第2話 ロボケン・エモーション!!
僕の話を少しだけしようと思う。とはいっても、僕について語れることはさほどない。大した人生を送ってきてはいないからだ。名前は
よく言われることといえば、「志摩って、表情が薄いよね」というのもある。
確かに、僕は表情を変えることが苦手だ。
昼休みの教室で一緒に食べている友人が声を立てて笑った時、僕も、今は楽しい場面なのだなと思って笑ってみた。すると友人には「無理して笑ってない?」と心配された。
嫌われ者な世界史の教師に抜き打ちテストを喰らった時、周りはえぇ~嫌だ~という反応をしていたので、僕もしかめっ面をしてみた。すると教師には「ほら、おまえたち。全然嫌そうにしていない志摩を見習いなさい」と持ち上げられた。
原因を探ってみると、どうも僕は他の人より感情の動きが鈍いらしいと気づいた。みんなが笑う時に笑えず、泣く時に泣けず、怒る時に怒れない。フラットなのだ。ただ、別に気分が常に落ち込んでいるわけではない。むしろ気力は毎日充実している。
単純に、わからない。
どうしてみんなはあんなに感情豊かになれるのだろう。
うらやましいなと思う。
僕には感動する才能がない。
古文の授業で、大昔の人が詠んだ詩歌を勉強した。
その人は、ただの風景に感動を覚えて、思わず詠んでしまったのだという。
僕も、そんな小さなことに感動をしてみたい。
胸を突き動かすほどの強い感情に支配されてみたい。
「じゃあ志摩くん、ロボ研に入りなよ」
そう言ってくれたのが、
部活見学の時に、自分の悩みを話した後のことだった。先輩から「新入部員くん。何か悩んでるだろ」とズバリ言われて、そこからの流れで悩みを打ち明けることになったのだと記憶している。まだ見学なのに新入部員呼ばわりされている時点で強引な勧誘であることは否めなかったが、それでも、先輩の言葉には偽りがなかった。
「ロボ研ではAIの研究もたまにやるからな。人の感情についても学べる。それだけじゃないぞ。ロボット製作は、人を感動させることができる、すごい創作活動なんだ」
「僕は感動したいんです。他人を感動させたいわけじゃない」
「人を感動させるには、行動や思考をコツコツと積み重ねる必要がある。頑張って頑張って、失敗しても立ち上がり続けて、ようやく形になったものこそが、人を感動させることができる。志摩くん、何かそういったことを成し遂げたことは?」
「ない……ですけど」
「わがはいは、あるぜ。初めてつくったロボットは、モーターで壁伝いに自走しながら音楽を鳴らすなんかよくわからないやつだった。でも、それを見たお父さんが褒めてくれたんだ。芽露は天才だ、パパ感動したぞ、ってさ。その時、わがはいは……筆舌に尽くしがたいほどに、感動したんだ」
徐々に、先輩の言わんとしていることがわかりかけてきた。
瓶底眼鏡の先輩の唇が、結論を紡ぐ。
「感動を知りたいのなら、誰かを感動させることだよ。なあなあで生きてちゃ、感性は育まれない。誰もが感情を動かすことのできる才能を持っている。そして才能とは、行動によって花開くものなんだぜ」
先輩は「はいきた名言!」と自画自賛し、入部届を差し出してきた。
勢いでそれを受け取るが、サインするかどうかまでは決められない。
しかし、受け取ったことで入部の意思があると思ったのか、先輩は、にへらっと笑った。
「お~、神宮寺先輩様のお言葉に感動しちまったかな~?」
ひょっとしたらそうかもしれない、と思った。
先輩の言葉を聞いた時の、心の底がこそばゆいような感覚、これが感動なのだとしたら。
僕は「感動してませんよ」と言いながらも、入部届にサインした。
まっすぐな言葉を恥ずかしげもなく言える、この先輩と一緒に過ごしていれば、もしかしたらと思ったからだ。
僕の話を少しだけ、と前置きしておきながら長くなってしまった。このくらいにしておきたい。
というか僕じゃなく先輩の話になってしまった気がするな。
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