしきおもてもんうまやにむけて15メートル
「これを読みやすいように漢字に直して」
さわ家お屋敷おもて門うまやに向けて15メートル
「うまやって何?」
野木村を見た瑠音だが、今度は答を教えてもらえなかった。
「検索すれば出て来るからやってごらんよ」
彼の言葉を受けて倉持がタブレットを操作する。じきに分かった。
「いくつか意味がありますね。馬小屋とか駅舎とか」
「うん、それでいい。小さな島だから鉄道なんてない。だからここは馬小屋を採るべきだろうね。僕が刑事さんから聞いたところでは、
「だったらその厩を目指して十五メートル行った地点を掘って、宝石が出て来た?」
「ところがそこはアスファルト道路だった。掘りようがない。それ以前に宝石を隠せない」
「え? じゃあ間違いなの、これ」
唖然とした子供らの前で、野木村は楽しそうに、でも笑うのを我慢しているようだった。
「残念ながら、犯人の用意した罠に見事に引っ掛かってしまったね。実は犯人の奴、暗号を見付けた人が簡単には解けないよう、罠を用意していた。そんなことまで自供しなくていいのに、得意げに語ったそうだよ」
「何かむかつく」
蒼井が憮然として言った。言葉にこそしないが、他の三人も同じ気持ちだったろう。
「頭来た。絶対に自力で解く」
「その意気だ。どこで罠にはまった思う?」
「それはやっぱり、消す字を間違えたんだろうから、三文字の設定からやり直し……」
「でも、宝以外に当てはまりそうな文字はないわ」
高谷が困惑を露わにする。最初の解読方法に自信を持っていたのが窺えた。
「“ぜったい”では四文字だし、“うばう”そのものってのも変だし」
高谷がそう言ったのを最後に、みんな黙り込んでしまった。他に検討すべき物が見当たらない。
「さあどうした? 最後の答が分からないと、宿題として画竜点睛を欠くってやつだぞ」
「野木村さん、答を知ってるからってえらそー」
「そんなつもりは。画竜点睛を欠くって、みんなは知ってる?」
「知ってる」
四人それぞれうなずいた。
「へえ。僕が小学六年の頃は、知らなかった。間違って覚えていたよ。竜の絵の話なのに、何故だか漢字の話と思い込んでいて」
「漢字? 竜の字の?」
「じゃなくて古代の王様ってイメージ。『王』に点を付けたら『玉』になるだろ。玉は磨かれて美しいものって意味があるから、点のない王は足りないところがあるっていう風な意味かと誤解してた」
「ふうん」
「あるときテストに出てね。堂々と書いて間違えた。家に帰って母親に見せたら、『あんたこんなことも知らないの!』って、うかんむりで怖かったな」
野木村が話を区切ると、瑠音達は顔を見合わせた。変な雰囲気が生まれている。
「ん? どうかした?」
「あの……『うかんむり』じゃなくて『おかんむり』じゃありませんか」
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