お弁当
青年はお弁当を作る歌をハミングしながら料理をしていた。卵で作った星の飾り、様々な可愛らしいキャラクターを模したおかずで彩られたお弁当。朝の番組で、キャラ弁特集を可愛い物を好んでいる先輩が羨ましそうにじっと見ていたのを交換した盗撮カメラで知り、キャラ弁を作るようになった。本屋やネットでレシピをかき集め、何度も練習を繰り返した。
今日は囚人服を着たウサギのキャラクターに、卵で作ったトリを乗せ、チーズで作った子グマでケチャップライスを包む。可愛い見た目、栄養も抜群。味も味見で保証済み。喜んでくれるだろうか。
きっと誰もいない事を確認してから携帯のカメラで撮って、へにゃっと笑うのだろう。可愛くて顔が崩せなくて悩んで悩んで、おかずのタコさんウィンナーや付け合わせのハートにしたポテトサラダを食べて、ずっと困って悩んで「……ごめんなぁ……」なんて謝ってから、箸で摘まんで少しずつ食べるんだろう。
ああ、なんて可愛い人なのだろうか。そんな事を想像しながら、丁寧に丁寧に弁当に彩りを加えていく。
「おはようございます先輩」
完成した弁当箱に蓋をして、するすると薄緑の布でお弁当を包み、同色で水玉模様のランチバッグに入れて独り言ちる。箸と水筒だけを鞄に入れて、今日もきっと彼女は時間通りに家を出る。それを想像すれば頬が勝手に緩む。
可愛い。本当にどこまで愛しい人なのだろう。そう思いを馳せ乍開いたままのノートパソコンのマウスを動かせば、再び起動したフォルダから現れた動画。二十代前半の女性が目を擦っている。緩慢な動きでベッドから降りて、洗面台へと消えていく後ろ姿を矯めつ眇めつし、『料理作りすぎちゃう男子』を装う青年は更に笑みを深くした。
後輩の食事情(9/16更新) 狂言巡 @k-meguri
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