第4話 昼休み
登校を賢人と一緒にするようになったものの、昼飯と下校はなんとか逃げ延びることができていた。
というのも、昼は賢人の回りに女の子達が群がり、お弁当会とやらが開催されるからだ。皆がお弁当を持ち寄り、賢人に食べさせるのであるが、賢人はどちらかというと和食であったり、茶色系統のオカズを好むから、彼女達の作ってくるカラフルで可愛らしいお弁当には今一食指が動かないようだった。
また、帰りは賢人はサッカー部に入り、週三で部活があるし、賢人が部活がない日は弥生が図書委員の仕事を入れた為、帰宅時間がかぶることがなかった。
「渡辺さん」
「……はい? 」
中休みの時間、賢人は上級生の女生徒に呼び出されて教室にはおらず、目の前には同級生の女子が二人立っていた。
この子達は賢人の回りにいるような派手で自信満々なタイプではなく、どちらかというと弥生寄りな気がした。
「渡辺さん、お昼一緒したいなって思って。お弁当だよね? お昼に中庭で一緒にどうかな? 」
「うん、是非! 」
高校初の友達か?! と、食い気味に答えると、二人は良かったと笑ってくれた。
午前の授業も終わり、いつもだったら賢人の取り巻きに弾き飛ばされるように席を追い出されるのだが、今日は自分から席を立ち、若葉達と中庭へ向かった。
「渡辺さんって、何中だったの?」
「うちは南中……南中北中学」
「それってどこにあるの? 」
「練馬区」
ふーんと二人は頷き、それ以上会話も続かず、開いたお弁当を食べる。電車通学とはいえ同じ練馬区だが、今一場所がわからなかったに違いない。
「渡辺さんてさ、有栖川君と中学から同じなんだよね」
「そう(本当は保育園からです)……だね」
「有栖川君って、中学時代からあんなにモテてたの? 」
地味目に見えた二人も、やはり賢人のことが気になるらしい。
「そうだね。モテてたよ(オムツの保育園時代からね)」
「彼女とかいるのかな? あ、私達が聞きたいわけじゃないんだよ。あんなイケメン、うちらには手が届かないからさ。部活の先輩がね、聞いてこいって。ほら、本人には聞けないからさ」
「いない……かな? 特定の子は聞いたことない。でも、噂じゃ色々あったけど」
「何々、噂って? 」
主に賢人と関係したという女の子達の話だ。かなりな人数、賢人とネタと自慢気に言いふらす女子が存在した。先輩から後輩まで多数。それが全部本当で、他にも外部にもいたと考えたら、かなりな人数になるだろう。
ただ、その誰とも付き合ったという話は聞かず、ハーレムを拡大していく賢人についたアダ名が「王子」だった。
「いや、たいしたものじゃないよ。そんなに親しい訳じゃないから、本当のことは知らないし。噂では、仲良くなった女の子はいても、誰とも付き合わないって言ってるらしいし」
「そうなんだ」
「あんなにかっこいいんだもんね、一人の子に絞ったら大変そうだね」
「そうだよ、よっぽどの美少女じゃない限り、取り巻きの娘達にボコられるよ」
弥生の頬がひくつく。
別に賢人とはただのお隣さんだが、友達認定され一緒に登校させられている今、ボコられるまでいかなくとも因縁をふっかけられるれない。
本当に勘弁してほしい。
「それにさ、有栖川君が名前呼びしてるの渡辺さんだけじゃん。先輩達からあの娘何? って、よく聞かれるんだよね。呼び出しとかされないように気をつけてね」
「ただの同中なだけなんだけど……」
「「だよね。」」
いかにもその通り! とハモる二人に、弥生は強く頷いた。
「ところでさ、私達も弥生ちゃんって呼んでいい? 私は若葉、こっちは楓でいいよ。うちらも同中なんだ」
「うん、うん、よろしくね。若葉ちゃん、楓ちゃん」
高校初友ゲット!
ホンワカ笑顔で小柄な若葉と、優等生っぽい楓。
最初は賢人のことが目的で話しかけられたんだろうけど、それで友達がゲットできたのなら、今まで「賢人の幼馴染みで最悪! 」とすら思っていたが、今回は賢人様々だ。
「弥生、ボタンとれそう。縫って」
いきなり後ろからなにやら布が降ってきて、一瞬真っ暗になる。香水? トワレだかコロンだかわからないが甘めな香りにクラリとする。嗅ぎ慣れたこの香りに、弥生はため息しかでない。
今、ここで声をかけないで欲しかった。
「針と糸ない……です」
頭に被せられた賢人の学ランを取り去り見ると、袖口のボタンがプラプラしていた。
「わ……私! ソーイングセット持ってます」
若葉がポケットからソーイングセットを取り出した。見た目のホンワカ感を裏切らない女子力だ。
「へー、さすが女の子」
ソーイングセット持っていない弥生は女子じゃないと言いたいのか?
賢人はひょいとソーイングセットを若葉の手から取り上げると、そのまま弥生に手渡した。
「はい、つけて」
若葉のソーイングセットなんだから、若葉につけてもらえばいいではないか! ……とは言わずに、弥生は借りるねと一言言ってから慣れた手つきでボタンをつけ直した。
「できました」
「ああ」
ありがとうもなく、当たり前だと言うように学ランを受け取った賢人は、そのまま三人を置いて校舎に戻ってしまった。
「「弥生ちゃん!!! 」」
「はい!!! 」
「「た……ただの同級生だよね??」」
「もちろん! 」
食い気味に言った弥生に、あまりに綺麗にハモった若葉と楓は微妙に納得がいかない様子だった。
ただの同級生以外のどんな関係があるんだ! と、弥生はムカムカが押さえられなかった。
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