第5話 ロボケン・ミッション!!
予報通りの快晴に恵まれた土曜日。
体育祭まで、残り七日。
早朝、僕は家のリビングで、母さんがつくってくれた朝ごはんを食べていた。
白飯、味噌汁、焼き魚。母さんは料理がうまい。基本的に何でもつくれてしまう。
「汰一さん お味はどうですか」
母さんが訊いてくる。リビングからすぐ見えるキッチンで母さんは、父さんの分の朝食をつくりながら、顔面のディスプレイに(・v・)?という表情を表示している。
改めて考えるとロボットなのに料理がうまいのすごいよなー、と思いつつ「おいしいよ。ありがと」と返事をする。
「ふふ お父さんに似て 素直な子に育ってくれて お母さん 嬉しいわ」
「父さんが素直? ひねくれてるような……」
父さんはこの場にいない。まだ七時だから自分の部屋で爆睡しているのだろう。
「あら お父さんは 素直ですよ まっすぐなひと」
「そうなんだ。確かに、そうかも?」
「ただ 変な方向にまっすぐすぎる というところは あるかもしれないわね」
「あー……」
なんとなく、神宮寺芽露先輩のことを思い出している。先輩もすごい方向へと突っ走りがちだから……。でも父さんの爆走と先輩の激走はまたタイプが違うような気がする。うまくいえない。とにかく、父さんの方がバカっぽいのは確かだ。
そんなことを考えていると、つけっぱなしのテレビが朝のニュースを始めた。
《七時のニュースをお送りします。》《テニス女子ダブルスで日本選手が優勝……》《厚生労働省は最低賃金の引き上げを……》《G20は新たな国際課税のルールを巡って……》《地球温暖化の影響で……》《台風十七号が……》
「……母さん」
「なあに 汰一さん」
「ここ数日、アメリカの土地消滅のニュースでもちきりだったのに、いきなりやらなくなったね」
「そうね」
「……」
「……」
漠然とした不安が喉の奥からせり上げてくる。僕は味噌汁の残りを一気に飲み干して、息をついた。母さんの味噌汁がおいしい。それだけで、沈鬱な気持ちも、なんとか呑み込んでしまえる。
◇◇◇
昼になった。
家の中で鳴り響くインターホン。
自分の部屋でくつろいでいた僕は立ち上がり、一階まで降りて、玄関の扉を開けた。
「おはようございます」
「おはよう志摩。来たぞ」
神宮寺芽露先輩は私服の上に白衣を着ていた。白衣、何着持ってるんだろうな、と思いながら僕は「上がってください。父さん呼んできますから」と言って二階に戻ろうと振り返る。
目の前、至近距離に、父さんのもじゃもじゃ白髪があった。
「わ。父さん」
「お、少し驚いたのう。サプラ~イズ。どうじゃ、気配を消して近づくのも巧くなってきたじゃろ」
「そんなこと巧くなってもしょうがないと思うよ」
「お邪魔します。志摩のお父さん、今日はよろしくお願いします」
先輩の挨拶に、父さんは「ふぉっふぉ」と好々爺っぽい笑い声をこぼした。
「わしのことは親しみを込めて、博士と呼びなさい」
「先輩。博士と呼んであげてください。父さんは話し方から笑い方まで、博士っぽく振る舞う練習を陰で頑張っているんです」
「バラすなよじゃぞい!?」
「バレたくなかったの? ごめん。でも、努力は知ってもらった方が報われると思う」
「この息子は曇りなきまなこでそういうこと言うからのお~」
リビングに行き、三人で四角いテーブルにつく。父さんが「さて」といきなり本題を切り出した。前置きもなしとはいえ、僕も先輩も、一番言いたいことをすぐ言うタイプなので、嫌な感じはしない。
「今日、神宮寺ちゃんが我が家へ来てくれた理由。それはわしのロボットエンジニアとしての知識や技術を提供して欲しいから。そうじゃな?」
「はい! うちのイヴちゃんを、体育祭の部活対抗リレーで走れるくらいのめちゃつよロボットにしてほしいです!」
「ふぉむ。例えば、こんな風にかの?」
父さんがキザっぽく指を鳴らす。
それを合図に、ウィ、ウィーンという駆動音とともに母さんがリビングに入ってきた。
今朝までキャタピラだった母さんの下半身は今……
モデルみたいにスラッとした、人間を模した脚部に換装されていた。
「ウワーーーー!?!? めっちゃ美脚!?!?」
母さんは顔のディスプレイに(^^)と表示して猛ダッシュし、壁に足をつけて走った。
「えええええーーー!?!?」
母さんは(^^)という表示のまま床に着地してコサックダンスをした。
「ウワアアアアーーーーー!?!?」
母さんは(^^)のまま竜巻旋風脚を放ってそこにあったサンドバッグを破壊した。
「ウオオオオーーーーーーー!?!?!?」
「ふぉふぉ、さすがは母さんじゃ」
「さすがっていうかオーバーテクノロジーだと思うんだが!?!?」
「ふふ 褒めてくれてありがとう でも 改造してくれたお父さんのおかげよ」
「わしはキャタピラの母さんが好きなんじゃけどな」
「もう あなたったら ふふ」
「なにこれ」
「そういうわけで、神宮寺ちゃん。わしはちょちょいのちょいで超高性能二足歩行ロボットをつくることができる。おぬしのイヴちゃんも、わしのサポートさえあればリレー競走にも勝てるようになるはずじゃ。そして。わしはおぬしらに協力することもやぶさかではない」
「お、おおっ! やった! それじゃあ……」
「ただし」
父さんがニヤリと笑って身を乗り出し、僕らに顔を近づけた。
「条件がある」
「……!」
先輩も身を乗り出して、望むところだが! とでも言いたげに不敵に笑った。僕も先輩の真似をしようとしたが、どうやって望むところですみたいな顔をすればいいのかがわからず、ただ身を乗り出しただけになった。
「博士! その条件とは……?」
父さんは「ふぉふぉふぉ……」と笑って、金属製の小箱を三つテーブルに並べた。
「汰一、そして神宮寺ちゃん。おぬしらには三つの指令をこなしてもらう」
「三つの……」「指令……?」
「これらの指令を完遂した時こそ、おぬしらを一人前と認め、わしの知識と技術を授けようぞ」
先輩が小箱をひとつ手に取る。両手に収まる大きさのそれは、〝①〟と書かれている。
スイッチを押すと、箱がジジジと唸り、変形を始めた。
小箱の上の空中に、ほんの小さな立体映像が浮かび上がる。
「な、なんだこれ!? さっきから見たこともない技術が……、むっ、これは!」
先輩が気づき、僕も目をしばたたかせた。映像には〝指令①〟の内容が表示され、小刻みに明滅している。
僕と先輩は、声を揃えて読み上げた。
「『服屋にてお互いに似合う服を選び、愛を込めてプレゼントし合え』……?」
父さんと母さんを見る。
ふたりは、ウインクしながら親指を立てていた。
「尊い思い出、つくるんじゃぞ」
「「だから付き合ってないってば!!(んだが!?)」」
こうして、僕と芽露先輩の、仕組まれたデート(もどき)が始まったのだった。
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