第29話 星と魔術師と六人のスキンヘッド。情熱の一打ちは陽炎を呼び起こす

 か、鍛冶屋だって〜〜〜! この薄暗い住まいの中にとんでもない工房があったってもんだ! 何かから隠れているのだろうか? だとしても辺鄙な場所過ぎる。


「おー!! 姉ちゃんよ!! お前にどんな事情があるかは知らねえが! シャーリーの使いとあらばま巻き込まれたも同然よ!! いいか? おめえが持ってきたのは特殊な魔鉱石だ。普通は魔法剣を作る際、剣を打つ金槌に魔力を込めたり、後で印を刻んだりするのが一般的だ!! だがな……今回の仕事はチーッとばかし俺らの手に負えねえ。そこで頼んだのがこの鉱石っちゅーわけよ!!」


 ほうほう、鍛冶屋の仕事なんて普段はお目に掛かれない。そうやって魔法剣を作るんだなぁ。ついでにホッシーも打ってくれないかな。


「だがな、鍛冶屋が魔鉱石に頼るってのは如何せんプライドが許さねえ。俺らは魔力を込める事に関しちゃ超一流でなくてはいけねえんだ! 最初っから魔力の石に頼るのなんて言語道断だぜ!!」


 へー、だったらいつも通り作ればいいのに。事情があると見たぞ。


「でもよ、今回は何たって勇者様相手だ。しかも護身用の剣ときた。並の適当な中途半端な魔法剣なんて作れやしねえ、これは一個人のプライドなんかで打っちゃいけねえ物なんだ。全部を捨ててでもよ、最高の剣を作らなきゃいけねえんだぜ!」


 あーね、中身を見たら死ぬってそういう事ですか。呪いのアイテムとか、裏組織に密輸品とかそういうのじゃ無く、あんたが突進してくる系ですか。


「日数も残り少ねえ! 最高の火力で一気に終わらせる。それしか手は残されてねえんだ!! お前の手伝えよ。その為に余分な依頼料を払ったんだ! てっきりシャーリーの奴が来るかと思ったが……まあいい! ただ炎を出すだけ。そのくらい出来るだろ?」


 あ、なるほどのね。シャーリーさんはこれを読んでいたのね。納得。


 (むむむ、継続して出すのくらいは出来なくもない。飛ばすのよりは圧倒的に簡単だし。問題は火力の方なんだよなぁ)


 悩んでいると、バッグの中からホッシーが合図をかけてきた。どうやら中にあるメモ帳とペンを使い、文字を書いた様だ。


(えーっと、なになにー……火力は私の魔力を送るから十分、か。なるほど……)


 ホッシーは意外にも魔法に精通でもしているみたいだ。

 そういえば、忙しくてまだじっくり話をした事がなかったな。今度一対一でじっくり会話してみるか。


「私で良ければ、協力します」


 ていうか勇者様って言ってなかった? さらっと会話に混ぜていたけど、聞き間違いでは無いだろうか。豆腐用とかではなくて。


「おうその意気よ!! なら早速着替えてもらおうかな。ほら、そこに更衣室がある」


 案内されるままカゴだけの部屋に入る。革で作られたエプロンと、耐火用の熱い防護服。肘まで伸びたグローブを装着する。もしかしたら一生で一度の体験かもしれない。


「ちょっとホッシー。本当に大丈夫なんでしょうね?」


 バッグからちょこんと星を覗かせている金属。彼女はグッと鋭角を縦に立て、大丈夫だぞとポーズを決めた。


「安心したまえエーフィー。炎はファイの延長線上で構わないよ。そこに私の魔力を送り込めばあら不思議、マグマの如く灼熱の炎の完成さ! 大丈夫、この前教えた時に感覚が蘇ってきたんだ。どうやら私は魔法が使えるみたい。もしかして、記憶が無い前は美少女魔法使いだったのかもね!」


 えっへんと自身の程を見せる星に、少しばかりの安堵を覚えた。とにかくやるしかない、我が相棒を信じるしか無いのだ!


 ☆


「うおおおおおお!!!! あっっっちいいいいぜえええええ!!! いい感じで火起こしするじゃねーか姉ちゃん!! もっと!!! もっとだ!!! 全部を出しきれええええ!!」


「うおおおおおおお分かりましたあああ!!!!」


 現場はまさに修羅。

 開放的な空間で、入口出口が外に繋がっている工房の元で、一人の少女と6人のスキンヘッドの戦いが始まっていた。

 彼らは厚い鉄をひたすらに打ち続け、合成し、またひたすらに打ち続ける。いい加減形が出来上がったら水に浸し、剣になるべき刀身を磨き上げ、形を彩る研磨を繰り返す。


 魔術師の戦いも想像を絶する物であった。


 割と髪がこげるくらいの至近距離で炎を出し続け、灼熱の炉をさらにヒートアップさせるのだ。休むことは許されず、ただひたすらに炎を繰り出すのみ。

 だが、魔術師は自分の心の変化に段々と気づき始める。自分が魔術師として役に立っている現実もそうだが、この作業自体が一種のアトラクション。勇者の剣を作るほどの職人と、共に作業をする快感。彼女の頭の中も段々とヒートアップしていくのであった。


「おう!!!! おめえら飯の時間だ!!! 今日はキンっきんに冷えまくった素麺だ!! 麺汁はエーレとびっきりの高級だし汁を利用した贅沢もんだ!!!! ありがたく食ええええ!!」


 雄叫びを上げたテンションブッパした6人は行儀よくテーブルに付き、唯一のクールダウンである素麺をすするすするすすりまくるのである。


「ずるずるずるずるずるーーーーーーーおいっしいいいいいい!!!!」


 暑くなって汗びっしょりの体内に唯一の冷却材が投入される。それはまさにパラダイス。史上最高のマッチポンプである。


「おおおお姉ちゃんいい食いっぷりじゃねえか!!! 午後も頼むぜえええええ!!! 」


 作業は夜通し、それから朝までノンストップに繰り返される。

 彼らの心は炎より熱く、そしてキンキンに冷えた素麺よりも冷静だ。それは職人の極地、究極の集中力を研ぎ澄ませた頂き。


「いただきまああああああっすずるずるずるーーーーーあっはああああああああ! !!!この薬味もサイッコーーー!!」


 仄かに辛く、かと言って舌に残らない儚さ。

 世の中のわびさびをこれでもかと経験仕切った様なツンと来る刺激。だがファーストインパクトは極上の香り。これこそ究極。


「いいいいいだろおおおおその薬味よおおお!!!! まだまだ素麺はたあああくさんあるぜーー!! 飢えた体に補充しやがれええええ!!!」

 

 盛大な雄叫びを上げた7人はひたすらの作業を進めた。

 不眠不休を制したのは、紛れも無い団結力。


 かくして六人のスキンヘッドと一人の少女、端で見守ってる星はついに勇者の剣を完成させるのであった。

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