第1話

僕が産まれるよりずっと前、おばあちゃんもまだ産まれていなかった頃のこと。

その話をひいおじいちゃんから聞いたのは、僕が小学校に入ったばかりのときだ。


ひいおじいちゃんが言うには、突然空に大きな穴が開き、まばたきをした次の瞬間には見渡す限りに火の海が広がっていたそうだ。

ドンと来た衝撃にグラつく体を支えれば、周りに響いていた悲鳴がさらに大きくなる。

そこには、見たこともないような武器を持った異形がいて、無抵抗の人々を次々に襲っていた。

無差別に手折られていく命を救う術を持ったスーパーヒーローなんてものはいなくて、いつ自分の番が回ってきてしまうのかと怯えながら、ひいおじいちゃん達は必死に逃げた。


逃げて、逃げて、逃げ回る。

何の残骸かも分からないものを何度も踏みつけて、迫り来る恐怖から逃れようと、すべてを捨てて生にしがみついた。


その先で得られたものなんて、ただの一つもありはしない。

愛した人も、愛したものも、愛するはずだったものもすべて、見るも無残なゴミの塊へと成り下がった。


残り火が燻る灰の街に響いたのは、無機質な機械音声だった。

裏世界の王、そう名乗ったそれが求めたのは、身に覚えのない罪への償いだった。

遠い昔の先祖の悪行に対する復讐のために、自分達は恐怖に支配され、愛するものを奪われたのだ。


不思議と、涙は流れなかったらしい。

悲しみも怒りも凌駕するほどの虚無感に苛まれ、誰もが生きる希望を失いかけた。

明日はおろか、今日を生きることさえも諦めてしまうほどの絶望の中をさ迷うのは、気が遠くなるほど苦しくしんどいのだろう。


歳もまだ一桁だった僕は、その話を聞いてもあまりピンときていなくて、いつものおとぎ話の一つとして聞いていた気がする。

けど、ぼんやりとした目で赤い空を見つめるひいおじいちゃんの横顔は、今でもずっと記憶の隅に焼き付いて離れない。

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