第8話 変な夢見た

「って、一緒のベッドに寝る気?」


 今日の作業はここまでとして、一旦寝室の方まで移動し、寝巻きに着替えた。なんだか夜にこの部屋で誰かと会話するのなんて、とても久しぶりなのだ。まあ星だけどさ。


「良いじゃないか、私もふかふかのベッドで眠りたいよ! 人肌の温もりに触れたいのさ」


 金属って人間みたいに体温管理あるのだろうか。しかも人肌の温もりって要は私に密着したいということ、なんか言い方が妙におっさん臭いなこの星。


「ホッシーってさ、性別は? 男? 女?」


「それが分からないんだよね、何でかな?」


 分からないと来たか、そう答えられれば追求することなんて出来そうにない。まあ一人称が私って言うくらいだから女性なのだろう。


「ええー、それって……まあ良いか。でも密着しないでよ、冷たいんだから」


「はいはーいっと、全くエーフィーは冷たいなぁ」


「良いから寝るよ、疲れちゃった。じゃあ明かり消すね」


「うん、おやすみ、エーフィー。良い夢を」


「はーい、おやすみー」



 ここは、どこだろう。

 石の壁に、赤い絨毯。奥の大きな扉の手前で、真っ赤なもやが四つ佇んでいる。

 その姿は、いかにも何かを守っている様で、攻撃的だ。

 あれは、憎しみ、怒り、そう言った類の色。こちらを向いてると言うことは、対象が自分なのだろう。

 嫌だな、もう見たくないな。辛いな。

 自分の思考とは裏腹に、別の感情が胸の中を行き来する。あまり心地良いものではない。


「お前らも、どうせ同じだ、同じなんだ。だったら消えて無くなれば良いのさ」


 心にも無い事を言ってしまう。

 でももう分かっているんだ、何をしても無駄だって事。

 この力のおかげで、凶暴な自分が出来てしまったんだ。理性で止めようとしても、無駄なのさ。

 だから、自分は今日も世界を壊し、人を壊し、自分も壊す。


「助けてよ」


 言葉が出てきた頃には、目の前の物体は跡形もなく消し飛んでいた。いつもの風景、変わらない日常。


「また、届かない」


 おかしな色が目の前を飛び交う。

 どうしていきなりこんな夢を見る? 

 何かの暗示かな? 自分? 誰?



「は! ……朝か」


リンゴーン

リンゴーン


 家のベルが鳴り響いていたからだろうか、叩き起こされた感触が頭から離れない。

 こんな朝早くにここにくる人なんて限られている。恐らく、シーナだろう。


「ふぁああ、ちょっと待ってて〜」


 ベッドの上の方の水晶型のスイッチを押し、外の人に反応してますと合図を送る。これで無碍にお客人を追い返さずに済むと、大叔母様が発明して設置したのだ。


「ああ〜寝巻きのままでいいか、友達だし」


 それでも一応薄めのカーディガンは羽織っていく。春とはいえまだ冷える、シーナを招き入れてシャワーでも浴びよう。その後は至福のコーヒータイムだ。


「あ、そういえばホッシーは? まだ寝てるのかな?」


 ベッドの毛布をめくると、星が大の字でいびきをかきながら鼻ちょうちんを作っていた。一体どんな原理でそんな芸当が出来るのだろう。解剖して確かめてみたい所である。


「冷静に考えてみれば……とんでもないやつと出会ってしまったわね……。大叔母様もどこで見つけたんだろう」


 なんとも不思議な生き物である。ていうか生き物? 


「まあそれよりもシーナ迎えに行くか」


 急いで玄関の扉まで歩き、扉を開けた。


「おはようエーフィー! 昨日は大丈夫だったの?」


 昨日、昨日か。

 祖母のギャンブルのツケを払わせられる状況に陥り、家の私財を売り払うハメになり、住む家すら追い出されそうになり、軟体な星形金属と大叔母様の願いを叶えなければいけないと使命を帯びた昨日の話しのことである。


「はぁ〜、それがねー、その前に上がりなよ。先にシャワー浴びてきていい?」


「え……、そんな大変な事なの? ま、まあどうぞお先にシャワーを浴びてきて下さいな。髪の毛ボッサボサだよ? せっかくの美人さんが台無しだ!」


「ありがとう、朝ごはん食べる?」


「うん! まだ食べて無いから食べる〜。それなら台所借りていい? 私が作るよ!」


「え、いいの? 悪いね……お願いしていいかな?」


「まっかせてよ! それじゃあお邪魔しまーっす」


 んんんん?

 あれ? なんかシーナの周りが黄緑っぽい色を放ってるんだけど……目の錯覚かな?

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