第24話 接待は疲れる
時刻はおやつ時である。今日も元気にサンドイッチと言いたい所だが、お客人が来ているのでしっかりとおもてなしをしなければならないのだ。
テーブルの上を綺麗に布巾で磨き上げ、来客用のティーカップを椅子の数だけ並べる。普段あまり出さない数なので、一応もう一度洗っておいた。念には念をなのだ。
「あらエーフィー、準備がいいわね。お湯はもう沸かしてあるのかしら?」
「準備万端です! お菓子ももう並べてありますよ!」
すると、エーデルは遠くに向かい、お茶の準備が出来てることを鑑定団に伝えるのであった。
––––ふぃー、エーデルさん、疲れましたぞい。
––––流石はマーフィーの遺産ですな。珍しいものばかりで目が回りそうですぞ。
––––お、彼女がマーフィーの御親族ですかな? 何と見目麗しい。
––––噂には聞いていたが、ここまで可愛らしいお嬢さんだとはの。息子とお見合いしてはもらえぬだろうか。
慣れてない愛想笑いを浮かべ、必死に老人達の話に耳を傾ける。
これも借金の為なのだ。我慢我慢。少しでも査定額を上げて貰わなければ!
どうやらお茶とお菓子は大変好評なようで、エーデル院長も若干頬を緩ませていた。こっちは緊張しすぎて味が分からなかったと言うのに。
「ささ、皆様ここいらで休憩はおしまいにしましょう! 残りも後少しです。頑張りましょうね」
やけに話しかけてくる老人の相手も疲れた頃、ナイスなタイミングで助け舟を出してくれて感謝である。接待とはこうも大変なものなのかと、世の中の厳しさが垣間見えた瞬間でもあった。
そこから数時間後
やっと鑑定団の人達の仕事が終わり、最後の挨拶を済ませた。
一体幾らになったのだろう。焦燥感に駆られるが、まずは協力してくれたエーデル院長を休ませないといけない。
「ありがとうございました。だいぶお疲れのようですね? 家でゆっくりして行きますか?」
「……ええ、数字と言葉との戦いで少し目眩がします。お言葉に甘えさせて貰おうかしら」
院長は気分が悪そうで、顔色も少し青ざめていた。
自分に出来る事なんてご飯を作るかお風呂を入れるくらいしか出来ないが、それでもしないよりかはマシだろう。
「でしたら、まずはお風呂に入りましょう。掃除してきますね! 居間のソファーでくつろいでいてください!」
冷静に考えてみれば、エーデル院長とこうやって長く共にするのは初めてである。
大叔母様がたまに家に呼んでいたのだが、幼い頃の自分はなんか怖そうな人だと敬遠していたのだ。実際間違っていなかったのだが。
院長を風呂に浸からせてる間、簡単な軽食を用意するとした。まあサンドイッチしか作れないのだけれどね。でも胃に負担が掛かるのは避け、なるべくヘルシーに済ませよう。キノコのサンドとか良さそうだ。
しばらくして、ボーッと惚けた表情をした院長が居間にやってきた。目をキョロキョロさせており、どこに座ろうか判断しかねているみたいだった。よく来ていたとはいえ、人の家だし勝手が分からないのだろう。
「ソファーに座ってください。キノコサンドを作ってみましたけど、食べます?」
「ええもちろん。キノコサンドね……何だか懐かしい。マーフィーもよく作ってくれたわ」
そういえば、大叔母様が若い頃を院長は知っているのだ。
昔の事はあまり語ってはくれなかったから、大叔母様がどのような人だったのかあまり知らないのである。これはチャンスなのでは?
「へぇ……‼︎ 大叔母様の昔の頃って何だか想像できない。どんな人だったのですか?」
「若い頃……ね。そりゃあもう、破天荒なんてもんじゃなかったわよ? 魔法の才能をずば抜けてたし、美人だもの、男性からのお誘いなんて毎日後を経たなかったのですよ?」
何それスッゲー興味ある。もっと聞きたい。
でも、イメージと全然違うのだ。やはり年齢を重ねると人は大人しくなるのだろうか。
「私が知ってるのは、大人しい大叔母様だけですから。そんな時期があったなんて驚きですよ!」
「……マーフィーはね、魔王討伐の任務から戻ってきてからすっかり人が変わってしまったの。なんと言うか、人を避ける様になったわ」
「え? そ、そうなんですか? 何か嫌な事でもあったのでしょうか」
あの物腰柔らかな性格は後天的なものらしい。
でも確かに、自分や院長以外の人に笑顔を向ける所を見た事がない。
「まあ、あったのでしょうね。問い詰めた事もあるけれど、結局教えてくれなかったのよ。泣きながら謝られた時なんてどうしようかと思った」
エーデルは深く息を大きく吸い込み、さらに言葉を続ける。
「でもね、とても不思議なのだけれど、マーフィーが亡くなる数ヶ月前から、彼女が昔みたいな笑顔を見せてくれる様になったのよ。確か丁度貴方がファイの魔法を唱えられる様になった時ね。驚いたわ。普段の笑顔とは全然違うんだもの」
「あ! それ覚えてます。私も不思議だなぁって感じてたんですよ。何か安堵した様な……そんな表情でした」
「ええ、そんな感じでしたね。……何十年ぶりに見せたかと思ったら、もう会えなくなるなんてね……未だ実感が湧かないの。もしかしたらひょっこり戻ってくるかもって心の片隅にあったのだけれど、こうして遺産を整理しているとね。ああ、本当にもう帰ってこないんだなって、肌で感じてしまいましたの」
それで気分が悪くなってしまったらしい。
「……そこまで想ってくれているから、こうやって力を貸してくれてるんですね。感謝します」
頭が上がらない。
同時に、自分の無力さを改めて痛感する。
その後キノコサンドを頬張り、気分が落ち着いたからと、院長は箒に乗って颯爽と帰って行った。
金額については一週間後にしか分からないらしいので、大人しく待つことにする。
「その間に仕事を探さなきゃ。コリーさん、会ってくれるよね……?」
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